kuzu
首ったけ!2nd
近付いていると感じる兵長との距離



場所はトロスト区。その身を隠しながら移動していた私達にとって、白昼間に堂々とこんな中心街を歩くことは新鮮だった。だがそれと同時に、以前とはまるで変わってしまった街の、閑散とした様子に私は言葉を失う。ついこの間まで、この街にある病院で入院していたことが信じられないくらいだ。店もシャッターが閉まってあるのがほとんどで、通りを歩く人の顔にも活気が見られない。現状は、思ったよりも深刻だった。


「オイ…あんた、リヴァイじゃねぇか!」


偶然通りかかった男がそう叫び、私達は歩を止める。隣を歩いていた兵長も下げていた顔を上げた。


「俺も見たことあるぞ!人類最強の兵士、リヴァイだ!」
「……邪魔だが。」


そうこうしている間に、私達はあっという間に町人達に取り囲まれてしまった。一向に緊張が走る。


「なぜ巨人に何回も攻め込まれてんです?俺にはわかる。あんたら調査兵団の働きが足りねぇからだよ。」
「なっ…!それは違う!」
「おい、やめておけ。」


まるで見当違いな言葉を発する町人に立ち向かおうとすると、兵長が私の肩を掴みそれを阻止した。…そうだった。こんな安い挑発に乗るために、ここへ来たわけじゃない。


「あんたらに少しでも良心ってもんがあるのなら…金を置いて行けよ。調査兵団が余分に取り過ぎちまった分をよ。」


男はそう言うと、兵長の胸ぐらを掴んだ。その瞬間、後ろから馬のかける音が聞こえてきた。兵長が一瞬、私の方を見る。それに応えるように私は頷いた。


「馬車が突っ込んでくるぞ!!」


兵長がその言葉を言い終わるのと、私の体がふわっと宙に浮いたのはほぼ同時だった。ガッチリと腰を何者かに掴まれ、そのまま突っ込んできた馬車へと連れ去られる。


「きゃゃあああ!!!」


少し大袈裟なほどの叫び声を上げながら振り返ると、みんなも私達のことを見ていた。


「ナマエさ、じゃなくて!クリスタとエレンが!!また攫われてしまったぁぁ!!」


サシャの大声を聞き、無事作戦通り攫われたのだと確信する。隣にいるいつもよりやや馬面顔のエレンを見ると、彼も額に汗を滲ませながら私のことを見ていた。


「手ェ上げな。じゃないとその可愛い顔が吹き飛ぶぜ。」


銃を突きつけられたので、指示通り大人しく両手を上げると「お利口で助かる。」と両腕を縛り上げられた。これから、どうなるのだろう。行き先も分からぬまま馬車に揺られている間、私は昨夜のことを思い出していた。



***



「…作戦は以上だ。」


あれから、ひと気のない場所を見つけ身を潜めながら団長の指示を元に作戦を練った。その作戦は、結構なリスクが伴うものだったからか、誰も口を開く者は居ない。兵長が言葉を続けた。


「肝心の誰が影武者になるか、だが…ジャン、出来るか?」
「…やります。」


グッと拳を握りながら、指名されたジャンが答えた。その様子を見て、よし、と兵長が満足そうに呟く。そして、兵長は私の方を見た。いつもの、あの巨人に向けるような視線ではなく、真っ直ぐに真剣な眼差しで私の方を見た。


「ナマエよ、昨日の今日で申し訳なく思うが…お前にも頼みたいと思っている。出来るか?」
「もっ、もちろんです…!やります!」


答えは決まっていた。兵長の頼み事にNoと言える訳がない。兵長が、私のことを必要としてくれている。私はそれに答えるだけだ。これは、私が兵長のことが好きだから、とかそんな理由ではなくて、そんなことである以前に、私は兵士なのだから。


「…いや、僕にさせて下さい。」


そんな私の決心をよそに、意外なところから声が上がった。アルミンだ。片手を上げて兵長に異論を唱えている。


「ナマエさんはまだ完全に完治していなくて…兵長の言うとおり昨日奇襲にも遭っています。さっきの話を聞くところ、ナマエさんとやりあった女兵士はナマエさんのことを見ているため、次の人攫いにも加わっている可能性が高いです。…そうなると、変装がバレてしまう可能性も濃厚になります。ここは、髪の色も本人と近いし、ヒストリア役は僕がやった方が、」
「アルミンとヒストリアじゃ、背が違いすぎるよ。」


アルミンの提案をやんわり拒むと、アルミンは私に目を向けた。


「それに、アルミンは男の子だよ?骨格や声は変装じゃ隠せないし、私とヒストリアは体型も似てる。ばれないように何とかするから、心配しないで。」
「ナマエさん…。」
「……決まり、だな。」


そう言うと兵長は解散だ、と続けて立ち上がった。まだまだ不服そうなアルミンだったが、黙って横になったみんなと同じようにそうして静かになった。


私は、中々寝付けなかった。これまで、作戦通りに言った試しなんてない。いつもいつも、ギリギリ最悪の事態を回避してきた私達だったが、どれも機転の効いた咄嗟の行動が鍵だった。それを私に出来るのだろうか…。あちらこちらから寝息が聞こえるようになった頃、隣の寝床が未だに空なのに気付き、私は外に出た。


「…リヴァイ兵長。」
「なんだ、まだ寝てなかったのか。」


外に人影を見つけ、声を掛けると予想通りその人だった。私の方を見ると、いつもの呆れたような表情をする。


「寝れるときに寝ておけ。」
「それは分かってるんですが…中々寝付けなくて。」


そう言って、兵長の横に腰掛けた。兵士を選んだ以上、明日が訪れるなんて保証はどこにもない。そんなこと、ずっと前から分かっていたはずなのに、この瞬間にはいつまで経ってもなれない。


「兵長、…私、前回兵長に気持ちを告げたら、また兵長の元に帰ってこれるような気がして…だから言ったんです。そしたら、本当にあの時、兵長が助けに来てくれて、また兵長の元に帰ってこれた。…だから、願掛けじゃないですけど、また今回も兵長に好きだって言ったら、帰ってこれる気がするんです…。だから、また言ってもいいですか?」
「…もう言ってるじゃねぇーか。」


私の言葉に、兵長は目を丸くして答えた。一瞬フッと笑ったような気もする。


「まぁそう思うなら、…何度でも聞いてやる。」


それから、兵長は一切表情を崩さずいつものポーカーフェイスでこう言った。…何度でも聞いてやる?まさか、こんな返事が返って来るとは思わなかった。自惚れなんかじゃなく、着実に近付いていると感じる兵長との距離に、目頭が熱くなる。あぁ、やっぱり私、兵長のことがどうしようもなく、


「好きです。大好きです。もうどう言葉にしたらいいか、分からないくらい。」
「…………。」


私の言葉に、兵長は何も答えなかった。確かに、何度でも聞いてやると言ってくれたが答えてやるとは言われていない。でも、それだけで十分だった。隣には兵長がいて、私の思いを、たまにスルーされるけどこうして耳を傾けてくれる時もあって。いつか、兵長も私と同じ思いになってくれるといいな。


夜空を見上げると、一筋の星が流れた。



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