kuzu
首ったけ!2nd
兵長、私幸せすぎます



てめぇに渡したいモンがある、そう兵長から呼び出され、他の新兵たちはエレンの硬質化の実験を手伝っている中、私はひと気のない森へと連れて行かれた。…もしかすると告白かも知れない。最近の兵長のデレっぷりならあり得ないこともない。そう考え出すと止まらず、普段何も着けていないにも関わらずやたら左手の薬指が寂しく感じてきた私に、兵長は非常に物騒なモノを押し付けてきた。


「…何ですかコレ?」
「見りゃわかるだろう。」


お前、コレが銃以外の何かに見えるのか?と続けた兵長に少し(いや、本当はすごく)落胆する。


「前回の接触で敵は銃を俺たちに向けてきた…。なら俺たちも、これで対抗するしかねぇだろ。」


どこから調達してきたのか、大小様々な形をしたソレに目を落とす。前回、中央憲兵のフィオナに尾行されていた時、護身用にと彼女の銃を奪ったがあの時あの状況で、私が銃を持っていた方が有利だったから手に取っただけであって、本当は構え方すら何も知らないのだ。私達は、ブレードの握り方と項の削ぎ方しか習っていない。


そんな私に兵長は、銃を握ったことがあるかと尋ねてきた。首を横に振る私に兵長は、だろうな、と続ける。それから一番小さなソレを取り私に手渡した。


「まずはこれからだ。」


兵長は銃を使ったことがあるのだろうか。慣れた手つきで銃の構え方、引き金の引き方、狙いの定め方などを私に教えた。兵長の鼓動すら感じられる、いつもより遥かに近い距離に胸の高鳴りが止まらない。特に、


「(…ちょっと待ってこれ、後ろから抱きしめられてるみたいだ!)」


銃の構え方を教わっていた時、何度やっても様にならない私に痺れを切らした兵長が私の後ろに回り込んで、銃を握る私の両手に自分のそれを添えた。後ろから抱きしめられるような格好になり、耳のすぐ近くで兵長の口が動く。暖かい吐息まで耳で感じて、もう耳が幸せすぎて限界だと叫んでいる。


以前にも何度か、馬に一緒に乗った時にこのような体制になったことがある。でもあの時はまだ鞍にスペースがあったため、兵長も出来る限り私と距離を置いていた気がした。それでも、もう天まで昇れるんじゃないかと言うくらいドキドキしたけれど。それが、今回はその距離がゼロで、前回のものとは比べものにならないほどの破壊力を持っていた。今回ばかりは、自分の覚えの悪さと兵長との身長差が僅かしかないことが功を奏した。私だけこんなに幸せを噛み締めてしまって、いいのだろうか。


「角度はこうだ。一瞬で狙いを定めろ。迷った方が負けだ。」


兵長が他にも二言三言、耳元で何か言うが緊張して何も頭に入ってこない。「急所を撃って一発で仕留めろ」だの「無力化しようなんて思うなよ。殺れるときに殺れ」だの物騒な言葉が並ぶが私にはそれが愛の囁きにすら聞こえるほどだった。もうかなりの末期かも知れない。


「…ってオイ、聞いてんのか?ナマエよ、てめぇが一回教えても全く身に付かないクズ野郎だから、こうやって手取り足取り教える羽目になったんだが。」


上の空だったことがとうとう兵長にバレた。このまま振り向いて唇と唇が触れ合ったらどうしよう、なんて淡い期待をしながらそうすると兵長がサッと私から離れる。幸せすぎる時間は一瞬にして過ぎ去ってしまった。


「へ、兵長…私幸せすぎます…!こうやってみんなに内緒で兵長と二人っきりで訓練が出来るなんて涙が出そうです!もう、兵長のことが大好きすぎてどうにかなってしまいそうです!好きです、リヴァイ兵長!」
「てめぇ…ふざけてんのか。」


薔薇色オーラ全開の私に兵長は殺意を剥き出した視線を私に向けた。そのあと、「やっぱりてめぇに教えようとした俺が馬鹿だった。」と続けた。その表情は相変わらず怒りに満ちている。怒っている顔も素晴らしくカッコいいなぁなんて思っていると深いため息が聞こえた。


「いつもならこの時点で、てめぇなんか俺の班から追い出してるが…そうもいかねぇ…。オイ、てめぇの出来の悪さには十分理解してるが、やれ。やるしかねぇだろ。」


そう私に吐き捨てた。ここまで言われると、鉄のハートだと思っていた自分の心も少しズキンとした。兵長の右腕だと言われて浮かれていた自分に喝を入れる。…私は、何のためにリヴァイ班に戻ってきたのだ。壁外調査後のあの決心は、どこへ行ったのだ。


「やります…!もう一度教えて下さい。」


頭を下げてお願いする私に、兵長は毎度お馴染みの目線を向ける。そしてまたため息をついたあと、少し休憩だ、と言って近くの木に腰掛けた。


「…そう言えば、前回尾行されていた時のことだが…お前、よくあの状況で敵と対峙しようと思ったな。前回は腰抜けが一匹だったから切り抜けれたものの、次もそうとはいかねぇぞ。」
「そ、そうですよね…。でも私、訓練兵の時から対人格闘技が一番得意だったんです。あまりポイントにならないから全体の成績は良くなかったんですけどね…。」
「…ほう。」


そう言うと兵長は何か考え込むような仕草を見せた。


「…それは、期待出来そうだな。」


兵長の端正な顔立ちに夕陽が映える。たったそれだけのことだけど、この光景を見ているのは世界で私だけだと考えるとまた胸が熱くなった。




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