kuzu
首ったけ!1st
兵長のために戦うんだ

「…以上のことは訓練兵時代にも習ったと思う。」
「「…はい。全部知ってました…。」」


朝が明けるまで語られたハンジさんの巨人の話に、私は何度も落ちかけた瞼を再び開くので精一杯だった。隣のエレンもげっそりした表情をしている。確かに、ハンジさんの話は大変興味深かったがこれからは地雷だと心得なければならない。だけど私だって、兵長の良さを聞かれるときっと何時間も語れる自信がある。まだまだ続きそうなハンジさんの話を破ったのは、モブリットさんだった。


「生け捕りの巨人が、何者かに殺されました…!」


***


急いで馬を走らせるとそこには既に変わり果てた巨人の亡骸があった。一体誰が…?そう思っていると、エルヴィン団長の声が聞こえる。


「敵は…何だと思う?」


この時の団長の問いに、私は答えることが出来なかった。


「兵長!」


愛しい背中に声をかけると、いつも通りの不機嫌そうな顔が振り向いて。


「兵長、さっきの団長の言葉はどういう意味だったんでしょう…?」
「…さぁな。てめぇには一生分からねぇだろうよ。ただ…、」
「ただ?」
「もし俺が、エルヴィンの言う"敵"なら…お前は俺のことを斬れるか?」
「……え?」


壁外調査を目前に、兵団の中で何かが起きているのを私は感じずにはいられなかった。


***


ーーーゴゴゴゴゴッ!!


ウォール・ローゼを囲っている扉がゆっくりと開かれる。訓練通り、私はエレンと共に後衛につく。私はいつも通り、兵長の小さな背中が背負う大きな自由の翼を見つめるしか出来なくて。何か、嫌な気配がしてならない。胸の奥がモヤモヤする。


「今日はどんな巨人に会えるかなぁ…!奇行種なんかいたらどうしよう…!」
「奇行種ならここに居るがな。」
「え、どこどこ?!」
「そこだ。」


そう言い兵長は私の方を振り向いた。ゴミ、巨人の餌と続いて今日は奇行種扱いである。それでも、私はいつもの兵長の悪態にいちいち傷付いている余裕はなかった。壁外調査はいつもそうだ。緊張して、不安で。私と兵長を含む、少なからず誰かが死ぬ。そうなった時、私は正気で居られるのだろうか。


「…ナマエ?顔が青いけど大丈夫?」


いつもの兵長の言葉に返事を返さない私に、ペトラさんは心配そうに振り向いた。オルオさんにグンタさん、エルドさんやエレンだって振り返る。大丈夫です、と力なく答えるとまだ振り向いたままの兵長がいつもの蔑んだ目を私に向けた。


「喋ってればうるせぇが黙ってんのも気味悪りぃな…。そんな様子じゃ本気で巨人の餌になるぞ。いいかよく聞け新兵、てめぇは何のために俺の班になった?…分かったならそこのガキを命懸けで守れ。」
「は、はいっ!」


兵長直々に喝を入れられ、手綱を持つ手に力を入れる。隣のエレンにだって、さっき以上に目に力が宿った。そうだ、私は人類のために、兵長のために、戦うんだ。



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