kuzu
首ったけ!2nd
命を賭けても兵長の力になって闘いたい



「…いいか?俺が今からここを飛び出して奴の気を引く。その隙にお前はここから出てアルミン達と合流しろ。」
「いっ、いやです…!そんなこと出来ません!わ、私、」
「出来るかどうか聞いてるんじゃねぇ。"やれ"と言ってるんだ。これは命令だ。」


私の頬に添えた手を離したあと、兵長は信じられないことを口にした。つまり、自分が囮になっている間に逃げろと言っているのだ。こういうのは本来、部下が囮役を買って出て、生存率が高く且つ指導者である者が逃げるものだ。まるっきり逆のことを言う兵長に真っ向から反対するものの、もう兵長にはこの作戦しか頭にないようだ。酒瓶の欠片でしきりにケニーの位置を確認している。私はゴクリと生唾を呑み、意を決してまた同じ言葉を言った。


「リヴァイ兵長、私にはそんなこと出来ません。兵長を置いて行くなんて、私には、」
「何言ってやがる。てめぇなんぞ居ても居なくても対して戦力にならねぇ。むしろ居てもらうと邪魔になって不利だ。だから早く失せろと言っている。…行くぞ!」


兵長はそれだけ言うとサッと脇から飛び出した。どちらの銃声か分からない音が激しく鳴り響く。…私がどんなにバカだからって、この言葉の真偽くらいは分かる。"てめぇが近くに居ないと困るだろうが。"なんて言っていた兵長がそんな理由で私に失せろだなんて、きっと言わない。だけど、100%嘘かと言えばそんなことはないんだろう。確かに私は、居ても居なくても対して戦力にならないだろうし、居たら居たで兵長の足を引っ張ってしまうだろう。でも、だからって大人しく引き下がるわけにはいかない。例え、命を賭けても兵長の力になって闘いたい。


ーーカシャン


胸ポケットにしまっていた銃を出し、引き金をひきケニーに狙いを定める。もう、迷いはなかった。


ーーバンッ!!!


思ったよりも反動を受けながら、私が撃った弾は真っ直ぐに進みケニーの左肩を貫いた。


「ナマエ!!!!」


その瞬間、兵長のあっと驚いた顔が見える。それは、私がケニーを撃ったことに対する賞賛の眼差しとは程遠いものだった。


左肩に受けた衝撃と痛みによろめきながらも、ケニーは私の方を向きニヤリと気味の悪い笑顔を見せた。何故撃たれたのに笑顔なのか、何故楽しそうなのか、私にはまるで理解出来なかった。


「こんのクソアマがっ…!」


そう言うとケニーは真っ直ぐに私に銃を向けた。…ああ、もうだめだ。思わず飛び出してしまったため、何も身を守るものがない。殺される。そう思った瞬間、


ーーバンッ!!


私に銃を向けていたはずのケニーが外へと吹っ飛ばされていた。咄嗟に兵長を見ると兵長の銃からは煙が立っていて。…ああ、私は一体何回、兵長に助けられれば気が済むんだろう。


そんな兵長に見惚れていると、サッと無言で指示を出された。身振り手振りでそれを理解して、頷く。本当はもう少しだけ余韻に浸っていたかったけれど、この状況でそう呑気なことも言ってられない。


兵長の指示通り、兵長と私で両サイドから同時に椅子を外へ向かって思いっきり投げた。それに反応した外で見張りをしていた敵のバンバンという銃声が聞こえたと同時にそのままそれぞれ飛び出す。そこには、10人以上の敵が待ち構えていて一旦銃をしまいブレードを引き抜く。立体起動装置を使いながら銃を使うことは出来ないので、私たちに残された武器はこれしかない。バンバンと物騒な銃声と共に、敵の焦った声が聞こえる。


「ふっ、二人いるじゃねぇーか!どっちを追う!?」
「男だ!リヴァイの方を追うぞ!女の方はほって置いても勝手に死ぬだろ!リヴァイには多勢でも手強い!追え!!」


リーダー格の男がそう叫ぶと、その指示通りほとんどの敵が兵長へと向かって行った。聞き捨てならない言葉である。反論したい気持ちをグッと堪えると、そんな中私を追ってくる兵士に見慣れた姿があり思わず声を出してしまった。


「あ、あんたは…フィオナ!!」
「っ!あの時の変人…!ちょっと、気安く呼ばないでくれる!?」


私の声に反応したフィオナは私の顔を見るなりこう声をかけてきた。"あの時の変人"とはどういう意味だ。命の恩人と呼ばれる覚えはあっても変人と呼ばれる覚えは1mmもない。こんな危機的状況ですら、そんな細かいことを一々気にしている私を他所に、フィオナは私に向かって銃を向けた。


「…もうこの前の私とは、違うんだからね!!」


そう言って、真っ直ぐにそれを私に突きつける。その瞳には強い意志のようなものが込められていて。確かに、彼女の言うとおりのようだ。


ーーバンッ!!


真っ直ぐに向けられたそれから弾が撃たれるカンマ一秒の差で、私はアンカーを発射し空中でくるりと方向転換をした。…危なかった。今の咄嗟の判断がなければ私は死んでいただろう。もうフィオナは"腰抜け野郎"なんかではないと言うことだ。そんなフィオナにブレードを投げ捨てお見舞いすると、彼女はそれを避けるために一瞬の隙が出来た。その間にまたアンカーを打ち直し、私は壁の方へと向かう。


ふと、兵長の方を見ると兵長を囲うように何人もの敵が追いかけていた。自分に向かってくる兵士たちにも、フィオナの時と同じようにブレードをお見舞いしながらも、私の目は兵長から離れない。兵長は、何の躊躇もなく続々と向かって来る敵の項を削ぎ落としていた。今この瞬間まで生きていた肉塊は、力を失い地面へと落ちていく。兵長があまりにも迷いなく何度もそうするので、私はそれに恐怖すらも感じてしまった。


「…………。」


その行為に言葉を失いながらも、私は進んでいく。しばらく飛び続けると待機していた新兵たちを見つけ、彼らは兵長の合図通りに指示された方向へと進んで行った。私も、兵長と同じようにそれを追い荷馬車に着地する。すると兵長は、先ほど人を殺していたとは思えないほどの冷静さで私たちに更に指示を出した。


「アルミン、左側から最短で平地を目指せ。サシャとコニーは馬を牽引しろ。ジャンとナマエは荷台から銃で応戦。ミカサは俺と立体起動で逃走の支援だ。」
「わ、私も支援します!!」


そう言うと兵長はギロリと私のことを睨み、私の襟首を掴んだ。首がしまって苦しい。


「ダメだ。てめぇは腕が立たないばかりか信用ならねぇ。さっきのは何だ?誰が一緒に闘えと言った?運良く逃げ延びれたから良かったものの、あそこで二人とも死んでたら作戦はパーだった。それに…ここへ来るまでの道のりの、あの闘い方は何だ?何のためにてめぇに銃を持たせてると思ってる?俺は"無力化しようなんて考えるな。殺れるときに殺れ。"と言ったはずだが?命令の聞けねぇ部下はいらねぇ。てめぇには心底失望した。」


そう言って兵長は私を思いっきり投げ飛ばした。その先にいたジャンが咄嗟に受け止めてくれたおかげで対して痛みはしなかったものの、もっと大事なところがズキズキと痛んだ。"てめぇには心底失望した。"兵長の今までにないほどの鋭い視線とその言葉が、頭の中で何度も繰り返される。ジャンに礼を言い、兵長の方に駆け寄ろうとすると、兵長はそんな私に背を向けてアンカーを打った。


「…説教はあとだ。それも、俺たちがこの場から生き延びれたらの話だがな。」


そう言って兵長が立体起動に移った。それにミカサが続く。二人は、まるで巨人を削ぐかのようにバッサバッサと向かってくる敵を倒して行った。


「そ、そんな…また死んだ…。」
「畜生、どうしてこんなことに…!」


震える手で銃を握り締めると、まるで銃にバイブレーション機能でも搭載されているかのようになってしまい、中々狙いを定めることが出来ない。そんなジャンと私に、アルミンが心配そうな目を向けた。


「くそっ!回り込まれるぞ!!」


その瞬間、意表を突いた敵の一人がアルミンの前まで一気に躍り出る。それにミカサが足蹴りを食らわせると、バランスを失った敵はジャンと私のいる荷馬車に落ちてきた。腕に怪我をしているのか、よろよろと立ち上がった奴は顔面が血だらけだったが、それが誰であるかはハッキリと確認することが出来た。


「フィオナ……!?」


私の問いかけには答えずに、彼女は近くにいたジャンに銃口を向けた。



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