kuzu
首ったけ!1st
兵長に削がれるなら本望です

「へーーちょーーう!」


愛しい姿を見つけてその名を叫ぶ。お世辞にも大きいとは言えないその背中に飛び掛かると、それより早く私を察知した兵長がサッと脇によけた。空中で方向転換が出来るわけもなく、兵長の旋毛にキスする予定だった私の唇は無残にも相手を地面に変えた。口の中に鉄の味が広がる。物凄く痛い。


「っっいったぁ…」


言葉にならない声を出し地面に転がる私に、兵長は巨人でも見るような酷く蔑んだ目を向けた。そんな表情すら、愛しい。兵長の視界に私が入っていることが嬉しくて頬を染めていると、隣でハンジさんの大きな笑い声が聞こえた。


「アッハハハハハ!!!出た出たナマエだ!!ほんっっとにリヴァイ命なんだね君は!!」


差し出された手に甘えて立ち上がると、そのままハンジさんは私を抱きしめた。スリスリと頬ずりをされて目を細めていると、兵長が盛大にため息をつく。


「おい新兵。俺に関わるなと何度言えば分かる。好い加減にしねぇと削ぐぞ。」


たっぷりと憎しみが篭ったその言葉に、兵長に削がれるなら本望ですと返すとシャキッとブレードが抜かれる音が聞こえた。とは言え心臓を捧げた兵士、そうやすやすと削がれても堪らないので惜しみつつも距離を取る。と言うか、兵長に助けて頂いたこの命だ。兵長に削がれるのも中々おいしそうな展開だが、どうせなら一匹でも多く巨人を倒して兵長に惜しい命だったと悔やまれながらあの世に行きたい。


「でも不思議だなぁ。どうして君はそんなにリヴァイにこだわるの?この人は無愛想だしお世辞の一つも言えないし、面白くない人間だよ。私にしときな、ね?」


いっぱい可愛がってあげるよ?、と続けるハンジさんにめいっぱい首を横に振って答える。


「わ、私はリヴァイ兵長に命を助けて頂きました…!その時決めたんです!この命、燃え尽きるまで兵長に着いて行くと!!」


そう言うとハンジさんはまたケラケラと笑い出した。あれはちょうど一年ほど前のこと。訓練兵を卒業して間も無い私は憧れだけで調査兵団に入り、その直後にあった壁外調査で現実を思い知らされた。私の属していた班は全滅し、目の前で仲間がたくさん巨人に喰われた。その悲惨な状況を目の当たりにした私はすっかり戦意喪失し、15m級の巨人に体を掴まれ死を覚悟した。しかしその直後、巨人が力を失い私の体は宙を舞った。何が起きたのか分からず今度は地面に叩きつけられそうになる私の体を温かい何かが掴んだ。その右胸には自由の翼。刈り上げられた頭から見えるその向こうに、先ほど私を掴んでいた15m級の巨人が倒れているのが見えた。「無事か?」それが兵長が私にかけた第一声だった。これが全ての始まりである。


「あの時、私には兵長が王子様に見えました…。」
「あの時、俺は始めて巨人を削いで後悔した…。」


うっとり、と頬を抑えて呟く私に反吐が出る、と言ったように兵長が私を睨む。あれから、私は兵長に振り向いてもらう一心に訓練を重ね巨人を削いで削いで削ぎまくった。動機が不順なのは否めないがその結果、自分で言うのも何だが私の実力は訓練兵を卒業したての頃とは見違えるほどメキメキと伸び、先輩達にもお褒めの言葉を頂けるまで成長した。それなのに兵長は、もうとっくに中堅(自称)である私を未だに新兵と呼び、その実力を認めてくれない。きっと、まだまだなのだろう。兵長に認めてもらえるまで、私は頑張るぞ。


「大丈夫です!いつか絶対、何故私を早くから認めなかったんだと後悔させてみせますから!!」


そう言い兵長の手を掴むと汚ねぇと即座に離された。


「ひっ、ひどいです!!あの時は私のことを抱いてくれたのに!!」
「だ、抱いた?!ちょっとリヴァイそれってどういう、」


鼻をフンフンと鳴らし興奮しているハンジさんに、兵長はキッと鋭い目を向ける。


「アンカーもさせねぇほどテメェが腰抜かしてやがったからそうするしかなかったんだろうが。最も、あのまま落としとけばテメェの頭も少しはマシになったかもなこのクズ野郎。」


そう私に言い捨てた。ひどい言いようである。でも、そんなことで怯んでいる私ではない。この一年、毎日毎日この暴言に耐えてきたのだ。耐性が付きまくっているどころか、むしろ兵長が一年前のあの時のことを未だに鮮明に覚えてくれているのだと思えば嬉しさすら覚える。私が特に気にしていないような素振りをすると兵長はそれが気に入らなかったのかまたため息をついた。


「…!リヴァイにナマエ。二人ともここに居たのか。丁度良かった。二人に話があるから、今から執務室まで来てくれないか。」


そんなやり取りをしているとエルヴィン団長が現れ、目を丸くして私達を見た。咄嗟に右拳を左胸に当てる。さっきは少し見栄を張って"中堅"なんて表現をしたが、私なんかまだまだ兵長の言うとおり"新兵"と言う表現の方が近い兵士の端くれで。そんな私が団長から直々にお呼びがかかるのはもちろんのこと、それがまして人類最強の兵長とセットだなんて前代未聞だ。開いた口が塞がらず返事すらまともに出来ない私の代わりに兵長が返事をした。


「俺とコイツ…おいエルヴィン、どういう風の吹き回しだ。」
「簡単に言うと、特別作戦班の勧誘…とでも言っておこうか。詳しくはあとで話すよ。」


そう言って私にも目を向ける団長。特別作戦班…?とは通称リヴァイ班と呼ばれる精鋭部隊のことだ。兵長から直々に指名された兵士からなる班だと聞いているがその勧誘…?もしかして私が…?突然のことに頭がついて行かない。でも、もしこれが私の自惚れなんかでなく本当だったら。私が…リヴァイ班のメンバーになれたら。なんて素敵なことだろう。来たまえ、と言ったエルヴィン団長が私には天使に見えた。



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