kuzu
首ったけ!2nd
いくら兵長でも、許せないことだってある



「リヴァイ兵長!!」


馬から降りて私を見るなり「無事か?」と声をかけ拘束された相手の女を見た。この「無事か?」と言う言葉を兵長にかけられたのは実は三度目だ。一度目は、巨人に喰われかけたところを兵長に助けられたとき。そして二度目は、壁外調査で女型に敗れたとき。どちらも命こそあったものの、無事ではなかった。だけど、今回は胸を張って言える。


「はい!無事です兵長!助けに来て下さったんですね、好きです!!」
「…おい女、名前と所属を答えろ。」


そんな私をチラリと見るなり、兵長はすぐに女に目線を戻した。私の愛の告白にも安定の無視である。…私より、こんな女の方が良いと言うのだろうか。そんなことなら殺しておけばよかった、なんて出来る覚悟もないくせに腹黒い気持ちを抱えていると兵長が私の手から銃を奪った。


「名前と所属、それからなんの目的でコイツの後をつけていたのかを言え。素直に答えるなら、命だけは見逃してやる。」
「…………。」


兵長に銃口を突きつけられても、彼女は沈黙を貫いた。


「…それがてめぇの答えか。なら仕方ねぇな。悪く思うなよ。」


そう言ってガチャリと兵長は引き金をひいた。その音に、彼女は歯を食いしばるようにして目を瞑った。


「…や、やめて下さい!!」
「おい、何をやってる、どけ。…てめぇは削がれることが本望だと言っていなかったか?これじゃ撃っちまうだろーが。」
「うっ、撃たれるのも本望です!」


苦し紛れに言い訳をすると、兵長は眉間に皺を寄せた。気付けば私は、彼女を庇うようにして銃口の前に立ち塞がっていた。彼女も驚いたように息を飲む。


「もしこの人が銃を発砲していたら…私は死んでいました。彼女に人を殺める覚悟がなかったおかげで、今私は生きています。…こんなことになってしまって、情けないことを言いますが私にだって、まだそんな覚悟ありません!私達は巨人を相手に戦っていたはずなのに…いつの間にか相手が人間にすり替わってしまっていて本当に訳が分からなくて…でも一つ言えるのはこんなこと誰も望んでいません!彼女を見逃してやって下さい!」
「…………。」


二人とも、言葉を発さない。背を向けているため、彼女がどんな表情をしているかは分からないが、兵長は私にいつも以上に蔑んだ目を向けていた。…言いたいことは分かっている。でもそれでも、こんなこと間違っている。いくら兵長でも、許せないことだってある。人類の平和のために人を殺すなんて、可笑しい。


「中央憲兵対人部隊所属、フィオナ・ルティウス。」


暫くの沈黙のあと、女が口を開いた。驚きのあまり、彼女の方を見ると彼女も私のことに兵長のそれと近いような視線を向けていた。


「この子のあとをつけてたのは、死なない程度に怪我させてアンタらの居場所やこれからの計画を吐かせるため。…命は見逃してくれるんでしょ?早くその銃下げてよ。こんなバカな子に庇われたなんて、情けなくて誰にも言えないわ。」


そう言うとフィオナと名乗った女は視線を右に泳がせた。その言葉に素直に従う兵長。銃口が完全に地面に向けられたのを確認して、私は立ち上がった。そして、今度は私に声をかけた。


「ねぇアンタ…一つ良いこと教えてあげようか?…アンタが言った、アンタらの仲間がもう私達の動きに勘付いて、新しい隠れ家に移動したって話…あれが私を拘束するためについた嘘だったなら…今頃アンタの他の仲間、大変なことになってるかもね…。」
「どういうこと!?」
「私は本当のことを言ったってこと。もうアンタらの隠れ家はとっくに割れてる。アンタを尾行してたのはあくまで隠れ家が外れだった場合のための保険…。私の仲間たちが、今頃アンタの隠れ家をくまなく漁ってるよ。今から馬を走らせれば、ギリギリ間に合うかも知れないね…。」


フィオナはそれ以上のことは一切口を開かなかった。最も、こんなことを言われれば私達も急ぐ他に選択肢はない。これ以上のことは何も聞き出せないと判断した兵長は、私に自分が乗ってきた馬に一緒に乗るように言い、兵長に手綱を掴まれた馬は、先ほど私がしたかったように最高速度で荒野を駆け抜けた。みんなの居場所まで、あともう少しだ。



***



「あ、危ねえ…今夜もあの家で寝てたら、俺たちどうなってたんだ…?」


少し小高い丘の上から、さっきまでリヴァイ班が住処としてきた家を見下ろすと、そこには数人の武装した兵士と見られる者が捜索をしていた。…恐らく、フィオナの仲間たちだろう。彼女の命を助けた代わりに、私達も助けられた。もし、一つでも何かの歯車が狂っていれば、私を含め誰かが欠けていたかも知れない…。そう思うと震えが止まらない。


「…あぁ。半端なクソ野郎が二人いたおかげで助かった。」


そう言って、兵長は私にゴミを見るような視線を向けた。他の新兵たちは何を言っているのか分からない、と言った表情だった。


「…あれが正しかったかどうかなんて、俺には分からねぇ。ただ、あの時お前があの判断をしてくれたおかげで俺たちは助かった。…よくやった、ナマエ。」


そう言って、兵長は私の頭を撫でた。その瞬間、兵長に触れられた部分が自分のものではなくなったような変な錯覚に陥る。二人きりの時にでもたまにしか発動しない、兵長の物凄く貴重なデレが、なんとこんな状況で今発動しているのだ。しかし、口をパクパクさせ、言葉を発することができない私に兵長は畳み掛けた。


「…まぁ俺なら、あんな無様な真似はしねぇがな。」




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