kuzu

Medium story

二人目



「アルミン・アルレルト…」


昨夜、エレン共々ミカサにこてんぱんにやられた重い体を引きずりながら、二人目に書かれた名前を読み上げる。
こんなことになるなんて、ハンジさんの命令なんて聞くんじゃなかった。
そう思うものの、他にも数名見知った名前が連なっているこのリストから、たった一人しか試せませんでしたなんて仕事が出来ない奴だと思われてしまう。
それは避けたい。ならば、この任務を続けるほかない。
昨日寝る前に散々考えたことをもう一度考え、そしてやっぱり答えは変わらずに次の作戦を練る。
うーん、アルミンか。彼が体調不良を訴えたところなんて見たことがないし、何より鋭いからすんなり薬を飲んでくれるとは思えない。
何かに混ぜて、薬だと気づかれないように飲ませるしか…。


コンコンコン、と遠慮がちにノックされた自室のドアを開ければそこには、大きな目をキラキラと輝かせたアルミンが立っていた。
どうぞ、と中に招くと周りをキョロキョロ見渡し今か今かと待ち構えている。
先ほど、朝食の席で「壁の外について書かれている本を見つけたんだけど、アルミンに見てもらいたいな」と言う私の誘い文句にアルミンは
想像以上に食いついてくれた。
そんなアルミンを落ち着かせてソファに座らせ、彼の前に紅茶を置く。


「確か、この本棚に置いたはずなんだけど…ちょっと今探してくるから、紅茶でも飲んで待っててもらえる?」
「わかった。紅茶まで淹れてもらっちゃって、何だか気を使わせちゃったね。」


彼の眉毛が申し訳なさそうにハの字に下がり、紅茶に口を付けるのを横目に私は本棚の中から”壁の外について書かれている本”とやらを探すフリをした。
言うまでもなく、これはアルミンを部屋へ呼び出す口実でありそんな代物が一介の新兵の部屋に置いてあるはずがない。
私がこの本を探すフリをしている間に、アルミンにはその紅茶を出来るだけ多く飲んでもらう必要がある。
何故ならその紅茶こそが、アルミンをここへ呼び出した真の目的なのだから。


うっ、と昨日のエレン同様苦しそうな声が聞こえてきてハッとアルミンの元へ駆け寄る。
わなわなと震えるアルミンの手から空のコップを受け取り、テーブルに置くとその手でそのままアルミンの背中をさする。
実は出来るだけ早く紅茶を飲んでもらうために、アルミンのパンにだけいつもよりたくさんバターを塗って喉が渇くように仕向けた、なんて口が裂けても言えない。


「アルミン…大丈夫…?」
「うっ…は、はい、大丈夫、です…。」


ハンジさんの言葉を借りると個体差、なのだろうか。
エレンの時より苦しそうな声を上げながら、アルミン(見た目は昨日のエレンより大人びて見える)は何故か私に敬語を使いながら答えた。


「…お名前は?」
「あるみん・あるれりゅ、と…。」


幼さ故か、舌っ足らずに自分の名前を答えたアルミンはコホコホと少し急き込んだ。
予め用意していた水(正真正銘のただの水)を差し出すと、それを素直に飲む。
驚いたことに、エレンの時は記憶がなかったのにアルミンははっきりと自分が誰なのか分かっているようだった。
私に対して敬語を使ったのも、おそらく私を目上の人だと認識してのことだろう。
これには、元々の頭脳に関係しているのだろうか。
嫌々ながら始めた実験だが、少しおもしろくなってきた。


「アルミン、くん…何歳?」
「んー……」


自分の歳は分からないのか、答えられないほど幼いのか。
見た目が昨日のエレンより大人びて見える分、大体5歳以上だと予想できるが当の本人は首をかしげた。
分からないことを無理に聞いたって、答えは出ないだろう。
そう結論付けた私はとりあえずアルミンを観察してみることにした。


「うわぁー…すっごい…!」


アルミンは私が先ほど立っていた場所、すなわち本棚の前に駆け寄り、自分よりも何倍も高い本棚を見上げて興奮した声を上げた。
小さくなったって、やっぱりアルミンはアルミンらしい。
その隣に立つと、部屋を訪れた時のように目をキラキラと輝かせて「お姉さん、お話読んでくれる…?」と言った。
その目で見つめられると、Noなんて言えない。
「いいよ」と言うと彼は手近にあった本を掴み、私をソファーへ誘導した。
そして当然と言うように私の膝の上へよじ登り、その前で本を開く。
私は、アルミンを後ろから抱きしめるような状態で彼の持っている本に両腕を伸ばした。


「これは、わるーいことをするとやってくる、人間よりも大きな大きなお化けの話だよ。」
「えっお化け…?」


アルミンがチョイスした本を開いてみると、それは巨人の本だった。
と言っても、ここにある本のほとんどがそれだ。
もちろん、子供に読み聞かせられるような絵本なんかはどこにもないし、巨人の話なんて子供には出来ない。
仕方がないので、巨人をお化けに置き換えてでたらめに話をするとアルミンは小さな体を震わせて心底怯えてしまった。


「だ、大丈夫だよ…!いい子にしてればこのお化けは来ないからね?
良い大人が、いつかこのお化けたちを一匹残らず追い払うからね?」


そう言うとアルミンは少し安心したように、体ごと私の方へ向きぎゅっと私に抱き着いた。
エレンの時もそうだったが、今は子供だと言い聞かせてもやっぱり三年間厳しい訓練を共にした同期だ。
何かを感じずにはいられない。
自分の頬が赤く染まるのを感じると、アルミンはうっとまた苦しそうな声を上げた。
膝に乗る重みが、先ほどの比ではないほど重く感じる。
まさか、と思ったときはもう遅かった。


「「………!?」」


すっかり元の姿に戻ってしまったアルミンが、私の膝の上で言葉を失っている。
向かい合わせに座ったアルミンの瞳にも、驚いた様子の私が写っていた。


「ごっ、ごめん…!なっ、何で僕がナマエの膝の上に…一体何があったんだ…!!」

急いで私の膝の上からどいたアルミンはひどく混乱しているようだった。
当然である。
頭を悩ませ、必死に思い出そうとしているアルミンは閃いたように目を見開いた。


「確か、紅茶を飲んで急に苦しくなって…そこからの記憶がない…そうだ!確か、壁の外について書かれている本があるんだよね!
僕はそれを見せてもらうためにナマエの部屋に来たんだった!ねぇ、今見せてもらえる?」


再び目をキラキラと輝かせたアルミンに私はたじろぐ。
この作戦は完璧だと思えたが、アルミンが元に戻った時のことは考えていなかったのだ。





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