kuzu
首ったけ!1st
兵長の愛情は分かりにくい

「あの、兵長…、」
「クソみたいにでけぇ埃がこびりついてやがると思ったら、お前だったのか。新兵よ。」
「…………。」


古城に着くなり、早急に取り掛かるぞと掃除を始めたリヴァイ兵長に待ってましたと言わんばかりに私は自分の荷物を広げる。エレンにも渡した荷物の半分を広げるように言うと彼は包みを開けてゾッとした。兵長の言うとおり、用意出来るだけ私は掃除道具をかき集めてきたのだ。これには兵長も眉間に寄せた皺を和らげて「…ほう。」と言って私を褒めた。いや実際のところは「…ほう。」としか言われていないので定かではないが私には分かるのだ。この「…ほう。」という言葉は口下手な兵長が発した最大級の褒め言葉であり、これには「お前ならやれると思っていた。ナマエよ、俺はお前を見直した。」くらいの意味が含まれているのだ。思えばこの一年で初めて褒めてもらえたかも知れない。今日は初めて記念日だ。そんなことを考え緩む頬を抑えきれずにいると、目の前に愛しくて堪らない兵長が現れ「…ほう。」以上の褒め言葉が頂けるのかと待ち構えていると、私の顔面に向けてホコリ叩きをファサファサと振った。冒頭に至る。遮られる視界から目を凝らして兵長を見るも、兵長の美しいお顔はハンカチで作られたマスクによって邪魔をされ、拝むことが出来ない。


「何気持ち悪い顔面ぶら下げてやがる。ボーッと突っ立ってる暇があるなら手を動かせ。でないと今度は粗大ゴミと一緒に捨てるぞ。」
「す、すみませんでした…。」


素直に謝り、捨てられないように手を動かす。そうこうしていると別の場所を掃除していたエレンが持ち場が終わったと報告をしにやって来た。それを確認すると言い、兵長がその場を離れる。するとすぐにペトラさんが私に駆け寄った。


「ナマエ、髪に埃付いてるよ?」
「あ、さっき兵長にファサファサされたんでその時の…、」
「あの…俺、さっきの見ちゃったんですけど兵長ってナマエさんにだけ物凄く冷たいですよね…。」


私を哀れむような目で見るエレン。何だその目は。私だって本当はもっと兵長に優しい言葉をかけてもらいたい。「俺は天邪鬼だからこんな態度しか取れないけど、本当はいつもお前のことを考えてるんだゼ☆」くらい言って欲しい。それなのに、そんな目を向けられると余計虚しくなる。


「エレンは、ナマエに対する兵長の態度冷たいって感じる?」
「えっ、あれ見てそう思わない人なんか、」
「私はそうは思わないなぁ。」


ペトラさんはそう言うと私に柔らかく微笑んだ。意味が分からずにペトラさんを見るとエレンも同じような反応をしていた。


「ああ見えて兵長、ナマエのことすごく気にかけてると思うの。さっきだってナマエの手が動いてないのにすぐ気付いたし、不器用な言葉だったけど調子が悪いのかどうか気にしてる風にも私には見えたけどなぁ。あと、掃除道具をナマエが用意してた件も言葉にこそ出さなかったけど、すごく表情が和らいでたし、」
「ペトラさん……!!もっと言ってください……!!」
「え」


鼻の奥がツンとして、視界が歪むのを必死で堪える。気持ちがあるのは、私だけじゃなかったんだ…!兵長は兵長なりに、私に愛情を向けてくれていて。なのに私は我儘にもそれ以上を求めてしまっていたなんて。何ていうことだ。私が全て悪かったのだ。これからは、もっと私がアンテナを張って兵長の分かりにくい愛情に気付いてあげなければならない。そう考えていると当の本人が姿を現した。


「おいエレン、全然なってない。全てやり直せ。あと今だに棒立ちしてるそこの粗大ゴミの処分もな。」


いつにも増して冷たい目を向けた兵長はそれこそ私のことを…ゴミでも見るように見下し、エレンに私の処分を命じた。ペトラさんは見て見ぬ振りをしてわざとらしい鼻唄を歌いながら掃き掃除をしている。ペトラさんはこれでも兵長は私を気にかけてると言い切れるのだろうか。



前へ 次へ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -