kuzu
首ったけ!2nd
好きの反対は嫌いじゃない



二ファ!、そう名を呼ばれて振り向くとハンジさんが居て、急遽伝達係を頼まれた。まぁ、ナマエが伝達係を一度卒業(本人は嫌がっていたし、一応その後リヴァイ班に戻れたんだから、この表現で良いと思う)して後任は私だったし、今日何故かナマエが伝達係に戻っていてさっき門で出くわした時は少しビックリしたけど、この役が再び私に戻って来たみたいだ。でも、そうなるとナマエは隠れ家に戻らないことになる。…どういうこと?


「いいですけど…ナマエじゃないんですか?」
「ナマエは、今色々と悩んでる時期らしくて。あの子を今前線に立たせるのは良くないと思うんだ。だから少し休ませるよ。」
「は、はぁ…。ナマエでも悩むことがあるんですね。」
「なんでも、リヴァイと喧嘩したらしいよ。」


えっ、と私が言うとハンジさんはそれが可笑しくて堪らないと言った表情を見せた。…この人、完全に遊んでるぞ。


「もちろん、痴話喧嘩ごときで隊の編成を変えたりしないよ。でも、このことがきっかけで自分が兵士としてどうあるべきか、とか何が正しいことなのか、とか色々考えてしまってるみたいなんだ。何せ、今まで味方だと思っていた人間が敵に回ってしまったからね。ナマエと同じような悩みを抱えている兵士は少なくないよ。」
「そうですか…。」
「ま、ニファもナマエとは訓練兵からの仲なら少し話を聞いてあげて欲しい。その間に私が報告書を書き上げておくからさ!」


ハンジさんはそう言って去って行った。いつも目をハートにさせながらリヴァイ兵長を追っかけているナマエが、何かに悩んでいることにも少し驚いたが、それ以上にナマエがあのリヴァイ兵長と喧嘩をしたと言うことに衝撃を受ける。いつもいつも、兵長には寄ってくるハエを手で払うかのような扱いを受けていたが一体どうなっているんだ。


私も一友人としてナマエのことが気にかかり、その姿を探してみると中庭に見つけた。小柄な体型だが、その背中は心なしかいつもより小さく見える。物思いに耽っていたのか私が近付いていることに気付かずに肩に手を置くとビクッと驚いたような仕草を見せた。


「あっ、ニファ!どうしたの…?」


よく見ると、大きな目が兎のように赤い。頬には涙が通った跡が見えた。一体、何がナマエをそこまで悩ませていると言うのだ。


「ナマエ、何かあった?」


そう優しく声をかけると、ナマエは時折声を詰まらせながらもぽつりぽつりと話出した。


ナマエの話を聞いている最中に、私はナマエの成長を感じずにはいられなかった。…確か、訓練兵時代の成績はお世辞にも良いものとは言えなかったハズだ。体力もあまりないし、座学だって平均より少し低いくらいだったと思う。だけど、今から一年ほど前に行われた壁外調査でリヴァイ兵長に命を助けられてから、ナマエは変わった。人が変わったように訓練に励み、メキメキと実力を伸ばして…憧れのリヴァイ班に入ることが出来たのだ。そして、この前の壁外調査では、殉職してしまった先輩方の中からナマエが負傷しながらも唯一生き残ったと聞いた。そして今は、調査兵団存亡そして人類の生存を賭けた最前線で闘っているのだ。そのあまりに眩しい経歴に、少し妬いてしまいそうなくらいだ。だけど本人は、そんな自分の成長にはまるで気付いていないように、目に涙を溜めながら、リヴァイ兵長と自分の意見が食い違い、兵長の意見に納得することが出来ず命令に従えなかった旨を説明している。


「ナマエはもう、リヴァイ兵長のこと嫌いになっちゃった?」


一通りナマエの話を聞いたあと、こう問うと小さな声で「嫌いになったわけじゃないけど、人を殺している兵長は好きじゃない」と返ってきた。その言葉に少し安心しながら口を開く。


「ナマエ、これは私の個人的な考えなんだけど…"好き"の反対は"嫌い"でも"好きじゃない"でもないと思うよ。私はリヴァイ兵長のこと、よく知らないし近寄り難い、少し怖いなぁなんて思ってるけどやっぱりあの人は人類最強の兵士と呼ばれるほどのことをしてきたんだと思う。私達よりよっぽど、たくさんのことを経験してきている。そんな人の命令なら、例えそれが間違っていたとしても結果的に正解なんだと信じて、私なら従うかなぁ…。それが今までずっと憧れたいた人ならなおさら。」
「……う〜ん…。」


そう言うとナマエは少し考え込むような仕草を見せた。中庭から見えるハンジさんの執務室には、ハンジさんがまさに報告書らしき書類を書き終えた様子が見えた。


「まぁ、こればっかりは自分の気持ちだもんね。ハンジさんが時間を下さったんだし、いっぱい考えたらいいと思うよ!」


そう言うとナマエは少し口角を上げて、一言ありがとうと呟いた。…やっぱりナマエには笑顔が似合う。早く、いつものナマエに戻って欲しいな。



***



ハンジさんから報告書を受け取り、隠れ家まで急ぐともう日もとっくに暮れた夜だと言うのに、隠れ家の前に人影が見えた。岩に腰掛け、片手を目の上に当てながら遠くを見るような仕草をしている。そして、私に気付くなりハッと嬉しそうな顔をして手を振った。あれは確か、新兵の……


「!!ナマエさ、あっ…ニファさん…。お疲れ様です。」
「あ、ごめんねナマエじゃなくって…。でも、そんなに残念そうな顔しなくても…。」
「いっいやそんなつもりじゃなくて!すみません、その…ナマエさんが伝達に行ったのでてっきりナマエさんが帰って来るのかと思って…。」


そう言うと彼は頬をポリポリとかきながら気まずそうに私から目を逸らした。そして、私にどうぞ、と言って水筒に入ったスープを手渡してきた。ありがとうと礼を言い、水筒を受け取るとその瞬間彼の手が触れ、その冷たさに驚く。どうやら彼は、ナマエのためにスープを作り、この寒空の下いつ帰ってくるか分からないナマエを待っていたみたいだ。…そんな彼の気持ちを考えると帰ってきたのが私で申し訳なさでいっぱいになる。そういえば彼は、幹部を交えた会議の時にもナマエのことを見つめていたなぁ…。


「あの…もしかしてナマエさん、また途中に襲われたりとかして、それで、」
「あっ違うよ違う違う!そんなんじゃなくって、ちょっと休息が必要だってことになって…。」


そう言うと彼は、納得したようにそうですか、と言った。きっと、彼は全てを理解したんだろう。今の彼の気持ちを考えると、私は胸が息苦しくなった。だけど、一リヴァイ班の班員として、私は彼に尋ねてみたくなった。


「今日ね、ナマエと色々話したんだけど…、リヴァイ兵長の考えについて、どう思う?」


そう言うと、彼はしばらく言葉を詰まらせた。そして、見ているこっちが泣きそうになる位の切ない表情を見せた。


「…俺も正直、兵長の考えには賛成出来ません。だけど…だけど、好きな人の好きな人だから…その人の考え方が間違ってるなんて思いたくねェーし…その、信じたい、とは思います。」


そう言うと、彼はしまったと言うような表情を見せて失礼しますと言い早々に去って行ってしまった。きっと、あんなこと言うつもりじゃなかったんだろう。だけど、彼の気持ちを知って益々、私は早くいつものナマエに戻って欲しいと思った。




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