kuzu

Medium story

処方箋

頼み事がある、とハンジ分隊長に言われ、指定された時刻に私は部屋をノックした。
部屋の主は私を見るなり目を輝かせて中へ招き入れる。
そして、何かカプセルのようなものが数錠入った小瓶を私に渡した。


「…こ、これは?」
「アポトキシン4869。もっとも名前なんてどうでも良いんだけどね!」


フンフンと鼻息が聞こえるんじゃないかってくらい興奮したハンジさんが言った。
この顔は巨人に関連する話をする時にしかしない。
今日は長くなるかもな、と覚悟しながら小瓶に目を落とす。


「あ、あぽときしん…。」
「そう。とある筋から手に入れた特別な薬でね。簡単に言うと、人を小さくすることの出来る薬だ。」


なんてことない、と言った風に淡々と話すハンジさん。…今、とんでないことが聞こえた気がするんだけど。


「えっ?そんなもの、一体どこから入手したんですか?」
「それは言えない。この世界を崩壊し兼ねないからね。」

ニコッと笑うハンジさんにゾクッと背筋が震えた。
この世界を崩壊し兼ねない、と言うことは人類を滅亡し兼ねない、と言うことだろうか。
そんなに重要な情報網と、ハンジさんが繋がっていたなんて。


「………。」
「まぁ驚くのも仕方ないよね。私も最初はびっくりした。
でも、話を聞いている内に、私はこれを巨人に対して使えないかと考えた。つまり、彼らを巨人ではなく小人にするんだ。」
「は、はぁ…。」


人を小さくする薬、と言うのも理解しがいけど巨人を小人にする…?そんなこと、考えもしなかった。
だけど、もしそれが可能なら、人類は巨人に勝てるかもしれない。
ゴクリと生唾を飲み、再び小瓶を見つめる。
人類の勝利の第一歩が、私の手の中にあるこの薬…。


「だけどその薬にはまだまだ不確かな部分が多い。何せ開発者である彼らですらあまりよく分かっていないみたいだったからね。
だけど現に、その薬を飲んで小さくなった人間がいるって言うんだから、その薬の効き目は間違いない。
そこで、私は対巨人用に彼らからこの薬をもらい、いくつか改良した。
本来ならこの段階で実験ができれば上出来だったんだけど…あいにく今は実験体に出来る生け捕りの巨人がいない。
そこでだ…。」


ハンジさんの眼鏡が光る。なんとなく、いやな予感がした。


「これを、人に試そうと思う。」
「やめてください。」


予想通りの言葉が聞こえ、私は即座に反対した。
こんな得体の知れない薬を人に試すなんて、ありえない。


「ほんとなら私が直接誰かに飲ませて試したかったんだけど…ちょっと今立て込んでて。
代わりにナマエにお願いしようと思って!
日頃仲の良い同期とかになら怪しまれずにこの薬を盛ることができるだろう?
あとで報告書を書いて私に届けてくれ!」
「…あの、さっきの言葉聞こえましたか?」


私の異論を唱えた言葉はハンジさんの耳には届かなかったらしい。
どうなるんだろうこれ…!と興奮マックスのハンジさんにはもう誰も楯突くことは出来ない。


「いいかいナマエ?これは命令だ。今からこの紙に書かれてある者にこの薬を飲ませるんだ。
大丈夫!この者達の命は私が保障する!!決して危ない薬ではないから。
ただほんのちょっと小さくなるだけだから!」


ほんのちょっと体が小さくなる薬のどこが危なくないんだろうか?
矛盾しているハンジさんの言葉に疑念を抱いたが、彼女の言う通りこれは命令だ。
立派な職務だ。
これが人類の第一歩になるなら…。




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