kuzu
首ったけ!1st
私のことを見てくれますか

「全身打撲に…頭も強く打ってる。腕の骨が折れてるのに加えて、…うーん多分この肋骨のヒビは弱ってるところを馬に長時間揺られたせいでしょうね。正直、意識があるのが信じられないくらいです。」


壁内に戻るや否や、その足で兵長は私をトロスト区にある病院へ連れて行ってくれた。「リヴァイ、お前は上への報告だ。ナマエは別の者に任せろ。」と言ったエルヴィン団長に「こいつは俺の部下だ。部下の尻拭いをするのが上司の務めだろう。」と言って無理にここへ連れて来てくれた。…兵長が私に優しいのはすごく嬉しいけど、何というか今まで散々な扱いだったために慣れない。


「…ですが、あなたも知っての通り先ほどの壁外調査で、あなた以上に負傷した兵士達がたくさんここに運ばれて今も生死を彷徨っています。重症患者から優先するので、残念ながらあなたへの処置は現段階で応急処置程度のことしか出来ません。あとはここで安静にしておいて、救護兵の手が空き次第、対応させてもらいます。いいですね?」
「…はい。」


そう言って足早に去って行った救護兵を見送り、私はふぅとため息をついた。身体はまだすごく痛むけど、ベッドで寝かせてもらっているだけですごく楽だ。隣に座った兵長も足の処置をしてもらい、少し休んでいる。私は壁内へ戻る道すがら、ずっと考えていたことを口にするかどうかで悩んでいた。


「…リヴァイ兵長、少しいいですか?」
「…なんだ。」
「私がリヴァイ班に所属されるとき、兵長は団長に言いましたよね…?『こいつは職務に私情を挟む人間だ。巨人討伐も人類の勝利とかそういった類のものが目的でない。そんな人間は俺の班にいらない。』って…。本当に、その通りだったんです。」


ゆっくりと視線を兵長に向けると、兵長は今更何の話をしてるんだ、と言いたげに私の方を見下ろしていた。それでも口を開かないので、私は続ける。


「私、兵長に気に入られたくって…巨人を削いでました。巨人が憎かったのも事実ですが、兵長に対する気持ちの方が大きかったです。…そんな邪な気持ちだったから、やられちゃったんですよね、ははは…。でも、今日初めて、その気持ちより巨人に対する憎しみの方が勝りました。今、悔しくて堪らないです…。私…、もっと強くなって巨人に勝ちたいです…!」
「…そうか。」

しばらく考え込んだようにして、兵長は言った。次に考えていた言葉を口にするかしないか黙り込んで考える。…こんな一大事なときに言うべきでないことは百も承知だ。きっと、兵長はまた呆れるだろう。いや、怒るかな?だけど、一年前に兵長に救ってもらった命がまた危険に晒された時、私は気付いてしまった。


「だけど、巨人に対する憎しみが大きくなっただけで…兵長に対する思いが小さくなったんじゃないんですよ!?それはむしろ大きくなってて…って…あんまり上手く言えないし、本当はこんな時に、こんなところで言うべきじゃないのは分かってるんです…。だけど、巨人にやられた時思ったんです…。私達は兵士でいつ死んでも可笑しくない身だから…、言いたいことは言える内に言っておきたいです。後悔しないように。」


そう言って上体を起こし、兵長と向き合った。兵長はいつもの何を考えているのかよく分からないポーカーフェイスで、私の言葉を待っている。きっと、このあとに続く言葉に気付いているくせに。


「……好き、です。リヴァイ兵長。大好きです。好きで、好きで、どうしようもないです…!」


恐る恐る兵長を見ると、少しばかり目が見開いていて驚いているように見えた。しかしそれも一瞬で、またポーカーフェイスに戻り口を開いた。


「…だから何だ。」
「え?」
「だから何だと聞いている。」


ここで初めて目が合い、その目があまりにも真っ直ぐに私を捉えているものだから、それに耐えきれずに目を逸らしてしまった。身体が、熱い。


「だから…何なんでしょう…?」
「…………。」


その先を、考えてみる。…だから何なんだ?思えば、さっきまで気持ちを告げるか告ないかで悩んでいて、その先のことなんか考えてもいなかった。…その先?気持ちを告げたんだから『付き合ってください』…とか?いやいや、私はまだとてもじゃないけど兵長に釣り合えるような女じゃない。じゃあ…何なんだろう?私は何を望んでいたんだろう…?


「でっ、でも…今は兵長にとっても、私にとっても…人類にとっても、そんなことより今ある問題を解決すべきことなのは分かっています…!さっきも言いましたが、私はこれから、今までと違って本当の意味で巨人と戦って行きます!だ、だから…」


焦って自分でも何を言っているのかよく分からない。それでも兵長は、私の言葉を遮ることなく黙って話を聞いてくれていた。


「人類が…私達が、巨人に勝ったら…その時は私の今の気持ちを思い出して、私のことを見てくれますか…?」


言葉を言い終えると、鼻の奥がツンとしてよく分からない涙が込み上げて来た。私、今日は泣いてばっかりだな。そう思っていると右手に温もりを感じた。兵長が、私の手を両手で握りしめてくれている。


「…それまで、てめぇが生きてたらな。」


そう言って兵長が笑った。今まで呆れ顔や怒った顔しか私に向けてくれなかった兵長が、笑った。触れられた右手は、電流でも走ってるのかと思う程ビリビリしている。兵長の笑った顔に、私も思わず頬が弛む。さっきまでの不安や恐怖で真っ暗だった心が、それだけで暖かくなるのを感じる。…あぁ、やっぱり私、兵長のことが大好きだ。




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