kuzu
首ったけ!2nd
兵長を支えたいと思っていたんだった



兵長は、あれから私のことを露骨に避けるようになった。私も、まだ心のモヤモヤが晴れないので特別兵長に近づくわけでもなく、緩やかな日々が続く。元々、私から近づかなければ兵長は私のことなんか相手にしないのだ。


…こうやって、このままどんどん兵長との距離が離れていって。兵長に近づきたいがために訓練に精を出した日々や古城での生活、壁外調査で触れた兵長の優しさにそこから更に縮まったと感じた兵長との距離、全てを忘れてしまう日々が来るのだろうか。そして、兵長のことをエレンやジャン、アルミンやコニ―や他の兵士と同じように“仲間”とだけ認識するようになるのだろうか。


あのあと、改めて“殺れるときは殺れ”と言った兵長に、104期のみんなは首を縦に振った。そんな中、まだ私だけが半端な意志を持ってここにいる。だけどやっぱり、何度考えたって、人類のために人を殺すなんて、これほど矛盾したことはないんじゃないかと思える。いつか兵長に、「兵長のためなら何だってできます!」と言ったが、私にだってできないことがあった。そう思い始めると、この気持ちはどんどん大きくなって加速していく。そしてこの気持ちは、兵長に対する思いをぐらつかせたばかりでなく、私の中で“今後どのように兵士として闘えばいいか”と言う意志も揺らがせた。今の私は、ハンジさんの言う恋する乙女でも、兵士でもなんでもない。


こんな私の心情を、少し距離を置いていたにも関わらず兵長は気が付いたみたいだ。そんなことを考えながらぼーっとしていた私に、再び伝達係をするように、との伝言を隣に腰掛けたミカサが言った。かなりオブラートに包んでくれたアルミンとは違い、ミカサは兵長がどう言っていたかハッキリと教えてくれたので、それはそれで逆に清々しかった。


「兵長から、伝言を預かりました。」
「………。」
「とりあえず今は、伝達係をするようにとのことです。」
「……そう。」
「何故だか聞かないんですか?」
「き、聞いて欲しいなら聞くけど…どうせ使えないから、とかでしょ。」
「『"殺るか殺られるか"だと言った俺にあいつは殺られることを選んだ。またあの腰抜けにでも跡を付けられて殺られるなら殺られちまえ。』…だそうです。」
「ふふっ、兵長らしいね。」


毎度お馴染みの、私のことを巨人やゴミを見るような目をして、眉間に皺を寄せまくって、そう言ったんだろうな。結局、兵長は私の前ではいつも機嫌が悪いような顔をしてた。たまに、たまーに、笑顔とは到底言えないような、目の鋭さを少し和らげて口角をやや上げるような表情を見せたことはあったけど、私が見た中でのベストはそれだった。最近、少し兵長との距離が近付いたと思ったけどそれも気のせいだったのだろうか…。


「最近ずっと"殺るか殺られるか"とかそんな物騒なことばっかり言ってるけど…兵長、巨人ばっかり削ぎすぎて人間まで巨人に見えて来てるんじゃない?じゃないと、あんなの可笑しいよ…あんな簡単に、人を殺せるなんて…。」


そう言って膝を抱きながらの小さく体操座りをする私に、隣のミカサは何も言わない。


「ミカサはさ、…好きな人の、嫌いなところを見つけてしまったら、どうする…?」
「……ナマエさん、完璧な人なんて居ません。」


私の言わんとしたことが、ミカサには通じたらしい。いつもの調子でそう言うと、私のことは見ずにまっすぐに前を見つめたまま続けた。


「エレンは…いつも私の前から居なくなる。今だって、そう。エレンを連れ戻すためなら、私は何だって出来る。兵長だって…きっとそう。」


そう言うとミカサは立ち上がり私を見下ろした。ミカサの色白な肌に影が落ち、いつもより大人っぽく見える。


「兵長も、人類の平和のためなら何でも出来る…と思います。」


その言葉を聞き、私はハッとした。今の今までそれは当たり前過ぎて心の奥に沈んでいたため、忘れてしまっていたことだった。


「私…そんな兵長を支えたいと思っていたんだった…。」


そう呟くと、ミカサは「アルミンが書いた報告書が机の上に置いてあります。」と言い、去って行った。その背中は、私が思っている以上に多くのものを背負い混んでいるのだろう。




前へ 次へ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -