kuzu
首ったけ!1st
水も滴るいい兵長

「や、やばい…!!」


夕食も済み、いつも通りエレンと片付けをしているととんでもないことを思い出した。午後の掃除で風呂場を担当した私は新しい石鹸とタオルを補充するのをすっかり忘れていたのだ。ハッと時計を見ると、いつも一番風呂に入る兵長の入浴時間をとっくに過ぎていた。やばい。


「ナマエさん、どうしました?」


焦る様子の私にエレンが心配そうに声をかける。事情を話すとエレンは顔を真っ青にさせて、ここは俺がしとくんで早く補充して来てくださいと言われた。これではどちらが先輩か分かったものでない。自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れつつも私は急いで備品室から石鹸を、リネン室から新しいタオルを持って風呂場へと向かった。ここまでは良かったのだが、


いざ風呂場へ辿り着くと、シャワーの音が聞こえ既に兵長が入浴されていることを知らせていた。もう、石鹸やタオルがないことに気付いただろうか。いや、気付いているならそのまま私に怒りの矛先を向けているだろう。シャワーを浴び体が濡れた状態で石鹸がないことに気付き、取りに行こうとすれば水分も拭き取るタオルもないとなればさすがの人類最強もなす術がない。ああ、どうしよう。


「へ、へいちょう…?」


とやかく考えたって仕方が無い。ここは一刻も早くこれらを届けるのが悔いなき選択だ。すると、か細い声だったにも関わらずシャワーが止まり、代わりに兵長の「…あ?」と言う声が聞こえた。…ちょっと怒っているかも知れない。


「リヴァイ兵長、あの…私、午後の風呂場の掃除を担当してたのですが…石鹸と新しいタオルを補充するのを忘れていて…」
「……またお前か。」


予想通りの落胆する声が聞こえて私も肩を落とす。すると兵長から入って来い、と言われた。もちろん風呂場の真ん前にいる私に脱衣所まで入って来いと言っているのであり、その先の兵長のいる入浴所ではないのは百も承知だが、それでもドキドキと言うか興奮してしまう。だって、扉一枚隔てた先に逸し纏わぬ兵長が居るなんて…!


「しっ、失礼します!!」


風呂場を開け、脱衣所に入ると入浴所から漏れた湯気とシャンプーの良い香りが充満していて思春期の男子並みに血気盛んな私の理性を揺さぶる。そんな私の揺れ動きまくってる粗末な理性を削ぐ材料はそれだけではない。綺麗好きな兵長らしく、先ほどまで着ていた服やこのあと着る予定であろう寝間着が"ご自由にお取りください"とでも言いたげに綺麗に並べられていた。お言葉通り、そうさせて頂いても構わないだろうか。何も替えの少ない制服や新しい寝間着を盗んで兵長を困らせようなんて考えていない。少しだけ、パンツだけ(もちろん使用済みの方)失敬させてもらえればもうこの命に悔いはない。ダメだろうか。それとも、このまま服を脱いで入浴場は行けば「新兵よ、背中を流せ。」なんて胸熱な展開にならないだろうか…!ゴクリと生唾を飲んで兵長の次の指示を待つと、な、なんと…


「危うくシャンプーで体を洗わなきゃならなーところだったじゃねぇか。早くそれをこっちに渡せこのクズ野郎。」


フェイスタオルを腰に巻き、水も滴る良い兵長が私の前に立っていたのだ。いつものセットされたヘアーとは違い、水滴の落ちるぺちゃんこの髪は妙にセクシーで、入浴中だった為か少し赤く染まった頬は、私を誘っているようにも見える。均整の取れた綺麗な全身の筋肉は私をこれ見よがしに挑発している。シックスパック、っていうのだろうか、お腹なんかはパックリ割れて色々大変なことになっている。そして、フェイスタオルを巻かれた腰なんかもタオルの上からだって細身のくせに筋肉質なことを物語っている。て言うか、兵長の大事なところを守ってるタオルの面積が小さすぎる…!私が仮にフェイスタオルも補充し忘れていたら兵長は桶でも使ってそこを隠したのだろうか。何故自分はフェイスタオルも忘れなかったのか。いや、それより足だ。太ももから脹脛までカチカチの筋肉に纏われていて、それら全てが兵長を創り上げていると思うと、思わず、


「おい、何突っ立ってやがる。とっととかせ。」
「ごっ、ご馳走でしたー!!!」


兵長に声をかけられ正気に戻った私は、石鹸とタオルを兵長に手渡しそれを受け取る兵長をもう一度見つめたところで私の頭は容量オーバーになり何も考えられなくなった。思考回路はショート寸前、ってやつだ。本当ならこの目に焼き付けたかったそのお美しい姿だがこれ以上見とれているときっと私は爆発してしまう。そう思った私は咄嗟にご馳走様でした、と無防備な姿を見せて下さった兵長に礼を言い、走って風呂場を後にしたのである。その夜は興奮して寝付けなかった。



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