兵長が隠し扉を蹴破ったのを皮切りに、転がり込ませた樽にサシャが火矢を放ち、辺りは煙に包まれた。その隙に兵長とミカサが中へ突入する。
「敵数35!手前の柱の天井あたりに固まっている!作戦続行!全ての敵をここで叩く!」
その声を合図に私と残りの104期も一斉に中へ飛び込んだ。それに対応すべく敵も私たちに向かってくる。104期のみんなは、兵長は、無事なのか。今はそんなこと考えている暇はない。闘うんだ、戦うんだ。
私はサシャやアルミンと同じく後方に位置し、前方で仕留め損ねた敵を相手にしていた。やっぱり私は信頼を損ねてしまったのか、この位置に付くようにと指示をしたのは兵長だ。だけど失くしてしまったものは、また取り返せばいい。
「……っ!」
巨人とはまた違う肉の感触をブレードに感じ、顔をしかめる。誰のものかなんて、知る由もない血しぶきが顔にかかりそれを拭うと、視界の端にハンジさんが見えた。敵の女兵士からの二発の銃撃を避け、余裕そうに見えたがその瞬間、女はアンカーをハンジさん向けて放った。
「ハンジさん、危ない!!」
「ああぁぁぁ!!!」
しかし、私の声も虚しくハンジさんは肩にそれを受け柱にぶつかり、そのみま地面へと落下してしまった。味方が一人やられてしまったことで、私たちには一瞬の隙が出来る。
「今だ、総員後退!この煙から離れろ!護りを立て直す!」
その隙を敵が見逃すはずがなかった。ハンジさんへアンカーを放った女兵士が咄嗟の判断で班員に指示を下すと、それに従いどんどん離脱していく。…どうする、どうすれば…?
「アルミン、ハンジを任せた!残りで敵を追う!ナマエは前方に付け!」
「はっ、はい!!」
散り散りになっていく敵を見ながら、兵長が声を張り上げた。その言葉通りに一旦ハンジさんの元へ駆け寄るアルミンを見届け、私はハンジさんの空いた穴を埋めるべく前へと躍り出る。コニーやジャンの隣に並ぶと、ジャンが心配そうな目を私に向けた気がした。
「…俺、ナマエさんに言われたこと忘れてませんから!」
「え…?えっと、何だっけ…?」
「俺たちがエレン達の身代わりになった時、俺…ナマエさんが酷い目に遭ってるのに何も出来なくて…そのあとナマエさんにそのことを謝った時、ナマエさんが『じゃあ今度は私がピンチになったら助けてね』って…俺、あの時の言葉、いつか果た」
ーーーゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
「なっ、なに!?!?」
ジャンが何かを言いかけた時、突然耳を塞ぎたくなるような地鳴りが聞こえ、辺りが目を開けてられないほどの眩しさに包まれる。
「きょ、巨人か…!?ちくしょう、こんな時に!!」
突然のことに言葉を失った私とジャンの横で、コニーが驚いた声を上げた。…そうだ。この状況、音、光…巨人が出現したと考えるのが自然だ。
「クソッ、まさか…!」
兵長の声が聞こえ、眩しさのため閉じてしまった目をこじ開けると焦った様子の兵長が見えた。私は、何があっても兵長を支える。そんな気持ちが大きくなった気がした。