kuzu
首ったけ!1st
兵長はたまにすごく優しい

そのあと、痛みのせいでうまく動かない身体を奮起させて兵長の馬を見つけた私は、近くにいた班と合流ししばらくしてから兵長とも感動の再会をすることが出来た。…兵長は、私には目もくれず自分の馬のコンディションだけ確認していたけれど。気持ち早歩きで馬へ駆け寄る兵長の、違和感のある足に気付く。あのよく分からない巨人…もとい女型の巨人を取り逃してしまったばかりか、兵長も怪我を負ってしまったみたいだ。それから、再び陣形を組み直した私達は、収穫も得られず仲間だけをたくさん失い壁内に戻ることになった。

救護の馬車は怪我人で溢れていて、痛みはあるものの意識がハッキリしている私はその中でも"軽度"と判断され、馬車に同乗することが出来なかった。だけど、さっきの短距離とは違い壁内までの道のりを手綱を掴んで馬で走ることは、今の私には出来ない。帰り道だって巨人に襲われる可能性は充分あるのだ。続々と馬で駆けていき、展開される陣形に途方に暮れていると、兵長が馬に乗りながら私を見下ろす。出発する素振りもなく、黙って私を見ている。これはどういうことだろう。


「あ、あの…、」
「なんだ、早くしろクズ野郎。ここに置いていかれたいのか。」


そう言って本来座るべきところより気持ち後ろに座った兵長が、少しスペースの空いた自分の前をポンポン、と軽く叩いた。兵長は、たまにすごく優しい。


「お、お邪魔します…。」


もぞもぞと、遠慮がちに馬に跨る。比較的小柄な私達とは言え、二人で馬に跨るとやっぱり狭くて。後ろから感じる兵長の温もりや鼓動に緊張して、揺られるたびに身体に響く痛みなんて気にならなかった。私の前で手綱を握る兵長の腕は、なんだか後ろから抱きしめられているような格好で、妙に緊張感が走る。だけど、普段なら滅多にない兵長の優しさに触れ、こんなに美味しい展開になっているにも関わらず、私の心の状態は高揚とはかけ離れていた。一度に、たくさんのことが起こった。目の前で、先輩や仲間がたくさん殺された。自分も、しばらくは戦闘不能だろう。やっぱりまだ頭が上手くついて行かない。


「「………。」」


私達は言葉を交わさず無言で駆けていく。兵長は今、何を考えているのだろう。隣を走る団長も無言だ。エレンは無事助かったものの、団長や兵長を含めた幹部やエレンは、王都に召還される。あの女型の正体やどうしてこうなったのかも謎だが、今は目の前のこのことの方が重要かも知れない。


「………!」


もうすっかり聞き慣れてしまったとてつもなくでかい足音に、嫌な予感がする。音の方を振り返ると、やはり巨人がこちらに向かって走ってきているところだった。


「兵長、あれっ…!」
「チッ。平地での立体起動は不利だぞ。どうするエルヴィン。」
「…壁まで駆けた方が早いな。」


その言葉にリヴァイ兵長が馬のスピードを落とした。最後列を駆ける兵士と並び、残酷な言葉をかける。


「…おい、このままじゃ追いつかれちまう。遺体を捨てろ。」
「なっ、へ、兵長待って下さい!!」


兵長から放たれた言葉がズンと胸にのしかかる。遺体と共に馬車に乗っていた兵士が異議を唱えるが、巨人はもうすぐそこまで迫っている。兵長の非情な決断に、私は言葉も出なかった。もちろん、兵長だって本当はそんなことしたくないことくらい分かっている。だけどそれじゃあ…、こんなところで私達も喰われてしまえば、彼らが命を懸けて戦った意味がなくなってしまう。


「うぅっ……」


苦渋の決断をした兵士が、ゆっくりと遺体を捨てていく。その中に夕陽色に染まる見慣れた髪色が見えて、今度は私が泣く番だった。


「ぺ、ペトラさん…うぅっ…うぁっ…!」


堪えきれない嗚咽を噛み殺すことができずに、とうとう子供のように大声を上げて泣き出してしまった私に、兵長は何も言わなかった。




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