kuzu
首ったけ!2nd
これが私たちの本来の仕事

「オイ止まれ!てめぇに言ってんだ聞こえねぇのかこのクズ野郎!今すぐ止まれ!ロッド・レイスお前だ!このチビオヤジ!!」



ロッド・レイスの巨人に追いついた私達は、エレンの"巨人を操る能力"とやらを頼りに、この巨人の進行を阻止しようと試みる。この"叫ぶ"ことが鍵となっているらしいが、事態は何も変わらない。って言うか何だ"クズ野郎"って、何だ"チビオヤジ"って…まるで私とへい、



「止まれ巨人!止まれ!止まれ!」



今度は右ストレートも加え、エレンは叫び続けた。しかし効果は現れず巨人はノロノロと壁の方へと向かって行く。そこへ見知った顔が見え、私は緊迫した状況であるにも関わらず思わず頬が緩んだ。



「エルヴィン団長!!」
「久しぶりだなナマエ。…皆無事か?エレンとヒストリアも居るな…。よくやった。」
「だが相変わらず状況はクソだ。エレンの叫びは効いてねぇ。報告することはごまんとあるがまず、お前の意見を聞かねぇとな、団長。」




挨拶もそこそこに、団長は兵長と私達…リヴァイ班全員の顔を見て、頷いた。



***



「あの巨人をこのオルブド区外壁で仕留めます。そのためには、囮となる大勢の住民が必要…彼らには緊急避難訓練と称しいつでも逃げられる態勢を整わせておいて、我々は仮に目標を仕留め損なったとしても、一人として死傷者を出さぬように尽くしましょう。それこそが我々の存在意義です。」
「…………。」



この状況を見て作戦を立てた団長に、最初こそ楯突いていた駐屯兵はとうとう返す言葉がなくなった。ハンジさんと共に兵長達と合流したのが、もう随分昔のことのように感じる。人を殺せ、の次は巨人を倒せ…か。これが私達の本来の仕事であるし、ここで巨人の進行を許してしまえば今度こそ、私達は終わる。



「目標はかつてないほど巨大な体ですが、それ故にノロマで的がデカイ。壁上固定砲は大変有効なはずですが、もしそれでも倒せない場合は…調査兵団最大の兵力を駆使するしかありません。」


"全てを賭ける覚悟"をして、私はジャケット左胸にプリントされた、自由の翼をきつく握りしめた。



***



「あんだけ色々あっても、まだこの一日が終わらねぇなんて…。」



オルブド区壁上から町を見下ろしながら、ジャンが言った。



「ここさえしのげば先が見えてきそうなのに…しくじりゃあの巨人とこの壁ん中で人類強制参加型地獄の鬼ごっこだ。…….俺はただ、言いたいことも言えずに、」
「それ、私のせいなの。」
「!…ヒストリア!その格好…ダメじゃないこんなところに来ちゃ!」



ジャンの言葉を遮るようにして、ヒストリアが颯爽と現れた。その小さな体には立体起動装置が装備されていて。安全なところで待機命令が出された彼女がこんなところに、そんな格好で居て良いわけがない。そう嗜める私をよそに彼女は真っ直ぐと兵長と、そして私を見つめた。



「逃げるか戦うか、選べと言ったのはリヴァイ兵士長あなたです。そして、そんな私の背中を押してくれたのはナマエさんです。」
「「………。」」



ヒストリアの言葉に何も言えなくなり、兵長を見る。珍しく兵長と考えが一致したようで、兵長は少し困ったような、面倒くさそうな顔をして呟いた。



「あぁ…クソ、時間がねぇ。来るぞ。」



巨人は、もうすぐそばまで来ていた。



***



「撃てー!」



駐屯兵の合図で、壁上固定砲は次々と火を吹く。しかし、巨人の姿をした
ロッド・レイスは砲撃の雨の中をノーダメージで突き進んで行く。



「そんな…固定砲が効かないなんて…。」
「壁上からの射角にしたって、大してうなじに当たってねぇじゃねぇか。どうなってる?」
「寄せ集めの兵士、かき集めた大砲、付け焼き刃の組織…加えここは北側の内地だ。ウォール・ローゼ南部最前線の駐屯兵団のようにはいかない。だが今ある最高の戦力であることは間違いない。」



私達の不安に団長が答える。…そうだ。今の現状を嘆いたってどうしようもない。今できる、最大限のことをしないと。自分たちの命を投げ打ったって、人類が救えるのなら……。



「それは重々承知している。なんせ今回も俺ら調査兵団の作戦は博打しかねぇからな。お前の思いつくものは全てそれだ。」
「…ああ。リヴァイの言う通りだな。実は他にも色々と考えている…。これを聞いたら、お前はまた博打だと呆れるだろうな。…まぁそれも、この場を回避出来たらの話だが。」
「何のことだ?」



何やら他にも考えがあるらしいエルヴィン団長に、兵長が尋ねる。しかし団長は「その話は後だ。」と視線を巨人に戻した。一体、何だって言うんだ。しかしそこへ火薬やロープ、ネットを集めてきたハンジさんが現れたため、私達は話を中断せざるを得なくなった。



「で、砲撃の調子はどう?」
「蝉の小便よか効いてるようだ。」
「じゃあ本当にコレ使うの?」
「もちろんだ。ではリヴァイ、ナマエ、ジャン、サシャ、コニー、あちら側は任せた。作り方は…そうだな、靴下に石を詰めた鈍器のイメージだ。」



団長の指示に従い、私達は行動を開始する。巨人はもう、壁の真下まで接近していた。



「撃てー!よし、うなじの肉を捉えてる!次で仕留めるぞ、装填急げ!」



駐屯兵の大声が聞こえ、まだまだ安心出来る状況ではないけれど少しだけ104期達にも安堵の色が見えた。もし、次の砲撃で仕留めることが出来たら。それが無理でも、今私達が作ってる、これで仕留めることが出来たら…。


しかしその瞬間、風向きが変わり巨人の蒸気が一気に私達を襲った。それは壁上を覆い尽くし、固定砲さえもその機能を失ってしまった。そしてそれと同時に、巨人が壁に手をかけて起き上がった。壁から顔を出した巨人に、住民はこれは避難訓練ではないと気付き大混乱に、駐屯兵団さえもなす術がないと嘆いた。そんな中、私達だけがただただ冷静に次の手を考えていた。…こんなところで、諦めてたまるか。私はまだ、果たさなきゃならないことがあるんだ。礼拝堂に突入する直前、兵長が私にかけてくれた、あの言葉を……、



ーーバシャ!!



「下がってろ駐屯兵団。後は俺たちが引き受ける。」



頭から滴り落ちる雫に視界を遮られながらも、兵長を見る。バケツを片手に持った兵長は、濡れた服が体に纏わり付いていて、服の上からでも鍛えられた体を垣間見ることが出来た。み、水も滴るいい兵長…。……あれ、前にもこんなことあったような…?って言うか、何で私まで濡れてるんだ!?…よく見ると、兵長の持ったバケツは空だ。……いやいやいや、



「へ、兵長何するんですか!?」
「こうでもしないと、あの熱に対抗出来ねぇ。なんだ文句でもあるのか。」
「い、いやないですけど、いきなり何も言わずに頭から水をぶっかけるなんて、」
「総員!立体起動で止めを刺せ!!」



文句を言いかけた私の耳に、団長の命令が聞こえた。兵長の方へと向いた私の頭を、無理やりロッド・レイスの巨人…それからいつの間にやら巨人化したエレンの方へと兵長が向ける。一足早く立体起動に移った兵長と104期の後に続いて、私もロッド・レイスに向かった。もう、何が何だか分からないけどとりあえず目の前の巨人に立ち向かうしかない。兵長への文句は、その後だ。



「あつっ!!」
「クソッ、どれだ!?」



私を含めたリヴァイ班が、飛び散ったロッド・レイスの肉片を片っ端から切り裂いて行く。その僅かな視界から、ヒストリアが見えた。彼女は、最初に会った時の不安げな、虚ろな様子がまるで別人のように、凛々しい表情でロッド・レイスを…彼女自身の父親をその手で殺めていた。


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