kuzu

Medium story

一人目


「エレン・イェーガー…」


ハンジさんから渡された紙に書かれていた一人目の名前を読み上げる。
対巨人用と言うことで、巨人化に成功している彼が選ばれたのだろうか。
彼の性格上、私からこの薬を手渡せば特に何か疑われることもなく服用してくれそうだが、彼にはミカサがいる。
きっとミカサに見られたら、何か言われるに違いない。
彼がミカサと居ないところを狙うしか…。


「エレーン!!」


考えた結果、私は入浴前のエレンにこの薬を渡すことに決めた。
もちろん、ミカサが女子用のお風呂に入っていくのをしっかり見届けたあとだ。


「ん?ナマエか。どうした?」
「あ、あのねエレン、エレンこの前時々頭が痛くなるって言ってたじゃない?
それで、この前街に行ったときすごく頭痛に効く薬があるって聞いて買ってみたの!
これ、使ってみて…?」


前もって考えていた言葉を並べて、エレンの前に例のカプセルを差し出す。
エレンはしばらくカプセルを見た後、もう一度私の方を向いた。


「…ほ、本当か!?ありがとう!お前良い奴だな!早速、寝る前にでも飲んどくよ。」
「い、いや今飲んでくれない?その、何かお風呂前に飲むのがいいんだってそれ!
お風呂に入って、血行が良くなる前に飲むのがいいとか何とか…詳しくは分からないけど。」


最後、都合が悪くなり尻すぼみになってしまったがエレンは「そうなのか!」とあっさり私の言葉を信じ、持っていた水筒から水を飲み一緒に薬を飲んだ。


「………!?」


その直後、うっと一言苦しそうな声を出しエレンは蹲ってしまった。
慌てて支えるも、息がすごく乱れている。
どうしよう。とんでもないことをしてしまった。
早く、ハンジさんを呼ばなきゃ…!
そう思っていると、いつもよりすごく弱弱しい力で腕を掴まれ、どこから聞こえてきたのか可愛い声が聞こえてきた。


「お、お姉ちゃん、誰…?」


ぎょっとしてエレンの方を見ると、そこには彼をそのまま子供にしたような小さな男の子が私の腕を掴んでいた。
こ、これってもしかして、あの薬の…、


「エ、エレン!?」
「えれん…?それって僕の名前??」


私の方を見てきょとん、としたエレン(推定5歳くらい)が言った。
どうやらこの薬は体を小さくさせるばかりか、記憶までなくしてしまうらしい。
本当に大変なことになってしまった。


「エレン…、何か変わったところはない?」
「変わったところ??」


さっきまでのエレン(15)が着ていたシャツの袖を、体が小さくなったためぶかぶかになってしまったエレン(5)が袖をパタパタさせて言った。
変わったところ、なんて言ったって変わったところだらけ何だから今のエレンに言ったって何も分からないだろう、と言葉にしたあとで思う。
一体、どうすれば…。と、とりあえずこんなところ人に見られてしまってはまずい。
まだまだ実験段階のこの薬のことを、きっとハンジさんは誰にも知られたくないだろう。
そう思った私はエレンを抱っこして、走って自分の部屋へと向かった。


「アハハハハ!!!おもしろい!もっとー!!!」


抱っこしながら走っていると、それが何故だかお気に召されたらしく上機嫌だ。
不機嫌になり泣かれるよりましだと思い、そのまま部屋へ連れていく。
エレンは私の部屋にあった文房具やら本やらを、何かのロボットやおもちゃに見立てて遊び始めた。
それの相手をしながら、これからのことを考える。
そういえば、体を小さくしてからのことをハンジさんに聞くのを忘れていた。
これからどうすればいいのか。この薬はいつ効き目が切れるのか。
っていうか、薬が切れる保障なんてあるのだろうか。
エレンがこのまま子供のままだったら、私のせいだ…。
鏡を見ずとも青い顔をしているのが分かる私をよそに、エレンはすこぶるご機嫌に遊びを続行している。
そしてふと立ち上がり、両手を広げて私に何かを訴えた。それはまるで…、


「抱っこ。さっきの、もっかい!!」


さっきの、とはお風呂場の前からこの部屋へ連れてきたときの走りながらした抱っこのことだろうか。
仕方ないので彼の要望通り抱っこをして部屋を小走りしてみたがそれでは満たされないらしく、彼は口を尖らせた。
どうやら、さっきのように廊下を走りながら抱っこしろ、とのことらしい。
今なら大多数の人間がお風呂に入っているだろうから、誰かに見られる心配はないけれど、大丈夫だろうか。


「早く!!!お外で!!!さっきの!!!」


先ほどより強い口調で言う彼に根負けし、ぐずられても困るので素直に従い、廊下で20分程前の自分の再現をした。
彼はまた笑いだしご機嫌に戻る。
が、子供特有の「もういっかい!」が何度も発動し額から汗がしたたり落ちる。
一体、彼はいつ満足するのだろうか。
いつまで、これを続けなければならないのだろうか。


「お姉ちゃんだーいすきっ!!ちゅっ。」


すると突然、彼の言葉と頬に感触を感じ私は一時停止をした。
い、今何を…?
その瞬間、エレンを抱っこする腕が尋常じゃないほどの重みを感じ膝から崩れ落ちる。
エレンは私の首を両腕に巻き付けたままだが、それがいつの間にか力強いものに変わっていって…。


「「………!!」」


痛みに瞑っていた目を開けると左横、目の前にはエレンの顔があった。
頬の感触は、まだ感じたままだ。
バッと勢いよく首から両腕が離れ、エレンが顔を真っ赤にさせる。
あれ、元に戻ってる…!?


「っな、何だこれ…!一体どうなってる!!どうして俺はここに…!?何でナマエに…!?」


目を見開きあたふたしているエレンに、どう説明すればいいか分からず口を開くことができない私。
その後ろから、石鹸のようないい匂いとそれに似合わない強い殺気のようなものを感じ、二人で振り向く。


「今、二人で何してたの…?」


タオルを片手に入浴を終えたらしいミカサが、今まで見たことのないような顔をして私たちの前に立ちはだかっていた。
それからあとのことは、もう思い出したくもない。



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