kuzu
首ったけ!2nd
私はそれでも兵長のことが好きなのだろうか



「あ、ああ……」


フィオナが飛び込んできた衝撃で尻餅をついてしまったジャンは、そのまま腰を抜かしてしまったのか動くことが出来ない。そんなジャンに、フィオナは容赦なく引き金をひく。このままでは、危ない。そう思った私は懐にしまってあった銃を再び取り出した。


「銃を下ろさないと撃つぞ!!」


キッと睨みながらフィオナに銃口を向けると、彼女は小馬鹿にしたように薄ら笑いを浮かべた。


「あんたがァ?出来るわけないでしょ。さっきだって、私にブレード投げたりしてたけど殺す気なんて更々なかったくせに。あんたみたいにね、半端な気持ちでこんなところにいる奴は一番にやられるの。こいつの次にあんたも、うっ!?…なっ、」


相変わらず憎まれ口の減らないフィオナに向かって、私は自分の銃をフィオナの銃に向かって投げた。予想外だったであろう私のその行動にフィオナは対応出来ず、私の銃は彼女のそれに命中し、二つの銃が空を舞った。彼女が自分の手中から離れた銃に気を取られている間に一気に詰め寄り、そしてーー…


「うるさいっ!!みんなして私のこと、腕が立たないとか半端な気持ちだとか言って…そんなのっ、急に人殺しをしろなんか言われて、"はいいいですよ"なんて言える奴の方がおかしいじゃない!!私はっ、巨人を殺すために調査兵になったのに、巨人なんかに比べたら…あんたなんか…リヴァイ兵長なんか…ただのミジンコのくせに!!」


そう叫びながら、手当たり次第にフィオナの体を殴りまくった。個人的な感情も入り、力いっぱいそれを続けると元々私のブレードが当たり腕を負傷していた上にミカサに顔面を蹴られ、血だらけだったフィオナはすぐに意識を失った。そんな彼女を担ぎ上げ、思いっきり荷馬車から投げ飛ばすと彼女の体は地面へ叩きつけられ、やがて見えなくなった。


「「「…………。」」」


私の野蛮な行動に、誰も言葉を発さはい。やがて追手の数も徐々に減り、私達は辛くも再び生き延びることが出来た。しかし、文字通りの"生き地獄"を味わうのはこれからだった。



***



「ナマエさん…、すみませんでした。俺が、情けなかったばっかりに…今度こそ、必ず、」
「ジャン、謝らないで。あんなの、誰だって動けなくなってしまうよ。私こそ、すぐに助けられなくてごめん。」


あのあと、ひとけのないところまでアルミンが馬を走らせたあと私達はしばしの休息を取った。その席で、ジャンが心底申し訳なさそうな顔をして口を開く。悪人面も落ち込めばこんな表情をするんだ、なんてまじまじと見つめていた私に、ジャンは目を逸らしながら口を開いた。


「…この前ナマエさんに"今度は私がピンチになったら助けて"とかって言われてたのに、また俺が助けられちまって…かっこ悪りィ。」
「かっこいいとかかっこ悪いとか、そんなんじゃないよ。今、みんなこうやって誰一人欠けることなく、対した怪我もなく生きてるんだもん。それだけで、充分。充分すぎるよ。あとは、エレンとヒストリアを取り返すことに集中しよう。」


そう言って背伸びしながらジャンの頭を撫でると、彼は気まずそうにまた目を逸らした。そんな私達の様子を先ほどと変わらないような鋭い視線で兵長が睨んでいる。


「…だがその種を蒔いたのは、紛れもなくてめぇだがなこのクズ野郎。」


そう言いながら兵長はまた私に掴みかかろうとする。その手に寸で逃れサシャの背に隠れると、「え!?わ、私ですか!?」とサシャの焦ったような声が聞こえた。


「てめぇに関しては、どれだけ文句を言っても気が収まらねぇ。あの"腰抜け野郎"を殺すチャンスが二度もあったくせに、どちらもてめぇのふざけた正義感のおかげで見逃した結果がこれだ。仲間を危うく殺されかけた。ジャンが死にかけたのは100%てめぇのせいだ。分かってんのか?…いや、まだ分かってねぇんだろうな。だから三度目のチャンスだったさっきもあんな闘い方をした。俺は銃の投げ方なんぞ教えてねぇが?てめぇが俺の班に居ることで、士気が乱れる。今はな、…殺らなきゃ殺られる、そういう状況だとこの後に及んでもまだ分からねぇーのか?てめぇが殺られる方を選ぶなら俺は止めねぇ。勝手にしろ。だが仲間を道連れにするようなクズは、俺が殺すぞ。」


そう言うと、兵長はスタスタと歩き出した。サシャの背から恐る恐る覗き込む兵長の背中は、やっぱり相変わらず小さくて巨人に比べるとミジンコで。言いたいことだけ言って去ろうとするその姿勢が、私の今まで燻っていた胸中に火をつけた。


「お…お言葉ですが!!」


力強く声を出すと、それに反応した兵長が歩を止める。周りにいた班員も私に注目する。もう、止まらなかった。


「私だってっ…へ、兵長に心底失望しました!!兵長ったら、まるで巨人を削ぐように容赦なく人を殺すんですもん!やっぱり…やっぱりこんなのどう考えたって可笑しいですよ!人類の平和のために人を殺すなんか、本末転倒じゃないですか!!そんな考え方…例え大好きな兵長からの命令だって…私は従えませんっ!」


言葉の途切れ途切れに、言うべきでじゃないのではないかと言う気持ちが胸を過ったが、もう止めることは出来なかった。一度不信に思ってしまった兵長への気持ちが、コップに注ぎ過ぎてしまった水のように勢い良く溢れて行く。依然背を向けたままの兵長はそのあと一言、「そうかよ。」とだけ呟いてその場を後にした。私も堪らず兵長とは逆方向へと進んでいく。もうすっかり日が沈んだあとの夜風は、思ったより冷たかった。



***


「ナマエさん、ちょっといいですか。」


興奮してしまった頭を少し冷やそうと、隠れ家周辺を散歩していた私のところへアルミンがやって来た。…何だか妙に改まって真剣な表情をしていて、思わず何事かと身を構えてしまう。


「どうしたの?」
「この辺りを中央憲兵の奴らが捜索しているようです。見つかると危ないのであまり動き回るな、と兵長からの伝言です。」
「本当に、兵長がそう言ったの?」


あまりにも親切なその伝言に思わず疑うと、アルミンは視線を右に泳がせ、言いにくいように「そのようなことを言っていました。」付け加えた。いつもの私に対する態度もさることながら、あんなことを言ってしまったあとだ。大方、"あのクズ野郎、また俺たちを危機に晒す気か。常々めんどくせぇ野郎だな、一言言っておけ。"とか、そんな感じだったんだろう。今までならそう想像する度に一々落ち込んでいたそれも、今はあまり気にならない。


…よくよく考えれば、私は兵長に命を助けられて、兵長の巨人を削ぐ姿に憧れて、この気持ちを"好き"だと認識したのだ。しかし、本当にこの気持ちは"好き"だったのだろうか?兵長の削ぐモノが巨人から人に変わった今、私はそれでも兵長のことが"好き"なのだろうか。そもそもこの気持ちは"好き"ではなく"憧れ"だったのでは…?


「ナマエさんの、さっきの…意外でした。」
「そ、そうだよね…私も、あんなこと言うつもりじゃなかったんだけどな…。」
「ナマエさんは、兵長のことがもう好きじゃないんですか?」


今まさに考えていたことを尋ねられて、たじろんでいると、それを気まずく思ったのがアルミンに焦った様子で謝られた。それに気にしないでと答えると、また言いにくそうに続けた。


「…でも、男の人は兵長だけじゃないですよ…他にも、ナマエさんのことを幸せにしてくれる人はいる、はずです。」


そうポツリと呟くと彼はそそくさと去ってしまった。…え、何それどういう意味?そう思ってももう彼の姿は見えなくて。私がその真意を知ることになるのは、そう遠くない未来だった。




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