kuzu

Medium story

三人目

「ジャン・キルシュタイン…」


あのあと、何とか言いくるめアルミンを部屋から帰したあと三人目に書かれている名を読み上げる。
アルミンの時と同様、彼は体が弱いなんてキャラじゃないので薬のまま手渡す口実が見つからない。
だとすると、また何かに混ぜて服用させる必要がある。
彼の興味のあるものと言えば……。


「はぁ?内地産の野菜で作ったスープ?興味ねぇよそんなもん。」


その風貌ゆえ近寄りがたいにも関わらず勇気を出して声をかけたのに、あっさり一蹴されてしまった。
あれだけ内地だ憲兵団だと豪語し、何故か調査兵団を選んだ彼のことだからてっきり内地の何かしらに食いつくと思っていたのに。
私の思惑は外れてしまったらしい。
くるりと踵を返し背を向ける背中を再び振り向かせようとするも、言葉が見つからない。
するとその横から物凄い勢いで何者かが駆けてきた。


「ナマエー!!今の言葉聞き逃しませんでしたよー!!内地産の野菜!?
魅力的じゃないですか!!ジャン何かに渡さずにぜひ私に!!!」


どこから聞いていたのかサシャだった。
どうやら内地産の野菜、と言うワードを聞きつけて駆け寄ってきたらしいが、残念ながらサシャの名前はハンジさんからもらったリストにはない。


「い、いやあげたい気持ちは山々なんだけど私はサシャじゃなくてジャンに、」
「な、何で私じゃなくてジャン何ですか!…はっ、もしやナマエはジャンのことを…?」


えっ、と私が否定しようとすると、前を向き歩きかけていた背中も止まった。
チラリ、と私の方を見る目が先ほどのものとはまるで違う。
心なしか赤くなった頬をポリポリと掻きながら、ジャンは私の次の言葉を待っているようだった。
隣のサシャも何かを期待したような目でこちらを見ている。
どうやら、何かとんでもない勘違いをされているようだ。
しかしこれを利用するしかない。もうどうにでもなれ。
ハンジさんに頼まれたこの実験で、私は何か大切なものを幾分か失っているように感じた。


「…っそ、そうだよ!!私は、ジャンに食べてもらいたくって、ジャンは内地に行きたがってたから…内地産のものなら喜んでもらえるかと思って、
ジャンのために、作ったの…!!」


思ってもいないことなのに、顔が熱くなるのは何故だろう。
言い終えるとサシャは察したように、「じゃあ私はこれで失礼しますね。でも余ったら私にも下さいね。」と言って去って行った。
ジャンも先ほどよりも顔を赤く染め「そ、そういうことだったのかよ…ま、まぁなんだ…ちょうど腹も減ってたところだし、食ってやるよ…」と続ける。
一時は危ぶまれたが、捨て身の作戦により私は運を味方につけられたみたいだ。


何故か変な雰囲気が漂う中、私はジャンを部屋に招き入れ彼の前に例の薬入りのスープを差し出した。
まだ顔の赤い彼は迷うことなくそれを口へと運ぶ。
そしてウォール・ローゼ内で収穫されたであろう何の変哲もないただの野菜たちに「やっぱり内地産は味が違うぜ」とご丁寧な感想まで付け加えて、
最後の一滴まで飲み切ったところで、前回の二人同様ジャンは苦しみだした。
アルミンの時のように、背中をさすってあげるとスルスルとその背中が小さくなるのを感じる。


「ジャン…?大丈夫??」
「…あ?おまえだれだ…?」


エレンの時よりも小さくなったジャンは、それでもご健在の悪人面を引っ提げて私を見た。
念のため名前や年齢を尋ねてみるも、「しらねぇ」の一点張りでどうやらアルミンとは違いジャン自身の記憶は反映されていないみたいだ。
一般的なことから言うとこの年齢は色んなことに興味を示し、とにかく落ち着きのない年頃だ。
それに沿ったようにジャン(推定3歳)は走ったり飛び跳ねたり本能のままに動き、私の机に置いてあるものや引き出しなど目に入るものを手あたり次第に触り、
私の手を焼かせた。
しかし所詮は子供の体力。
ある程度騒いだところで疲れたのか、そのうち動きがとまり目をこすりだした。


「…眠たいの?」
「……。」


私の言葉には返答せずにゴロンと床に横になる。
そんなところで寝られて風邪を引いてもらっては困る。
そう思った私はジャンを抱きかかえ、自分のベッドへ寝かせた。
起きるまで待つか…、そう思い離れようとするとジャンが子供の力とは思えないほどの強い力で私の服を掴んでいることに気づいた。
身動きが取れない。
年相応のあどけないジャンの寝顔を見ていると、私も朝からこの実験のためにせわしなく動いていたため眠気が襲ってきた。
ジャンが起きるまで、私も寝ようかな…。
ぼんやりとした頭でそう考え、ジャンの隣で横になった。


「…い、おい、ったくどーなってんだよ…!」


何やらかなり慌てた様子の野太い声が隣から聞こえてきて目を開けると、ジャンが隣で寝ていた。


「なっ…!あんた、人のベッドで何やってんの!!」
「そ、そりゃこっちのセリフだろーが!テメェががっちり俺のこと…そ、その抱きしめてっから、俺は身動きとれなかったんだよ!!」


まだまだ追いつかない頭を可能な限りフルスピードで回転させる。
そうだ、例の薬をジャンに試して、小さくなったジャンが寝たから私も隣で寝て、…その間にジャンが元に戻っちゃったんだ。


「あのスープ飲んでからの記憶がねぇ…。どーなってんだ…。まさかお前、あれに睡眠薬でも仕込んでで寝込みの俺を襲うつもりだったんじゃ…!」


あながち間違っていないジャンの発言に、思わず平手で返事をすると彼はぶたれた右頬を抑え悪態をつきながら走って部屋を出ていった。
あの日から何故か、ジャンが変な目で私のことを見てくる。
この責任、ハンジさんにどう取ってもらおうか。




[戻る]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -