kuzu
首ったけ!2nd
自分たちの全てを賭ける覚悟

「てめぇ…いつまで俺に抱きついてやがる。」



兵長の、いつもの機嫌の悪そうな声が聞こえて恐怖に閉じていた目をこじ開ける。……巨人?それにまるで私達を守るように連なっている柱が目に入る。これは一体…?



「硬質化…ってやつだろ。エレンを巨人から切り離しても、この巨人は消えてねぇ。結構なことじゃねぇか。」



また私を無理やり引き剥がしながら、兵長が言った。サシャは出口を確保したと喜び、ジャンは引き剥がされる私を複雑そうに見つめる。どうやら、私達は何とか生き延びることが出来たらしい。それに、エレンが硬質化に成功したと言うことは…、



「これで、ウォール・マリアの壁を塞ぐことが可能になった。敵も味方も大勢死んで散々遠回りしても、それでも無様にもこの到達点に辿り着いた。」



兵長のその言葉に、私はホッと肩を撫で下ろす。…これで、やっとマリアの壁を塞げる。私達が今までしてきたことは、決して良いことばかりじゃない。だけどそれでも、ここまで辿り着いた。亡くなった敵も味方も、もう生き返らせることは出来ないけど、でもきっと、汚してしまったこの手は人類の勝利を手にするために必要なことだったんだ。



「兵長!大変です!早くきて下さい!」



すると、洞窟の上からアルミンが顔を出し、その声に地上へ出ると今までに見たことのないような不気味な巨人が地面を這っていた。



「あれが…巨人?」



目の前に広がる光景を信じられずにそう呟く。予期せぬ事態の連発で、もう頭がどうにかなってしまいそうだった。



「あの巨人を追うぞ。周囲には中央憲兵が潜んでいるかもしれん。警戒しろ。」



事態を飲み込めない私と104期に、兵長は指示を出した。エレンとヒストリア、それからアルミンと共に何とか無事だったハンジさんは馬車に乗り、私は言われるままに馬に跨がる。…いつだってそうだ。先が読めなくて、現状すら把握出来ない。だけどいつだって、やることは一つ。それは、"新兵"と呼ばれていたあの頃から変わらない。



「兵長の指示に従おう。」



馬車へ乗り込んだ以外の、今なおどうすればいいか分からずあたふたする104期にそう言うと、そんな私を見て彼らも納得したように馬に乗った。グダグダ考えるのは後だ。今はまず、目の前の巨人に集中しよう。私達全員が馬に跨ったのを見て、ハンジさんがレイス家と初代王の思想について話し出した。それに、エレンも口を開く。



「俺をあの巨人に食わせればあの巨人…ロッド・レイスは人間に戻ります。」
「そうみてぇだな。」
「で、でもそんなことしたらエレンが、」



信じ難いことを口にしたエレンに、兵長も同意の言葉を発した。それに反論しようとすると、兵長は片手を私の方に向けて私の言葉を制止した。そして私の方は見ずに、エレンに向かって口を開く。



「人間に戻ったロッド・レイスを拘束し初代王の洗脳を解く。これに成功すりゃ人類が助かる道は見えてくると…そしてお前はそうなる覚悟は出来ていると言いたいんだな。」
「……はい。」
「そ、そんなこと……」



エレンの力強い言葉に、私は疑いの目を向けた。人類の為に自分を犠牲にするなんて、そんな簡単に判断出来ることではない。だけど、私の言葉を遮って次に口を開いたヒストリアに、私は更に困惑することになる。



「…選択肢はまだあります。寧ろ、あの壊滅的な平和思想の持ち主から始祖の巨人を取り上げている今の状態こそが、人類にとって千載一遇の望みだと思います。…エレンごめんなさい私、あの時巨人になってエレンのことを殺そうと本気で思ってた。それも人類のためなんて理由じゃないの、お父さんが間違っていないって…信じたかった。お父さんに嫌われたくなかった…。でももう、お別れしないと。」
「ちょ、ちょっと待って…!」



私が再度異を唱えると、ここで初めて兵長以外の全員が私のことを見た。兵長は、相変わらず私のことなんか目もくれずに前だけを見つめている。



「てめぇの追い付かねぇ思考をチンタラ待ってる暇はねぇ。」
「で、ですが兵長…み、みんなも…どうして自分とか、家族とか、そんな大事なものを簡単に犠牲に出来るの…?」
「オイてめぇ、この後に及んでまだそんなこと言ってやがるのか。」
「ナマエさん、言ってたじゃないですか。」



何かが吹っ切れたような清々しい表情を浮かべたヒストリアが、私に声をかけた。その言葉に、兵長が私の方を向く。



「『人類が永遠の自由を手に入れるために、私達は今闘っている。そのためには、自分たちの"全てを賭ける覚悟"がいる。』って…。私、あの時はただ、わけも分からずナマエさんの話を聞いていました。だけど、今やっとその意味が分かって"覚悟"が出来たんです。私、ナマエさんのお陰で決心がつきました。」
「………。」



いつかの朝食の席で、他の新兵達にも一緒に話した、その言葉が蘇る。…ああ、確かにそうだ。あれは私が、104期を奮い立たせるために口にした言葉だ。だけど、今となっては自分で言った言葉すらも肯定出来なくなってしまっている。あの時の自分は、壁外調査後の負傷から復帰してすぐで、闘志に溢れていた。自分で言うのも何だけど、今よりずっと勇ましかったと自分でも思う。それが、今はなんだ。私にとっての、兵士としての戦う原動力…兵長への思いが揺らいだせいで、こんなにも心が弱くなってしまうなんて。そしてそれを、後輩に教えられるなんて。



「…で、どうなんだ。人に説教たれたその"覚悟"ってのはてめぇ自身にはなかったと言うのか、クズ野郎。」



兵長はいつもの目線を私に向ける。手綱を握る手に力を込めて、私も口を開いた。



「いえ…。私も、"全てを賭ける覚悟"で闘います。」



そんな私に、兵長は「…ほう。」と感心したような声を出した。



「てめぇも随分"兵士"の顔つきになってきたな、ナマエよ。」


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