kuzu
40000Hit企画・リク夢

ありのままの君と、

「アルミンさん!お誕生日おめでとうございます!!」


私達の姿を外から見つけたのか、見覚えのある女性兵士が入店し、私の向かいに座っている彼にそう声をかけた。手には何やらプレゼントらしき包みがあり、それをアルミンに差し出している。私は、全く意味が分からずに首をかしげることしか出来ない。


「あ、ああ……。わざわざこんなところまで来てもらって、何だか悪いね。ありがとう、大事にするよ。」


そう言って、アルミンはその子から包みを受け取った。ここで私は初めて、彼女が誰であったかを思い出す。いつもアルミンが食堂に入ると熱い眼差しで見つめているあの子だ。確か、私達よりは4、5期ほど後輩なはずで別段気に留めていなかったが先程の発言は頂けない。お誕生日、おめでとう……?


プレゼントを渡すと、その子は満足したのかそそくさと退店した。私にも一応頭を下げていたが、その口元にはどこか勝ち誇った笑みが浮かんでいたような気がする。


ここは、調査兵団本部から程近いカフェ。分隊長である彼と班長である私の休みが珍しく合ったので、散歩がてらここまで足を伸ばしに来たのだ。それぞれ責任のある役職に就く私達が同じ日に休みをもらえるなんて、滅多にないことだったので本当は朝から出かける予定だったのだが、昨晩アルミンが"頑張った"せいで、眠りに落ちたのは日付もとうに変わった夜更けだったと思う。それに日頃の疲れも重なって、起きたのは二人して昼前だった。それからアルミンがまた"頑張って"、ノロノロと起き出して一日部屋に篭るのも何だし外に出よう、と足を運んだのがここだった。こんな背景を全く知らない彼女には、私はアルミンの恋人ではなく仲の良い同期、程度にしか認識されていないのだろう。自分で望んだこととは言え、少し哀しい。


私達が恋人同士になると決めた時、この関係を内緒にしようと言いだしたのは私の方だった。次期団長だと噂されている彼の負担になりたくなかったし、何かあれば出世に響く。そんな配慮からだった。まだ付き合いだして日も浅いし、バレてはいないだろうが、だからこそ今のような事態が起きた。


「んー……本、かな?」


私の頭に非常事態のベルが鳴り響いている間、アルミンは貰ったプレゼントの形状や重さを確かめ品定めをしているようだった。しかし私の目線に気付き、プレゼントを脇に置く。彼女も、そしてプレゼントも私の視界からは消えたが、彼女の言葉が私達の間に今も風船のようにフワフワと漂っているのを感じた。


「えっと…何の話だったっけ?コニー?」


コニーの頭の触り心地について、だったよね。とアルミンは話を戻してニコニコと笑う。


「そ、その話はもう良いんだけどさ…、あの、『お誕生日おめでとう』って、なに……?」


私が間抜けな言葉を発すると、アルミンは何かを企んでいるようにふふふっと笑った。恋人が、自分の誕生日を知らなかったと言うのに何だか楽しそうに見えた。



***



カフェを退店するともう日は沈みかけ薄暗くなっていた。今からでもお祝いする術はないか、と思考を張り巡らせるも、どれも今更過ぎて納得がいかない。プレゼントを今から用意するのも店は閉まりかけているし、ケーキはさっきのカフェでもう既に食べてしまっていた。まさか誕生日だとは知らずに、『美味しいケーキのお店があるから行こうよ』なんて誘ってしまった数時間前の自分が憎い。


「怖い顔してどうしたの?」


そんな私の心の葛藤を知らずにアルミンが私の顔を覗き込む。太い眉毛を遠慮がちに下げ、困った顔をしていた。


「…僕は、誕生日にナマエのそんな顔見たかったんじゃないんだけど。」
「私もアルミンにそんな顔して欲しくないよ、誕生日に。」


そう言うと、私達の周りの雰囲気は一気に暗く重いものになった。お互いに言葉が見つからない。


「もし、今日が僕の誕生日だと君が知っていたら、エレンやミカサ辺りにリサーチして一生懸命プレゼントを用意してくれただろうね。」
「うん……。」


まさに、自分がそうすれば良かったと思っていることを言い当てられて、情けない気持ちでいっぱいになる。


「それで、慣れない料理なんかも振舞ってくれたかも知れない。…そう考えると、そんな誕生日も良いなぁって思うよ。だけど、僕が望んだのはそうじゃないんだ。」


そう言って、アルミンは先程後輩からもらった包みを私に見せた。


「これはきっと、1週間前に彼女が聞いてきた"僕が今一番読みたい本"だ。これももちろんすごく嬉しいし、彼女に言った通り"大切にするよ。"だけど、彼女がくれた僕好みのプレゼントと君とすごす何でもない一日…僕にとってどちらが大切だと思う?」
「そ、それは……。」


自分が導き出した答えが、自意識過剰なのではと言う気持ちが引っかかり、言葉として紡ぐことが出来ない。


「ナマエ、お互い上官である僕らが今日初めて休みが合ったこと、不思議に思わなかったかい?」
「えっ、」


アルミンの言葉に驚き、今まで下げていた顔を上げる。アルミンの綺麗な金髪がほんのり夕陽色に染まって、凄く綺麗だ。


「…ハンジさんに、お願いしたんだよ。ナマエと誕生日を過ごしたいから、この日に休みをくれって。ハンジさん、すごくビックリしてた。」


ニコッと悪戯に笑うアルミンが眩しい。自分の知らない水面下でそんなやり取りが行われていたなんて、想像もしていなかった。


「ナマエ、無理してるでしょ。僕らの付き合いだって、僕は公にしたいと思ってた。君に悪い虫が付くのも防げるしね。だけど、きっと僕のこれからなんかを考えて無理してくれてたの気付いてたよ。そんなナマエが僕の誕生日を知ったら、きっと色々やってくれただろう。だけど、そうじゃなくてそんな君ではなく、ありのままの、僕が大好きなナマエとこの日を過ごしたいと思ってたんだ。」


ここまで一気に言い終えると、アルミンはそっぽを向いた。ボブから覗く小さな耳が、夕陽顔負けに真っ赤で、"愛おしい"と言う気持ちが胸の中で爆発するのを感じる。


「ず、ずるいよアルミン……。私だけ、何にも知らずにバカみたいじゃん……。」


そう言うと、耳と同様に真っ赤にさせた顔をこちらに向けた。それが何となく、新兵時代の彼を思い出させて新鮮な気持ちがじんわりと心に広がる。


「それはこっちの台詞だよ…!いつもいつも、君が支えてくれるから僕はここまでやって来れたんだ。だから、たまには肩の荷を下ろしたところを見せてよ。それから、」


来年も再来年もこの日は一緒に居てね、なんて耳元で囁かれ同時にキスを落とされた。この借りは自分の誕生日の時に返してやろうと静かに決意したのはアルミンには内緒だ。




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