kuzu
40000Hit企画・リク夢

疲れた時には、コレ。

「ん〜〜〜っ。」


背筋を思い切り伸ばすと、ここ数時間同じ体勢で居たために凝り固まった筋肉が解れていく感覚に体が包まれる。パソコンを長時間見ていたため目はショボショボと疲れ切っているし、5cmヒールに収納された足はもうパンパンだ。時刻は午後9時。全員とはいかないが、この時間にもチラホラ社員が残っているのはうちの会社だけではないと思う。


仕事が一区切りついたため、気分転換に紅茶を淹れようと席を立つ。一区切りついたとは言え、今日中に仕上げなければならないことはまだ山ほどある。終電までに帰らないと、明日もこの服で出社することになるな……。早々に切り上げたパートさんに、朝帰りだ何だとあらぬ疑いをかけられてしまう。


「こんなはずじゃ、なかったのになぁ……。」


誰も居ない給湯室で、それは考える前に口から飛び出していた。テキトーに働いて、贅沢さえしなければ生きていける程度のお金を稼いで。私が望んだことって、そんなに難しいことだったんだろうか。今こうして、残業にまみれながら安月給でボロ雑巾のような扱いを受けるなんて思いもしなかった。


ーーーガチャ


鼻の奥がツンとし、何かが溢れそうなのを堪えていると給湯室の扉が開いた。現れた姿に、先ほどの考えが新幹線のようなスピードで私の中から吹き飛ぶ。


「り、リヴァイさん!!リヴァイさんのコップも空になってたなんて……気付かずにすみません!い、今淹れますから!」


泣く子も黙る、悪魔の化身、閻魔さまも逃げ出す…なんて異名を持っている、社員が最も恐れているリヴァイさんだった。私は直接関わる案件がまだなかったが、同期は直属の上司で毎日胃が痛いと言っていた。り、リヴァイさんもまだ残ってたなんて……。


「…いや、お前の分も俺が淹れてやる。そこのテーブルに座ってろ。」
「え、そんな、私が淹れますから、リヴァイさんこそゆっくり、」
「俺の淹れた茶が飲めないと?」
「いやいや、そんな……それじゃあ、い、頂きます…。気を遣わせてしまい、すみません…。」
「…………。」


とんだ展開となってしまった。上司であるリヴァイさんに紅茶を淹れさせてしまうなんて。その上、デスクで残りの仕事を片付けながら飲もうと思っていたのに、ちょっとした休憩などに使われるテーブルで、リヴァイさんと飲むことになるなんて。もしかすると、気付かぬ内に何かしでかしてしまって、その説教でもされるのかも知れない。


「……お前、ナマエとか言ったな?少し疲れてるんじゃないか。」


リヴァイさんはそう言って私の前に、湯気が立つ香りの良い紅茶を置いた。ありがとうございます、と礼を言って両手で包むと、カタカタとパソコンの前に投げ出していた指先がじんわり暖かくなる。


「い、いえ…そんなことありません。情けない話、効率が悪いのかやってもやっても終わらなくて…。」
「お前のとこのチームリーダーは確かハンジだろう。無茶苦茶な案件をぶち込んで部下を困らせてるのは目に見えている。俺からもお灸を据えておこう。」
「そ、そんなことないです……!」


緊張のせいで、目の前を向くことが出来ない。気まずさを紛らわすようにコップの柄を指でなぞる。目の前に天下のリヴァイさんが居て、前を向いて対等に会話をするなんか、出来ないに決まっている。


「お前はこだわり出したら止まらない性分故、人より仕上げるのに時間がかかると聞いている。その分、いつも誰よりも完成度の高いものを出してくる、と。俺のチームに欲しい人材だが、ハンジが中々手放してくれなくてな。」
「え?」


礼儀も忘れて、思わずリヴァイさんの言葉を聞き返す。


「もう少し、自分に自信を持て。それから、下ばかり向いてないでいい加減こっちを見たらどうだ?」


そう言われて、思わず顔を上げる。……だ、誰が悪魔の化身だ。そこには、いつもの眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔ではなく、優しく柔らかな表情をしたリヴァイさんが居た。そしてーーー……


「な、何ですかこれ…?」
「今日が何の日か分かれば、自ずと答えは出てくるはずだが。」


綺麗にラッピングされた、小さな箱が目の前にあった。紅茶と共に出されたのだろうか。下を向いていたため全く気づかなかった。


「え……?」
「仕事のしすぎで今日が何の日かも忘れたか?俺の部下どもは女も男もソワソワしながら予定があると皆定時で帰っていったぞ。」


ば、バレンタインデー……。私にヒントを与えるように、目の前の箱を包んだリボンには「2.14」と書かれてあった。


「疲れた時は、甘いもんでも食べて元気出せ。それから、今日は早く帰れ。」


そう言って去って言ったリヴァイさんの耳が、何となく赤かったのは気のせいかな。



(ちょっとリヴァイ!うちのナマエ餌付けしないでくれる?)


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