kuzu
首ったけ!1st
兵長の支えになりたいです

「今日もいい子だったね。たくさん食べてゆっくり休んでね。」


餌を食べる兵長の馬の鬣を撫でてやると馬は嬉しそうに目を細めた。 馬小屋の掃除をして、彼らに餌をやると私の一日の職務は終了する。本当はこの仕事は、リヴァイ兵長のティーカップを割った際に濡れ衣を着せてしまったオルオさんとエルドさんの仕事だったんだけど、それではさすがに虫の居所が悪いので私が代わりを買って出たのだった。あれから一週間以上が過ぎたけど、動物は嫌いではないし一日の彼らの活躍を労いたいので今では私の仕事の一部となっている。そんなお陰でここにいるリヴァイ班の馬たち、特に何故か兵長の馬はとても私のことを気に入ってくれていた。これが本人だったらな…なんて思うけれど兵長は相変わらず私のことを巨人を見るような蔑む目で見下し、ゴミのように扱った。もうすっかり慣れてしまったと言えばそれまでだけど、やっぱりせめて一班員として扱って頂きたい。壁外調査も近づいて来て、それに伴う訓練が増えてきたけどやっぱり私がまだまだ"新兵"だからなのか積極的に攻める前衛ではなく、エレンと共に後衛を担うことが多かった。信頼されていないのだろうか。そりゃあ、掃除中に兵長のことを考えすぎてボーッとしてしまったり、うっかり兵長のティーカップを割ってしまったり、石鹸やタオルを補充し忘れてしまったり、色々やらかしてしまって信頼に値しないだろうけど、でも兵長のことを思う気持ちは誰にも負けないのに。


そんなことを思いながら、自分の馬を撫でていると先ほどまで撫でていた兵長の馬が自分ももっとしてくれと言うように頭をこちらに向けてきた。私の馬と兵長の馬は、仲が良さそうに隣に寄り添う。ああ、私と兵長もいつかこんな風になれたらいいのにな。


「お前は本当、兵長の馬に好かれてるな。」


そんな私に後ろから声をかけてきたのはグンタさんだ。私の横に立ち兵長の馬に近付こうとするが、馬は歯を剥き出しにしてグンタさんに威嚇した。差し出した右手をグンタさんが顔をしかめながら引っ込める。


「この馬、リヴァイ兵長とナマエ以外には懐かねぇーんだよなぁ…。こんな様子じゃもしもの時に困るんだが。」
「もしもの時…ですか?」
「例えば、壁外でこの馬が迷子になったときに兵長以外の他の誰かがこの馬を手懐けようとしても、こいつは兵長とナマエ以外は受け付けないだろうな。」
「なるほど…。」
「本当の兵長も、ナマエに対してこんな風だったらいいのにな。」


まさに今考えていたことをグンタさんに言い当てられて、思わず顔が赤くなる。


「俺には満更でもなさそうに見えるんだが。」
「どう言う意味ですか?!」
「いや…俺の口からは何も言わない方が良いだろうな。」


何やら意味深な発言をするグンタさんに首を傾げると頭を撫でられて話を続けられる。


「ところで、ナマエは何でそんなに兵長のことが好きなんだ?」
「え、そ、それは、リヴァイ兵長が強くて優しいからです…。」


そう言うとグンタさんはニコリと笑った。いざ言葉にするとそれは重みを増して私の心にストンと落ちた。


「兵長の強さの秘密は優しさにあると思うんです…。私なんかよりきっと、もっとたくさんの仲間を巨人に喰われて辛い思いをしてると思います。でもその巨人に屈するのとなく、仲間に復讐を誓って戦うその姿勢が…大好きです。でも人は、大事な仲間を奪われてまで正気でいられるほど強くないと思うんです。兵長はきっと、無理をしてます。人類のために、心を鬼にして戦ってるんです…。人類はそんな兵長によって支えられています。でも…それじゃあ誰が兵長を支えるんですか?私は…今はゴミ扱いだし使えない新兵だって思われてるけど、いつか…いつか立派な兵士に成長して、兵長の支えになりたいです…!」
「…そうか。その想い、いつか兵長に届くといいな。」


グンタさんはそう言いまた微笑んで私の頭を撫でた。去って行くグンタさんを見つめて、また兵長の馬を撫でると彼は気持ち良さそうに私に頭を預けた。


「兵長、あの…あんなに熱く語られると思ってなかったので…すみません、好奇心で聞くべきことではなかったです…。あの、馬の手入れでしたよね?行きますか?」
「……気が変わった。あのクズには手伝わせずにてめぇが一人で全頭手入れしろ。」
「えっ」


この日の会話が、兵長に聞かれていたと知るのはまだ少し先のことだ。



前へ 次へ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -