kuzu
40000Hit企画・リク夢

distortion

「あ、ナマエ。また僕のお皿にニンジン入れたでしょ。好き嫌いは良くないよ。」
「えーっ、何で分かったの!?」
「分かるに決まってるじゃないか。」


"ナマエのことなら、何だって。"、と続けそうになった言葉を必死に飲み込む。エレンやミカサと共に幼馴染であるナマエは、訓練兵の頃からこうして、嫌いなものがあるとすぐに僕のお皿へとこっそり移してくるのだった。そんなナマエを窘めているものの、実はこうされるのは、僕は嫌いじゃなかった。だって何だがナマエに頼られている気がするし、ナマエと一言でも話せる機会が増えて嬉しい。そしてそんな僕たちの日常を微笑ましく傍で見つめているのがミカサで、冷酷な目を遠くから向けて来ているのがリヴァイ兵長だ。


『ねぇアルミン、相談があるの…。私、エレンと共にリヴァイ班に配属になったんだけど、やって行けるかどうか心配で…。』


困ったようにナマエにそう声をかけられたのは、つい先日のことだった。そう聞いた僕はすぐに、リヴァイ兵長の意図を理解した。トロスト区奪還作戦で、エレンが穴を塞いだ直後に、兵長に僕たち四人が助けられて以来、兵長はナマエのことが心底気に入っている様子だったからだ。何かに付けてナマエを傍に置きたがっていたが、今度は自分の班へ配属させると来た。これって職権乱用なんじゃ…。気付いたところでどうにも出来ない疑問が心に浮かぶ。


『エレンと幼馴染である私が、エレンの近くに居た方が良いって考えから決まったみたいなんだけど…。私、精鋭の先輩方と戦えるか不安で…。』


そう言って、ナマエは心底不安げな表情を見せた。ナマエにこんな表情をさせているのが兵長だと思うと、立場とかそんなのを考えられなくなるほどに腹立たしくなる。それに、ナマエの言う"考え"が適用されるなら、ナマエではなくミカサをリヴァイ班に入れるのが適役だろう。ナマエの兵士としての実力は、ぶっちゃけ僕とそんなに変わらず、ミカサには到底及ばないのだから。


「そっか…。でも兵長はきっと、ナマエの潜在能力を見抜いてそう判断したんじゃないかな。あまり気負いせずに、ナマエは自分らしくいればいいと思うよ。頑張りすぎないでね。」


僕がそう言うと、ナマエは柔らかく笑って「アルミンならそう言ってくれると思った。だって、いつも私が欲しい言葉をくれるんだもん。」と言った。その言葉に、僕も満足そうに得意気な顔をしていたと思う。だって、当然じゃないか。子供の頃からナマエのことが好きで、ずっと見てきたんだから。ナマエのことなら、ナマエ以上に分かる自信があるよ。だから早く、ナマエも僕の気持ちに気付いてよね。


***


「……あ、リヴァイ兵長。おはようございます。」
「………。」


朝、訓練に行こうとすると食堂でバッタリ兵長と出くわした。挨拶をすると、言葉の代わりに頷くような動作をする。きっと、僕のことを覚えていないんだろう。何せトロスト区奪還戦での兵長はナマエと、それからエレンのことしか見ていなかったし。だとすると、いきなり見知らぬ兵から挨拶をされて誰だコイツと思っているかも知れない。それか、単に朝だから機嫌が悪いのか。もしくは、僕と言う存在に気付いていて気に入らない、か…。


ほんの数秒の間に色々な可能性を考えていると、兵長がキョロキョロと辺りを見渡し、誰かを探しているのに気が付いた。ここは、よく新兵が食事を摂る場所。そうなれば兵長が探している相手は二択だ。


「…ナマエなら、一度部屋に戻ってから訓練に出ると言っていました。」
「!」


一か八かでナマエの名前を出すと、兵長は明らかにそれに反応し、僅かに瞳を大きく揺らした。普通の人が見れば見逃しそうな小さな変化だったが、僕には分かる。


「お前、」
「ナマエとエレンの幼馴染です。先日は助けて頂きありがとうございました。」
「…あぁ、あいつらの馴染みか。その件は気にするな。」


そう言うと、兵長はいつもの表情に戻った。やっぱり、僕の考えは前者で当たっていたようだ。…そう、今の兵長は入団したての新兵とか、エレンの巨人化とかそんなことより、ナマエのことでいっぱいなんだろう。


「エレンなら、もう訓練所に向かったと思います。兵長と訓練が出来ると張り切っていましたが、ナマエも一緒なんですね。てっきり、巨人化絡みのものかと思っていました。」
「……何が言いたい?」


つい毒付いた発言をしてしまうと、兵長は明らかに気分を害したようだった。ピクリと片眉を上げ、僕に疑い深い視線を向ける。


「お前、ナマエの何だ?」


審議所で啖呵を切っていた時と同じような声で、兵長が言った。ここは、何と言い返すのが良いのだろう。しかし、考えるよりも先にそれはもう僕の口から飛び出していた。


「恋人です。」


その言葉に、今度は誰がどう見ても分かるように兵長は狼狽えた。目を大きくかっ開き、動きが止まる。まるで息をするのも、瞬きをするのも忘れてしまったようだ。だけどそれもまた一瞬で、兵長はすぐに持ち直した。そして先ほどよりも憎しみがたっぷりと込められた目を僕に向けて、くるりと踵を返す。


「そうか。ならナマエもお前も、"出来るだけ長く"生き延びれるといいな。」


最後にそう皮肉を言って去って行った。どうやら、今の僕の言葉を本当だと捉えたらしい。きっと兵長は性格的に、このことを本人や周りに確かめることは出来ないだろうし、暫くはそう勘違いしていると良い。兵長は手を出す相手を間違えたんだ。選りに選って、僕の好きな人だなんて。嘘を吐いたことに多少の罪悪感も感じるが、それも近い内に消えるだろう。何故ならこれは、嘘ではなく真実になるのだから。


だって、僕はいつも君の欲しい言葉をあげる。そうだろう?


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