kuzu
首ったけ!2nd
溢れてくる気持ちを表現出来ない

「うっ、何だこれ…!」


眩しさに目をしかめながらも光の源の方へと進んでいく。視界が遮られてしまい、これでは万が一巨人が襲ってきたら一瞬にして全滅だ。…いや、敵は巨人だけではない。私たちを待ち構えていた兵士がさっきので全員だったとは思えない。それに、まだアイツが居るはずだ…。ケニー・アッカーマンが、必ずどこかに…!



「居たぞ!!」



兵長のその声に、目を凝らすと鎖によって縛られたエレンと、突風により吹き飛ばされたらしいヒストリアの姿が見えた。ヒストリアにはミカサが、エレンには残りの班員がつく。



「急げコニー。」
「くっそー、どの鍵だこれ?」
「いいか半裸野郎、巨人だけじゃねぇぞ!鉄砲持った敵も飛んで来てんだ!!」




コニー、ジャン、そして兵長の三人がエレンにしがみつくような形で、なおも吹き荒れる強風から自分を守りながら鍵を外していく。私も、何かに掴まっていないと飛ばされてしまいそうだ。




「…てめぇ、何やってる。」
「何って、抱き付いてるんです。兵長に。」
「…そうじゃねぇだろ。」
「そうじゃなくないですよ!この状況で、何かに掴まらないと吹き飛ばされるじゃないですか!」
「…てめぇが吹き飛ぶのと天井が崩落するの、どっちが早ぇーだろうな。」


咄嗟に、いや咄嗟じゃなくてもきっとしていただろうけど、兵長の背中にしがみついた私に兵長は見向きもせずにいつもより低い声でそう言った。兵長の背中、暖かい。いつもなら一瞬で跳ね除けられてしまうこんな行為も、今はそれどころではないからか、両手が塞がっているからか私の方が有利だ。今なら何でも許されるのでは、と兵長の肩辺りに頭を預けてみると蹴りが飛んできた。それが脛に直撃し、痛みに思わず手を離してしまいそうになる。しかし今この手を離すと飛ばされてしまう、と思い痛みを堪え必死に兵長にしがみつく。まさにデッドorアライブ…と言うかデッドorヘブンだ。今が命懸けの闘いであることを忘れてしまうくらい、私にとって兵長のそばは天国とも思えるくらいだった。



「逃げろ!!」



しかしそんな状況は長くは続かず、天井の一部が崩れ落ちていることを察知した兵長は、班員にそう声をかけるなり私を引き剥がした。私も間一髪のところで逃れる。…兵長、今思い切り自分の進行方向とは逆、つまり天井が落ちてくる辺りに私を突き飛ばしたけど、私が避けられなかったらどうするつもりだったんだ!



「…なんだこのクソな状況は。超大型の巨人ってのよりデケェようだが。」



とうとう姿を現した巨人に、兵長はいつも私に向ける巨人を見るような目を、今回こそ本物の巨人に向けた。その間にも巨人はどんどんその姿を本格的なものにし、その影響で地面や天井が崩壊し始めている。このままでは、本当に私たち全員死んでしまう…。


泣きながら同期に謝るエレンに、それを励ます仲間たち。私はそれをぼうっと眺めていた。本当にこれで、終わりなの…?この礼拝堂へ入る前に兵長に言われた、あの言葉も叶えることが出来ないまま、本当にここで死んでしまうの…?



「毎度お前にばかり….すまなく思うが エレン、好きな方を選べ。」



そんなエレンに兵長は言葉をかけた。エレンはそれに答えるように、"ヨロイ"と書かれた小瓶を噛み割る。確かに礼拝堂であったこの場所は、もう何だが分からないくらいにまで崩壊していた。


…ここで、今死ぬのかも知れない。兵士になった以上、他の人よりも早く"この時"が訪れるかもしれないことは、分かり切っていた。そして、それを何度も経験してきた上で『いつ何があっても可笑しくない身として、言いたいことは言える内に言っておこう』と思って、それを実行してきた。…兵長に、何度も好きだって伝えた。だけど、何度言ったって足りなかった。溢れてくるこの気持ちを"好き"だなんて言葉だけでは、表現出来なかった。今も、こんなにも好きで苦しいのにこれをどうすることも出来ずに私は死んでいくのか。


また突き飛ばされるのを覚悟で、今度は正面から抱きついてみた。ぎゅっ、と力強く両腕を兵長の背中に回す。今度の兵長は何も言わず、それを受け止めてくれた。


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