kuzu
首ったけ!1st
兵長を信じましょう

「…伝達です!右翼索敵、一部壊滅的被害で作動せず!右に回してください!」
「聞いたかペトラ?…行け!」
「はい!」


壁外へ出てからものの数時間も経たないうちに、その知らせは届いた。右翼索敵、壊滅的被害…?何故…?しかし今はそんなことを考えている暇はない。とにかく、今の私に出来ることをするだけだ。


「「「………。」」」


ペトラさんが帰ってきてから、誰も言葉を発するものは居ない。皆同じことを考えているようだった。何かが、起きている。周りではあちこちに赤や黒の煙弾が上がる。みんなは無事だろうか。さっきから、考えても答えのでない疑問が浮かんでは消える。


「兵長、ここは…?」


そんなことを考えていると、中列だけ巨大樹の森に入るようだった。何故…?またも答えのでない疑問が浮かぶも、今はそれに従うしかない。しばらく森を駆けるとその答えは向こうからやって来た。


「それが姿を現すとしたらしたら、…一瞬だ。」


すると突然、木々の影から15mはあろうかと言う巨人が全速力でこちら目掛けて走ってきた。後ろからの援軍に目もくれないところを見る限り、奇行種らしい。でも、何かが可笑しい。


『敵は何だと思う?』
『もし俺が、エルヴィンの言う"敵"ならお前は俺のことを斬れるか?』


ふと、あの時の団長と兵長の言葉が頭をよぎる。そんなことはありえない。いや、もしそうだったとしたら…。


「エレン!何をやっているの?!それは貴方の命が危なくなった時だけだと約束したでしょう!」
「やりたきゃやれ…。俺には分からない。」


私がそうこう考えている間にも、巨人は距離を縮めてくる。


「兵長、俺たちでやりましょう!あいつは危険です!」
「兵長!!」
「兵長、指示を!!」


『兵長はきっと、無理をしてます。人類のために、心を鬼にして戦ってるんです…。いつか…いつか立派な兵士に成長して、兵長の支えになりたいです…!』


それぞれ班員が兵長に指示を仰ぐ中、私はあの日グンタさんに言った自分自身の言葉を思い出した。


「みなさん!黙って下さい!指示を出されないことが今の指示です!このまま走り抜けましょう!それが兵長からの指示です!!兵長を信じましょう!!」
「「「ナマエ(さん)…。」」」


私が声を張り上げると、辺りは静まり返った。聞こえるのは確実に近づいて来ている巨人の足音だけだ。


「耳を塞げ。」


口を開いた兵長はこう言った。そして、兵長が信煙弾に手をかけたあと、本来なら煙を伴うそれが耳を劈くような音を発した。その間も私たちは走り続ける。もう、巨人はすぐそこだ。誰かがやれれてしまった場合はどう応戦すべきか、なんて考えているあと私たちが走り抜けた瞬間、真横に違和感を感じ脇を見ると…



―――ドドドドドドドドドッ!!!!



まるで何かが爆発したかのような音が聞こえ…、巨人が捕まった。ああ、そういうことだったのか。先ほどの緊張状態から安心したのか、変に冷静になった私は色々と仮説を立てた。リヴァイ兵長を含む何人かの幹部だけがこの作戦を知らされていて、実行された。全ての兵士にこの作戦が知らされていなかった理由は、おそらく…


「ここから俺とお前たちは別行動だ。指揮はエルドが執れ。馬は任せたぞ。」


兵長がそう言い、立体起動に移り去る。兵長が去ってしまったにも関わらず、私の心は安心感で満たされる。これで…すべてが終わったんだよね?



***



「死ね………!」


仲間たちの敵討ちとばかりにオルオさんが声を張り上げブレードを構える。恐らく生け捕りを目的に捕まえられたあの巨人は、どういうわけか再び私達の元へと姿を現した。さっぱり訳が分からない。だけど、やることは一つだ。エレンを一人先へ進め、私達は巨人と対峙することになった。だけど、やっぱりこの巨人には知性があるばかりでなく運動能力も並大抵ではなくて。咄嗟にとった連携で一時は追い詰めることが出来たものの、それも一瞬で形勢逆転されてしまった。残ったのは、もう私達しか居ない。


「そんな……!オルオさん!!!」


決まったと思ったはずのオルオさんの攻撃が何故か効かず、オルオさんは宙を舞った。その瞬間、先ほど完封したはずの奴の両目がギロリと、まるで次はお前の番だと言わんばかりに私を捉える。ブレードを持つ両手が震えた。敵は、一筋縄では行かない。ならばこちらも、まともに正面から戦っていればやられるだけだ。裏に回って腱を削いで、まずは動きを止めることから始めよう。そう作戦を立て、アンカーを打ち奴の後ろに回り込む、つもりが。


「う、うわぁぁあああ…!!は、離せ…!!」


ヒョイ、といとも簡単に私を掴んだ巨人はそのまま私を放り投げた。咄嗟のことで先ほど打ち損ねたアンカーを巻き取ることもできず、まして受け身もままならないままそのまま重力に従い、私は落ちた。



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