kuzu
40000Hit企画・リク夢

似た者同士のサンタ

「ねぇママ、サンタさんって本当にいるの?」
「さぁ?パパに聞いてごらん。」


今年8歳になった娘にそう聞かれ、困ったようにはぐらかすと、娘は真っ直ぐに父親であるリヴァイのところへと向かった。いつもは無愛想な顔をしていても、娘の前ではほんの少し表情が和らぐ。そんなリヴァイに今でも胸がときめいている自分がいた。


「パパ、サンタさんって本当にいるの?」
「…母さんに聞いてみろ。」
「ママがパパに聞いてごらんって。」


娘のその言葉に、リヴァイは少し顔を曇らせて私の方を見た。何年も連れ添っていると思考も似て来るのかも知れない。困ったリヴァイに助け舟を出すように「今日いい子にして早く寝ると、明日の朝サンタさんはきっとプレゼントを持って来てくれてるよ。」と言うと娘は大人しく寝室へと向かった。この言葉も、あと何年使えるのだろうか。


娘が寝静まるのを待つ間、紅茶でも飲もうとお湯を沸かす。リヴァイ好みの茶葉をブレンドしていると、背後からそっと腕が伸びてきた。首元に、息がかかってこそばゆい。


「あんな質問、俺に振られても困るだろうが。」
「だって、パパがどんな風に答えるのか気になったから…。」


ふふっ、と笑って湧いたばかりのお湯をポットへ淹れると良い香りが辺りに充満する。その匂いを堪能するように深呼吸をしてから、いつもの少し機嫌の悪そうな声がした。


「おい、あいつの居ない前でその呼び方はやめろと言っただろ。」
「分かってるけどもう癖になっちゃって…。それに、あの子が居ない時の方が少ないし。」
「それもそうだな。」


私の言葉に納得したのか、するりと私から離れリヴァイは席についた。娘が生まれてすぐの頃は"パパ"と呼ぶのが恥ずかしかったはずなのに、今では"リヴァイ"と呼ぶ方が気恥ずかしいなんて不思議だ。最初はキチンと使い分けていたはずだったのに、最近は二人の時間がゆっくり取れていなかったためか気付けばパパ呼びが定着してしまっていた。


「それで、今年はあれでいいのか。」
「そのハズだけど…。今年は知恵がついてきたのか、私に教えてくれなかったから探し当てるのに苦労したけど。」


そう言って、淹れたての紅茶を飲む。"あれ"とは娘へのクリスマスプレゼントのことだ。毎年何が欲しいのかを私がリサーチし、それを買い娘の枕元に置くのがリヴァイの仕事なのだ。数ヶ月も前から計画しているのだから、サンタの仕事も楽ではない。


「朝、驚いて起きてくるのが楽しみね。」
「そうだな。」


そんな話をしながら、夜が耽るのを待つ。サンタと言う仕事がこんなにワクワクするものだったなんて、娘が出来るまで知らなかった。


紅茶も飲み終わり、片付けをしてから忍び足で娘の寝室へ向かうと大きな寝息が聞こえてきて、リヴァイと顔を合わせて微笑んだ。私は寝室の扉で待ち、無事リヴァイが娘の枕元にプレゼントを置いたのを見届けてから、私達も二人の寝室へと向かう。ダブルベッドに二人で背を預け、「おやすみ。」と声をかけて瞼を閉じると、今日一日の疲れがドッと押し寄せて来たのを感じた。眠ってしまいそうな自分と必死に戦う。今日は、絶対に寝てはいけない。


明日がクリスマスであると言うことは、私にとってはただのオマケのようなものでしかなかった。明日は、リヴァイの誕生日だ。毎年、当日に手渡しでプレゼントを渡していたが今年は私がリヴァイのサンタになろうと思っている。そのためには、普段寝付きの悪いリヴァイが寝静まるまで絶対に寝てはいけない。


しばらくしてから、隣から規則的な呼吸が聞こえ始めたのでゆっくりと上体を起こすといつもの鋭い声が聞こえ背筋が凍った。


「まだ起きてたのか。どこへ行く。」
「ちょ、ちょっとトイレに行こうかなと思ったけど、やめとこうかな〜。」


苦し紛れに言い訳をしながら、起こしかけた上体を再びベッドに沈めると、リヴァイが枕と私の頭の間に腕を差し込んできた。そしてもう片方の腕でがっちりと体をホールドされる。


「どうせ明日はプレゼントを見つけて興奮したあいつに起こされる。早く寝ろ。」
「う、うんそうだね…。」


そう言って再び目を閉じて、私はこの状況をどう打破しようかと頭をフル回転させて考えた。抱きしめられるような体制になってしまった以上、ここから抜け出すのは不可能だ。仮にリヴァイが寝るのを待ったところで、無理に抜け出そうとすればすぐに起きてしまうだろう。…って言うか、"早く寝ろ"はこっちの台詞だ。どう考えても打開策が浮かばない上に、睡魔という敵がぐるぐると私の思考を邪魔する。このままいっそ、寝てしまえばどれだけ楽か…。ダメだダメだ。それじゃあ計画が台無しだ。自分を奮い立たせるよくに寝返りを打つと隣からため息が聞こえた。


「どうした?いつもなら俺がこうすればすぐに寝るくせに今日に限って…。」
「それはこっちの台詞です!いつも寝付きが悪いんだから、今日くらいゆっくり寝ればいいのに…。」


お互い不満を漏らすと、リヴァイの何かを隠しているような表情に気付きハッとする。……"何年も連れ添っていると思考も似て来るのかも知れない。"先ほど、娘にサンタのことを聞かれた時に思った考えが胸をよぎる。もしかして…、


「私は、もう一仕事終わるまで寝ないから。」
「もう一仕事だと?サンタならさっき終わっただろう。」
「まだ終わってない!」


そう言って腕枕されている腕をリヴァイの方へ押し戻すと、彼も私の考えに気付いたようにハッとした。きっと数秒前の私もこんな顔をしていたのだろう。


「ナマエ、お前もしかして」
「そのもしかして!リヴァイが寝るの待ってたのに、リヴァイがこんなことするから!」
「それはこっちの台詞だ。俺もお前が寝るの待ってるんだ。さっさと寝ろ。」


こうなってしまえば収束がつかない。お互いがお互いを寝かしつかせようと試行錯誤するが、どちらも意地でも寝ないでおこうとするので決着はつかない。


「そもそも、何でリヴァイが私に今日プレゼントを?」
「あ?明日はクリスマスだろうが。何の文句がある。」
「明日はクリスマスよりも、リヴァイの誕生日でしょ!リヴァイはプレゼントあげなくていいの!」


そう納得させようとするがリヴァイも中々折れない。しかしその内に、私も滅多にお目にかかれない柔らかい表情をして口角を上げた。


「…やっぱり例年通り、明日直接渡さないか?埒があかねぇ。」
「…そうだね。そうしようか。」


リヴァイの笑顔に私も負けて、ぎゅっとリヴァイを抱き締めると、彼もそれに応えるように抱きしめ返してくれた。


「好きだ、ナマエ。」
「…私も。あ、日付変わったよ。誕生日おめでとう。」
「ありがとな。」


幸せだなぁなんて、贅沢過ぎる思いを噛み締めながら私は深い眠りに落ちて行った。「パパママ!サンタさん本当に居たよ!プレゼントくれた!!」と興奮した娘に起こされるのは、これから7時間後のこと。




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