kuzu
首ったけ!2nd
兵長だけが、今私が生きていて闘う証だ



「兵長が、奴らがこの街を通ると踏んで先回りしたおかげで、見失わずに済みましたね!さすが兵長です!大好きです!」
「…それが何か妙だ。今までの第一憲兵の手際とは違うようだ。」



最近の兵長は、私に対して高いスルースキルを身に付けたように思う。特に私の愛の告白に関しては、まるで本当に聞こえていないんじゃないかと思うくらい清々しい程に無視をされる。いや、これに関してはどうせ何らかの返答をもらったってどうせろくでもないものなんだ。私が求めているような返答がもらえるようになるためには、巨人を倒さなければならない。そして今が、そのために大変重要な時なのだ。それを思い出し、私はスルーされたことに対してはあえて何も言わずに兵長の言葉に耳を傾ける。



「どうも俺と思考が被る。俺…と言うよりヤツか。…ナマエよ、"切り裂きケニー"って聞いたことがあるか?」
「え?都の大量殺人鬼のことですか?」



何の脈略のない言葉に、目に近づけていた望遠鏡を離し兵長を見る。兵長は私を見返すことなく先ほど私が観察していた場所ーーーつまり、リーブス商会との取引で失ってしまったエレンとクリスタがいるであろう棺桶から目を離さず、真剣な顔で答える。



「ガキの頃、ヤツと暮らした時期がある…。」
「へ、兵長急にどうしたんですか…。ハッ、てことはその"切り裂きケニー"は兵長の家族?つまり、私の未来の家族…今度菓子折り持って挨拶に行っ、」


その瞬間、ドコォ!っと腹部に力強い兵長の蹴りが入った。あまりの勢いに私は2.3m吹っ飛ばされ、驚きの余り声も出せないまま必死に受け身を取る。いや、幾ら何でもそんなに怒らなくったっていいじゃないか!またスルーされると思って発した言葉に、兵長が意外すぎるリアクションをしたので驚いたが、吹っ飛ばされている最中にそれは怒りの蹴りではなく、私をその場から離し守るために咄嗟に出た行動だったのだと悟る。カンマ一秒ほどの差で、私が居た場所にバンバン!と銃が撃ち込まれたからだ。周りを見ると、ハンジさんの班員である先輩たちが同じように銃で攻撃され、倒れていた。編成は違えど、みんな馴染みのある先輩たちばかりだ。壁外調査の時にも味わった、形容し難い気持ちが胸の中でフラッシュバックする。また…仲間を失ってしまった。そして今回は巨人によってではなく、同じ人の手によって。こんなことがあっていいのだろうか。…それでも、落ち込んでいる時間はない。この状況を打破しなければ、今度は自分がやられてしまう。そう自分自身を鼓舞し、物陰に隠れて様子を伺う。兵長も、少し離れた場所で同じように建物に隠れていた。


「よぉリヴァイ。大きくなったな。」
「お前はあんまり変わってねぇな、ケニー!」


そう言って二人は、派手に攻防戦を繰り広げる。と言うか、相手が銃を持っている分遥かに有利だ。ほぼ相手の攻撃を必死に避けることしか出来ない兵長に、少しでも助けになろうと私も懐から銃を取り出し応戦しようと試みる。しかし、相手がフィオナ同様妙な立体起動装置を使い動き回っているため、中々狙いを定めることができない。それに、私の銃の腕前だと一歩間違えると兵長を撃ってしまいかねない、と踏み止まり歯痒い思いをする。…あれが、"切り裂きケニー"?そう思っていると兵長が動き出したので私も一旦銃をしまい兵長の後を追う。



「兵長!どうなってるんですか、これ!」
「てめぇ…生きてたか。…ックソ、てめぇの面倒見ながら闘えるほどの相手じゃねぇーぞ…。」



兵長はそう言って周りをキョロキョロ見渡しながら私を掴んだ。"てめぇ、生きてたか。クソッ。"とはどういう意味だ。まるで望んでいなかったような言い方である。しかしそんなことを考えていたのも束の間、兵長は私を"ストヘスサカバ"と掲げた店へと放り投げた。重力に逆らえる訳もなく、私はそのままそこへと突っ込まれる。わけの分からないこと続きだったが、先ほど蹴られた腹部と酒場へと投げられた背中の痛みだけはハッキリと体に響いた。



「いったぁ…ちょっと、何するんですか兵長!」




その直後に続いた兵長に文句を言おうとすると、首根っこを掴まれ酒場のカウンターの裏へと再び投げ込まれる。



「オイ、いいかこれは命令だ。俺は今から可能な限りヤツの目を逸らすことに努め、機会を伺って外へ出る。俺が合図をするまでは絶対にここから出るな。声も出すな。「でもっ、」異論は認めねぇ。」



兵長がそう言うのと"切り裂きケニー"が飛び込んできたのはほぼ同時だった。



「憲兵様が悪党を殺しに来たぜ!…何だ、いねぇのか?」
「ここだケニー、久しぶりだな。」



やはり、先程の男がケニーだったようだ。彼が何故ここに、そして私たちを攻撃しているのか、疑問は依然残ったが兵長は坦々と話を続けながらカウンターの裏にあった銃に銃弾を装丁する。



「そうそう一つ聞きてぇことがあったんだ、リヴァイ。俺は狙った相手を仕留め損ねるのが一番嫌いなんだが…さっき正にそれが起こった。てめぇが女に蹴りなんぞ食らわさなけりゃ、今頃あの女は顔面もろとも吹き飛んで粉々だったろうな!ありゃ、てめぇの女か?」



"あの女"と言うのは私のことで間違いないだろう。ケニーの口から出た残忍極まりない言葉に思わず息を飲むと、兵長が片手で私の口を塞いだ。そして、私の期待を裏切る言葉を発した。



「…あ?俺はあんなちんちくりん興味ねぇ。」



そう言うとケニーは大きな口を開けて高々と笑った。



「ガハハハハハ!!そうだった、てめぇはチビのくせに理想は高かったんだな!てめぇがあの女を見る目が一瞬他の者を見る目と違った気がしたが、俺の勘違いか?…まぁてめぇの女なら幾ら何でも蹴り上げるなんてしねぇか…。なら、構わねぇな?俺は狙った奴は殺らなきゃ気が済まねぇんでな。二人とも、仲良く地獄へ行ってもらうぜ。」



そう言ってケニーはカウンターの向かいにあった酒瓶を銃で撃ち抜いた。相手には気付かれないように、兵長がそれを鏡代わりに使いケニーの位置を確認する。私はと言えば、すっかり腰を抜かしてしまい息をすることも忘れてしまっていた。兵長がこの前言った通りに、以前私が上手く逃げ切れたのは私が強かったからではなく敵が"腰抜け野郎"だったからであって、それはたまたま運が良かっただけだったんだ。今回の敵は、次元が違う。人を殺すことを厭わない、むしろそれに快感すら覚えてしまっているような悪魔だ。この場を逃げ切れる自信がまるでない。そんな私を察したように、兵長が銃声に怯える客の騒ぎに乗じて口を開いた。



「オイ、なんて顔してやがる。こんなとこでくたばっちまうようなタマかよ、てめぇは。…お前俺に、巨人を倒すことが出来たらその時はどうとか何とか言ってなかったか?それまで生き延びるんだろうが、ナマエよ。」



そう言って、兵長が私の頬を撫でた。撫でられたそこが、沸騰したばかりのヤカンのように熱くなる。その手はすごくガサツで、乱暴で、 本音を言うとまだ蹴られたお腹だって投げ込まれた背中だってすごく痛い。だけどそんなこと全く気にならないくらい、今目の前の兵長はすごく優しくて、かっこ良くて、頼もしい。それだけが、兵長だけが、今私が生きていて戦う証だ。私は、改めてそう感じた。




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