kuzu
首ったけ!2nd
兵長と喧嘩したくらいで



「というわけで、調査兵団の免罪は晴れ我々は自由の身だ。」


ハンジさんの報告に、「やったぁぁぁ!!」と各々抱き合ったり、ガッツポーズを取ったりと喜びを表現するリヴァイ班。何故、その中に私の姿が含まれていないかと言うと、久しぶりに会う班員に何だが気まずくてハンジさんの背中に隠れているからだ。ハンジさんからしばしの休息をもらった私は、調査兵団本部で数日を過ごしハンジさんと共に再びリヴァイ班と合流した。兵長は、ハンジさんから受け取った報告書にずっと目を落としている。その姿は、いつもと何ら変わらない。当たり前だ。だって、あれからほんの数日しか経っていないのだから。だけど、いつもと何も変わらない兵長の姿を見て私は鼻の奥がつんとするのを感じた。これが一体何の感情なのか、私にはさっぱり分からない。


いくら、免罪が晴れたからと言って兵長が殺した兵士が生き返ることはない。何が正しくて何が間違っているのか、今の私には分からない。ただ数日考えた結果、ハンジさんやニファの言う通り、自分や憧れた人を信じようと思った。何より、私は今調査兵だ。公に心臓を捧げた兵士なのだから、兵長と喧嘩したぐらいでやすやすと任務を放棄することは出来ない。自分が何故ここへ戻ってきたかを改めて考えていると、何やら視線を感じ地面に向けていた目を上げた。毎度お馴染みの軽蔑した目線が私に向けられている。


リヴァイ兵長だ。報告書を読み終わったのかその切れ長の目が真っ直ぐと私を捉えている。一秒、二秒、三秒…、実際の時間は分からないけれど体感時間は物凄く長い。その間、兵長は私をずっと見つめている。そしてその薄い唇を小さく開けて言葉を発した。


「生きてたか、豚野郎。」


ぶ、ぶた…?なんか、レベルアップしてないか!?一連の行動に思わず口をあんぐり開けて戸惑っている私にハンジさんが後ろを向いて微笑んだ。


「ナマエちゃんおかえり、だって。」
「いっ、いや今の絶対違いますよね!?」
「愛情の裏返しじゃないか。気にしない気にしない!」
「いや、裏返っても一欠片も愛こもってないんですけど…。」


裏にも表にも愛情どころか憎しみがたっぷり込められた兵長の言葉に、私は何と返せばいいか分からず苦笑いをする。兵長らしいと言えばそうだし、むしろこんな言葉でさえ、向こうから話しかけてくれたんだから喜ぶべきなんだろうかとか色々考えていると、やっぱり言葉が出てこない。以前の私なら、安否を心配してくれているとポジティブな意訳をして大喜びしていただろう。


「お前ら一体どんな手を使った?」
「変えたのは私達じゃないよ。一人一人の選択が世界を変えたんだ。ナマエもリヴァイの元に戻ることに決めたんだよ?」


そんな私を置き去りに、兵長とハンジさんは話を進める。兵長は私が返事をしないからか話題を逸らしたような気がするけど、ハンジさんは意地でも兵長と私を仲直りさせたいみたいだ。私の方を向き、私の背中に腕を回して一歩前へと押した。兵長の目の前に躍り出た私は、兵長と真っ直ぐ向き合う。どんな顔をすればいいのか、分からない。


「……そうか。」


兵長はそう言って、私から目を逸らした。その顔にはお前なんて居ても居なくても同じだ、なんていつかに言われた言葉がハッキリと書かれていて。はい、なんてよく分からない返事をした私はそれっきり黙り込んでしまった。兵長も何も言葉を発さない。気まずい雰囲気が流れ、それを切り裂くようにハンジさんがまた口を開いた。


「で、エレンとヒストリアの場所なんだけど、心当たりがある。確証はないけどこれに賭けるしかなさそうだね。そこで、この戦いは終わりにしよう。」


ハンジさんのその言葉に、力強く頷く。目の前の兵長は、そんな私にまたいつもの目線をくれていた。




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