kuzu
首ったけ!1st
兵長のためなら喜んで

「…今日のは誰が淹れた?」


古城での生活も数日が経ち、すっかり恒例となった午後のティータイムの席で兵長が口を開いた。ゴクリ、と含みすぎた紅茶を飲み込むとその熱さに驚き噎せ返る。食事や掃除、洗濯などの役割を毎日交代ですることになっているのだが、何を隠そう今日の紅茶を淹れたのは私なのだ。…お口に合わなかったのか。兵長の好みをリサーチし、足繁く通っていると噂の茶葉店にまで行ったのに、また私はヘマをやらかしたのだろうか。肝心の兵長はいつも通りのポーカーフェイスなのでその真偽は図れない。


「確かに、いつもの紅茶と違いますね!匂いもすごく良いし、どうやって蒸らせばこれだけ香りが残るの?」
「確か、今日の担当はナマエだったよな…。」
「ま、俺が淹れる紅茶には到底叶わねぇーが新兵にしては上出来だな…。」
「うん。確かにうまいな。どの茶葉使ったんだ?」
「俺、味とかよくわかんねーけど…これ美味しいです!」


兵長に続き他の班員もそれぞれ口を開き私の紅茶を褒めてくれた。…肝心の兵長は?今日の紅茶を淹れたのが私だと分かると、兵長のクールな切れ長の目が少しばかり見開かれたのを私は見逃さなかった。今のは何だ。どういう意味だ?見えない兵長の表情を必死に汲もうと見つめていると、兵長は「…そうか。」と何の返事に対する応答なのか分からない言葉を発した。これじゃあ何が言いたかったのかさっぱり分からない。


「…今日の紅茶を淹れたのは私です。お口に合わなかったですか…?」
「いや…」
「美味しいですか?」
「………。」


私の踏み込んだ発言に兵長は返事をしない。少し目を右に泳がせる。それはまるで誰かに助けを求めているようだった。しかし、そんな兵長を知ってか知らずか誰も口を開くものは居ない。今日の紅茶は私だって、自分でもすごく美味しいと思う。兵長に気に入ってもらえるように、美味しい淹れ方を勉強したのだから当然だ。現に他の人にも褒めてもらえた。だから、兵長からもお褒めの言葉が欲しい。たった一言「美味しい」と言ってもらえればそれだけで私は、


「美味しい、ですか?」
「………。」
「おいし、」
「しつこいぞ。」


どうしても兵長からの一言が欲しくて詰め寄ってしまうと、兵長は怒ったように立ち上がってしまった。そして「淹れたのがてめぇだと分かって褒める気が失せた。」とかなりショックな言葉を吐いて扉へと向かう。何故だ。紅茶が美味しいのとそれを淹れた人間がどう関係あるのか。いくら淹れた人間が粗大ゴミ並の価値しかない人間だったとしても、美味しい紅茶に罪はない。もう私に対する評価は諦めるとして、意地でも兵長から"美味しい"と言わせてやりたい。そう思い思わず立ち上がると扉に手をかけた兵長の背中から声が聞こえた。


「おい新兵よ。どうしようもなく使えねぇ奴だと思ってたが、人間何か一つは並に出来るように作られてるらしいな。…今度から、てめぇが紅茶を淹れろ。」


兵長のためなら喜んで!、と返そうとすると扉がバタンと閉められ私が返事を返せることはなかった。だけど、やっと兵長に認められた!!今なら私は、超大型巨人でも倒せる気がする。




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