kuzu
40000Hit企画・リク夢

プレゼントをもらったのは私?

「……げ。ナマエさん。」


久しぶりの登場だと言うのに、私の姿を見た瞬間一同は眉を潜めた。同じくリヴァイ班として共に過ごしていた時は、勘の悪さを欠点だと見られていたコニーですら先陣を切ってのこの発言だ。私がリヴァイ班を去ってからそれほど月日は流れていないはずだが、みんなにとって頼れる大先輩(自称)であったはずなのにどうしてしまったのだ。


「みんな、久しぶり!今日が何の日か分かる!?」
「たった今思い出しました…。」


顔色の悪い顔をしながらエレンが言う。まるで巨人化した直後のようだ。幾らマリア奪還がかかっているとは言え、兵長はこんなにも班員を酷使しているのだろうか。ジャンの、他の班員とは違った表情を見て、彼だけが私がリヴァイ班を訪れた理由を本当に理解してくれているのだと察した。


「リヴァイ兵長の誕生日…ですね?」


しかし、冷や汗をかきながら発したアルミンの言葉に、ジャンの表情はみるみる曇った。私は勘違いをしていたのだと悟る。ここには、誰一人私のことを理解してくれている者は居ない。……いや、一人だけ…、


「はっ、リヴァイ兵長の誕生日…と、言うことは…あれですね、ナマエさん!ケーキですよね、ケーキ!今年も盛大に盛り上がりましょう!!」


たった一人、サシャだけが立ち上がり私の心情を察し賛同してくれた。『今年"も"』と言うか、去年は失敗して散々な結果に終わってしまったのだが。


「何をワーワー喚いてんだお前ら。今から訓練だぞ。」


そこに、本日の主役である兵長がやって来た。今日は自分が生まれて来た日だと言うのに、相変わらず眉間に深く皺を刻み口角は下がっている。自分の誕生日くらい、そんな表情は辞めて欲しい。今が大変な時だと言うことは分かっているけど、1日くらい心休まる日として、今日を過ごして欲しい。


そう思えば思うほど、拳を握る力は強くなった。去年、兵長の誕生日を祝おうとして大失敗してしまってから、丸々一年が過ぎた。私は、成長出来たのだろうか。兵長と私の距離は、ほんの少しでも縮んだのだろうか。まだまだ、人類の勝利も私達の距離も遠いかも知れないけど、向かう先はいつだって変わらない。心に思い浮かべる人は、いつだって変わらない。


そんなことを思いながら兵長を見つめていると、その鋭い目が私を捉えていることに気付いた。兵長の視線が私の方へ向き、私の存在を認識してから眉がピクリと動いた。


「…オイ、テメェ…そこで何してやがる。俺達は今から訓練だ。邪魔になるから部外者は帰れ。」
「ぶっ、部外者…!?ヒドすぎますよ兵長…!ちょっと前まで私もリヴァイ班だったのに、脱退しただけでよそ者扱いだなんて…。」
「脱退したなら部外者だろーが。自分で決めといて何言ってやがる。それよりお前、自分の班はどうした。曲がりなりにもテメェは班長、こんなところで油売ってる暇があるなら、少しは班長らしく部下をまとめろ。テメェに班長を任せるなんざ、俺はやっぱりエルヴィンの考えが分からねぇ。」


そう言うと、兵長はシッシッと虫を払うように私を追い出した。嗚呼、今年も『兵長生誕ピーッ周年記念祭』の作戦が……。その思いも叶わぬまま、私の眼前でドアはピシャリと締められた。こんなことなら、リヴァイ班のまま居た方が良かったのかも知れない。



***



作戦その2。夕方、訓練も落ち着いたであろう時間帯に自室へ戻った兵長に紅茶を差し出そうと訪れる。ドアをノックすると、尋ね人が誰であるかを確かめる前に「帰れ。」と声が聞こえたが紅茶を持って来たことが分かるとすんなり中へと招き入れてくれた。兵長の中で"紅茶>私"の式が出来上がっていることには納得がいかないが、今は紅茶に救われたため目を瞑ることにする。



「ミルク、どうしますか?」
「入れてくれ。」
「そう言われると思って、濃い目に淹れておきました。」
「…ああ。助かる。」


兵長はいつもこの時間、お疲れなのか朝のストレートティーと違って甘い紅茶を好む。もう既に知り尽くしているルーティンを熟年夫婦のようなやり取りをしながら行う。しかし、いつもと違うところが一つだけある。


「紅茶、ここに置いときますね。」


カチャ、とソーサーが机に置かれる音のあとに、同じような音がもう一度したため兵長が読んでいた書物から顔を上げた。いつもの紅茶セット(いつかに私が兵長のティーカップを割ってしまったので奮発して買い揃えたもの)の横に、大きな苺の乗ったショートケーキを置く。


「お誕生日おめでとうございます、リヴァイ兵長。」


普段、兵団にいる時は決して口にすることの出来ない洋菓子を目の前に、兵長はお世辞にも大きいと言えない目を見開いた。ピン、と一文字に張りつめていた唇が、ほんの僅かに緩む。


「あ、ああ…今日だったか。」
「やっぱり。忘れてると思いましたよ。去年もそうでしたもんね。」


ふふっと笑いながらケーキを差し出す。すると、兵長は戦場では決して見られない柔らかい表情を(私にではなく)ケーキに向けた。"ケーキ>紅茶>私"の嫌な式が頭に浮かぶ。


「毎年毎年…よく覚えてるな。」


すると、兵長は珍しく私に感心の声をあげた。褒められたことはほぼ皆無に等しいので、その一言だけでもう、何ヶ月も前から予約したこととか、極寒の中をシーアの有名店まで行き取りに行ったこととか、全てが報われた気がする。


「当たり前じゃないですか。…去年は大きなケーキを用意して失敗しちゃったんで、今年は小ぶりにしましたけど、愛情は去年以上に詰まってるので!!」


そう言うと、兵長はフッと笑ってフォークを口へと運んだ。兵長の薄い唇へケーキが吸い込まれるのを見守る。


「……美味い。」


そう言って、私の方を見る。今度はハッキリと私の方を見ていた。端正な顔が私に向けられていて、顔が熱くなるのを感じる。


「お前も食え。」


すると、兵長はフォークを私に差し出した。予想だにしなかったその行動に、固まる。


「………。」


それだけでも驚きだったのに、兵長はその上ケーキを一口分フォークに乗せ、私に差し出してきた。兵長と同じフォークを使うことだけでも既に爆発してしまいそうなレベルなのに、その上これは、アレだ。ラブラブカップルがやる、アレだ。


ニヤニヤとだらしなく緩んだ頬を抑えられないまま、兵長に甘え自分の顔をフォークへ近付ける。兵長もフォークを私は近付ける。恐らく普通のケーキよりも甘いであろうそれを待ち構え、口を開けると……


「い゛っ!痛い痛い!!そこ、口じゃなくて鼻!あ゛ーーっ!」


ブスリ、と本来私の口に入るはずだったフォークは私の鼻へと刺された。鼻の頭についた生クリームを拭いながら悶絶する私を見て、兵長が悪戯に笑う。


「アホ面。」


滅多に見ることが出来ない、兵長の子供のような悪巧みした笑顔を見てときめいている自分は、重症なのかも知れない。




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