kuzu
首ったけ!2nd
兵長がこんなに優しくないはずがない



「あー…暇だ…。」


兵長に自分の思いを告げたあの日から、一体どれくらいが経ったんだろう。ついこの間まで生死を賭けて巨人と戦っていたとは思えないほど、私は病室で平和な日々を過ごしていた。いや、平和過ぎる。せっかく新たな気持ちで巨人に立ち向かおうと闘志を燃やしているのに、こうも平和だとこの気持ちもおざなりになってしまいそうだ。あれから…どうなったんだろう?女型の巨人は?エレンや幹部の王都召還は?何をどう考えたって、自分で答えを導くことは出来ないし、その答えを得ることだって私には出来なかった。救護兵にどうなったか尋ねても知らないの一点張りで。最もここはトロスト区。遥か遠くの内地で何が起こっているかを知るには、時間がかかるのだ。……何度も何度も考えた、最悪の事態を想定してみる。調査兵団自体が解体してしまう可能性だって、十分あり得る。きっと、リヴァイ兵長だって王都へ召還されたはずだ。そのあと、監禁なんてされていたらどうしよう。やっと気持ちを告げたばかりなのに、もう二度と会えないかも知れない…。いや、もうやめよう。考えたって無駄だ。今はとにかく、自分の治療に専念しよう。そう思い私はリハビリ室へ向かった。


一歩一歩、ゆっくりながらも手すりに助けられながら前進する。怪我の具合はここでの平和すぎる日々のお陰でだいぶ回復していた。今では怪我の回復具合よりも、訓練を怠ったため鈍っているだろう身体の方が心配なくらいだ。…あの角を曲がると、リハビリ室はすぐそこだ。手すりを持つ右手に力を込めて、角を曲がるとそこには、


「…え、えぇ!?う、嘘でしょ…!」
「!」


リヴァイ兵長が居た。いつもの制服ではなく私服を着ていて、私を見て目を丸くしている。…お見舞いに来てくれたんだ。期待なんてしていなかった、と言えば真っ赤な嘘になる。本当は毎日毎日待っていた。兵長は忙しくて、そんな暇ないことくらい分かっていたけど、あの日私の両手を握って私の思いを聞いてくれた優しい兵長なら、時間を作って来てくれると思っていた。そして今、兵長はここにいる。私を心配して、王都からはるばるやって来てくれたのだ。


「へ、兵長!お見舞いに来てくれたんですね!すっごく嬉しいです!好きです兵長!」
「…見舞い?何の話だ?誰がてめぇの見舞いなんかのためにこんなところへわざわざ来るんだ。俺はそんなに暇じゃねぇ。」
「え?」


私の期待した気持ちをキッパリと否定した兵長は、まるで私が可笑しなことを言っているように疑いの目を向ける。渾身の「好きです」も聞こえなかったかのようにスルーされた。…あれ?壁外調査の時はあんなに優しくしてくれたのに…もしかして、


「あれ、幻覚かな?兵長が、私にこんなに優しくないはずがない。」
「………。」


あの日の優しかった兵長は、確かに兵長だった。だって…あ、暖かかったし。今思い出しても照れてしまうくらい、あの日の兵長は本当に、すごく優しかった。だとすると、今目の前に居る兵長は幻覚か?私は兵長に会いたい余りに、その気持ちが具現化して今目の前に兵長の虚像を創り出してしまったのだろうか。いや、どうせ幻なら実物の百倍優しくても良いのに。空気読めよ自分。そんなことを考えていると、目の前の虚像の兵長(仮)は私のことをゴミでも見るような蔑む目を向けていた。あ、懐かしいなこの感じ。ん…懐かしい?てことはこの兵長は虚像ではなくて、単に壁外調査の前の私に物凄く冷たい普通の兵長に戻ってしまった?え、戻るとかアリ?せっかく縮めたはずのあの距離感はどこへ行ってしまった?この14話分の私の努力はいずこ…?しかしそんな私の都合はまるで知らない、と言った風に兵長は口を開いた。


「…そうだった、てめぇの存在をすっかり忘れていた。新兵よ、お前がへばってた間に随分と大変なことが色々と起こった。それはもう、寝込みたくなるほどのな。」
「は、はぁ……。」
「とりあえず、俺はお前の見舞いではなくエルヴィンの見舞いに来た。奴が一週間ぶりに話が出来るまで回復したと聞いたからな。今の現状を報告する必要がある。」
「え、エルヴィン団長…?」
「ああ。右腕を巨人に喰われた。」


いつものポーカーフェイスであっさりと言うものだから、言葉を咀嚼するのにひどく時間がかかった。エルヴィン団長が…?この短期間で再び壁外調査へ行ったのだろうか?…いや、前回でかなりの痛手を負った上、召還の件もあったのだからその可能性は低い。ではいつ、何故、何があって巨人と戦うことになったのだろうか。


「今から俺はエルヴィンのところへ行く。これからについてと俺の新しい班編成についても話さなきゃならねぇ。てめぇなんざと立ち話している時間なんかねぇんだ。そこを退け。」
「あ、新しい班編成…!?どういうことですかそれ!!」
「チッ。てめぇは相変わらずめんどくせぇー野郎だな。ここで簡単に説明出来るほどことは単純じゃねぇ。俺は同じことを何度も言うのは嫌いだ。聞きたいなら勝手について来い。」


そう言うと兵長は早足で私が来た方向へと歩き出した。ちょっと待って下さいよ!、と声をかけて必死に手すりを頼りに追いつこうとするが、兵長は私の言葉には耳を貸さない。…もしかして、壁外調査での兵長こそが虚像の兵長(仮)だったのだろうか。



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