kuzu
首ったけ!2nd
リヴァイ兵長が、怖い



あのあと、ミカサの伝言通りにアルミンの書いた報告書を見つけ、私は兵長を含めた班員の、誰にも何も言わずに隠れ家を後にした。兵長は、私との接触をいつも以上に避けているようだ。何か私に言いたいことがあっても、アルミンやミカサを使って伝言するようになった。かと言って、本人に直接言われたとしても今はどんな反応をしていいか分からない。リヴァイ兵長が、怖い。今までに思ったことのない気持ちが私の胸を支配していた。そしてこの気持ちは、兵長に限らず他の班員に会うことも拒んでしまっていた。ミカサの伝言のあとだから、私が何も言わずに消えたって誰も心配はしないだろうけど、何となくみんなに合わす顔がない。みんなは、兵長の考えに疑問を持ちつつもそれが人類のためであるなら、と心を鬼にして、人間性を捨てて任務を遂行している。仲間の中から裏切り者が出たにも関わらず、まして訓練兵を卒業したての新兵にだってそれが出来ているのに、私には出来なかった。


……そういえば、ほんの少し前まで兵長から名前すら呼んでもらえずに、ずっと"新兵"と呼ばれていたなぁ。一度、104期の前で「新兵同然に使えない奴」なんて言われたけど、今の私は新兵"以下"だ。


そう考えていると、負の連鎖は止まらない。乗っている馬にもその気持ちが伝わってしまったのか、馬も気持ち重い足取りで歩を進め、私は無事調査兵団本部へと辿り着いた。そこで同期である二ファに出くわし、今丁度、幹部の会議が開かれている最中だと言う事を知る。中へ案内してもらうと見慣れた顔ぶれが揃っていて、それだけで今までの暗い気持ちが少しだけ晴れた気がした。


「やぁナマエ!今回はラウラが伝達係なんだね!さぁ、早速で申し訳ないんだけど報告書の内容を教えてもらえるかな?」


何だがとても久しぶりに感じるハンジさんとの再会に頬を緩ませながら、報告書に書いてあることを掻い摘んで説明する。一通りの話が終わり、今後の作戦を立てたあと、ほとんどの兵士が部屋をあとにしてからハンジさんが口を開いた。


「ナマエ…、何だか元気がないね。なんかあった?」


余計な心配はかけさせまい、と気丈に振る舞っていたつもりだったがハンジさんにはお見通しだったようだ。


「あっ…いや、別に何かあったわけじゃないんですけど…ちょっと兵長と喧嘩しちゃったと言うか、何というか…。」
「えっ!?リヴァイと喧嘩!?」


そう言うと、ハンジさんは眼鏡から見える目をクリクリと大きくさせて笑い始めた。


「け、喧嘩って言うほどのものじゃないと言うか、喧嘩ではないんですけど、私と兵長の意見が食い違って衝突してしまって…"命令の聞けねぇ部下はいらねぇ"って言われちゃいました…。」
「それでまた伝達係になっちゃったのか…。」


ハンジさんはそう言うと、ティーカップに口をつける。


「それは、リヴァイの言っていることが間違っていると思ったのかい?」


ハンジさんはいつもの面白半分な様子ではなく、すごく優しい目をしながらそう言った。


「間違っているとは思いませんが、正解ではないと思いました…。リヴァイ兵長は、『今は"殺るか殺られるか"という時だ。』と言っていました。でも、私は人を殺すなんてこと出来ません!人を殺すことが人類の平和になるなんて思えません!」


そうキッパリ言うと、ハンジさんは驚いたような様子を見せた。


「じゃあ、そのリヴァイの話だと世の中の人間は"殺る人間"と"殺られる人間"に分けられることになるね。…もちろん、今まで殺された仲間が"殺られる人間"だったなんて思ってないし、これはただの例えだけど、もしこの二つに分けられるとするなら、ナマエ、君はどっちの人間だと思う?」


ハンジさんの言葉に、私は拳を握る。ハンジさんの言いたいことが全く分からない。


「わ、分かりません…。」
「私が思うに、ナマエは"殺られてはいけない人間"だと思うよ。君には、今後を担う役目がある。それは、全ての調査兵が同じさ。だけど、リヴァイとナマエが今意見が合わないのと同じように、私たちと違う意見を持つ人間がいる。壁の外に出るべきではないと考えている人間がいる。それぞれに言い分があって、どっちが正解でどっちが間違っているかなんて誰にも分からない。…だから、私たちは自分達が信じることをすればそれでいいと私は思うんだ。」


ハンジさんは私の肩に手を置いて、励ますように更に続けた。


「幾ら大好きなリヴァイの考えでも、こればっかりは譲れなかったんだろう?今までナマエは、リヴァイの良いところばかりを見て美化していたんじゃないか?リヴァイだって、ナマエと同じ人間だよ。短所だってあるし、理解出来ないところだってあるよ。」


まぁ元々リヴァイの性格は欠陥だらけだけどね、と付け加えてハンジさんは笑う。私も何となくハンジさんの言いたいことが掴めてきて首を縦に振った。


「だけど、それでいいんじゃないか?…ナマエ、完璧な人間なんてどこにも居ないよ。みんな、どこかに欠点があって何かを隠してる。嘘だってつくし、後悔だってするよ。そんな人間が集まって支え合って、始めて人は完璧に近い形になれる。一人でそうなる必要はないよ。…調査兵団だってそうだろう?」


ハンジさんに言われて、ハッとする。確かに、その通りだった。ミカサと話した時にも思ったが、私は目の前のことばかりに気を取られていて、当たり前のことを忘れてしまっていた。そして、ハンジさんは私の前にやってきて、今度は私の両肩に自分の両手を置いた。目の前のハンジさんはいつにも増して真剣な顔をしている。


「…だけど、ナマエに少しでも迷いがある以上、今ナマエを再びリヴァイのところへ戻して闘いに加えるのは危険だ。迷いのある内は、闘えない。さっきも言ったけど、ナマエは"殺られてはいけない人間"だからね。…ナマエ、君は壁外調査での怪我を完治させないまま復帰して何度も危険な目に遭っている。少し、ここで休んでくれ。エルヴィンは今、王都に召喚されていて私も別件で極秘に動いている。休息を与えられるわけではないけど、ここでエルヴィンやリヴァイ班、私の動向を確認しておいてくれ。いいかい?」


ハンジさんの余りにも真っ直ぐな視線に、私は首を振ることしか出来なかった。完璧な人間なんていない。私は、リヴァイ兵長にとっても、調査兵団にとっても、少しでも完璧になれる役目を果たせるのだろうか。




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