kuzu
首ったけ!1st
一番にすべきことは、兵長の指示に従うこと

「うっ…。」


気を失っていた私を起こしたのは、体の痛みだった。全身が痛い、けど何とか生きている。もしかすると放り投げられた先がたまたま木の上で、葉がクッションになって大事に至らなかったのかも知れない。それでもきっと、そのあと木から落ちたのだろう。骨も何本か折れているのだろうか。立つこともままならない私はそのまま天を仰いだ。


…私、死ぬのかな。兵長に助けられたこの命は、やっぱり巨人に殺されることになるのか。結局、兵長に気持ちは伝えられなかったな…。まぁあれだけ見え見えに態度に表していたし、兵長もその返事とばかりに私に冷たくあしらっていたし、伝えていたところでどんな結果になっていたかは自分が一番よく分かってる。だけど、やっぱり自分の口ではっきりと"好き"と伝えたかった…。今は周りを見渡す気力すらないけど、きっとみんなすぐ近くに居るんだろう。リヴァイ班所属。私には勿体無すぎるほどの配属だった。まだまだ使えない"新兵"のまま終わってしまたけれど、尊敬すべき大切な先輩達と逝けるならそれで充分だ。


そう考えているとより一層頭がボーッとして眠気が私を襲った。今目を閉じると、もう一生開けられないような気がする。頭では分かっていてもそれに逆らうことが出来ずに私は瞼を閉じかける。最後に瞳に映った木々達の間に、深緑のマントが見えた。ああ、自由の翼だ。それが、誰かなんて分からないけど、私は最後の力を振り絞って愛しい人の名を呼んだ。


「…リヴァイ、へい…ちょう…」


その瞬間、アンカーが私の近くに刺さり深緑のマントが近づいて来た。私の顔を見るなり、驚いた顔を見せる。私も閉じかけていた瞼をこじ開ける。まさか、本当に、


「…無事か?」


一年前、あの日と変わらない言葉を兵長は私にかけた。これのどこが無事に見えるんだろう。だけど、兵長の初めて見る驚いた顔に視界が歪む。ああ、これで最期なんだからちゃんと兵長の顔を目に納めておきたいのに。


「へいちょ…っ、わ、わたし、みんながた、戦ってるのに…何も出来なくて…、エレンのことを、まっ守ることも…兵長に言われたことを、なっ、何一つ守ることが出来なくて…」


ごめんなさい、と言うと兵長は無言で私の頭を撫でた。兵長が、私に優しい。これは幻覚だろうか。そう思っていると兵長は私を横抱きにしてまた立体起動に移った。ああ、これは幻覚なんかじゃない。だって兵長が、こんなにも暖かい。


「立てるか?」


しばらく移動したあと、兵長は私を優しく地面に下ろした。やっぱり私にとって兵長はエネルギーだったみたいだ。さっきまで脱力していたのに、兵長の顔を見た瞬間少し力が体に宿った。私には、まだやらなきゃいけないことがある。そんな気がした。


「…はい。」
「この近くに俺の馬が居るはずだ。それに乗って、お前は別の班と合流しろ。」
「…兵長は?」
「俺は、あの巨人を削ぐ。」


そう言って兵長は私に背を向けた。気付くと私は無意識に兵長の服の袖を掴んでいた。"行かないで。"喉元まで出かけた言葉を飲み込む。私達は、心臓を捧げた兵士だ。人類のために戦うんだ。だから、こんなこと言っちゃいけない…。でも、


「なんだ。」
「なっ、なんでもありませんっ…。」


言葉に詰まると我慢していた涙がまたほろほろと流れてくる。一刻を争うこんな時に、私は一体何をしているんだ。また兵長に呆れられてしまう。


「へっ、へいちょっ…う、うぅ…。お願い、ですから…っし、死なないで下さい…!」


そう言って兵長の服の袖を離す。涙で歪んでいたって分かる、予想通り兵長はいつもの呆れ顔を私に向けていた。


「てめぇ…俺が誰だが分かってんのか?…なぁナマエよ。」


今、なんて…?兵長から初めて自分の名を聞いて、驚きのあまり溢れていた涙も止まる。


「…生きて、戻るに決まってんだろーが。それまで俺の馬を頼んだぞ。」


どういうわけか、俺の馬はお前にしか懐かねぇーからな。と付け加えて兵長は立体起動で木々の間を飛び去って行ってしまった。…兵長がどうしてそれを知っているのか。こんな非常事態だからか、頭を打ってしまったせいか、それとも元々頭の動きが鈍いせいか、たくさんのことが一度に起こりすぎて頭の整理がついていかない。だけど、私が一番にすべきことはいつだって兵長の指示に従うことだ。それを噛み締めた私は、身体の奥底から這い上がってくる痛みと戦いながら一歩ずつ少しずつ前進して、兵長の馬を探した。




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