kuzu
ルドベキア
08

「てめぇら、俺に何の用だ。労いの言葉なら明日にしろ。」
「…あぁ、壁外調査後すぐでお疲れのところすまないな、リヴァイ。実はお前にも協力を要請していた泥棒猫が、今日やっと捕まった。色々と確認してもらいたいことがある。」


鈍器で殴られたような鈍い痛みが頭に響き、私は目を覚ました。無意識に頭をさすろうと右手を上げたところで、鎖に繋がれ拘束されていることに気付く。両手両足、全てにそれがあり身動きが取れない。カビ臭い、小さなランプが一つあるだけの狭い空間に、自分が閉じ込められていることに気付きハッとする。一体、何があったんだ…?


「………てめぇらもようやく酒が抜けたと言うことか。」
「相変わらず憎まれ口が減らないな、お前は。今日はお互いの成果を祝して一杯やるか?」
「成果だと?今回の作戦でまた犠牲者がゴマンと出た。そんなクソみてぇなことをするつもりは毛頭ない。用件を手短に話せ。」
「まぁそう噛み付いてくれるなよ。まずは容疑者の確認だ。何せ顔を見たことがあるのはお前ぐらいだからな。」


聞こえてくる会話を頭で処理出来ずにボーッとしていると、金属音がガチャガチャと鳴り響き扉が開いた。外から二人の兵士が入室し、それぞれ私の左右につき鎖を外し、両手には代わりに手錠を嵌められる。…何だこれは?どうなってる?まさか私……直前のことを思い出そうとするが、頭痛に邪魔をされ上手くいかない。


「ところで、お前らどうやってこいつを捕まえた?」
「袋の中の鼠…とでも言おうか。こいつ、お前たち調査兵に興味があったらしく出発の際にキョロキョロと不審な動きをしていたためマークしていた。お前たちが出発してからも不審な動きを続け、同じく出発を見に来た町民の鞄に手を伸ばしたところを拘束。三人かかっても中々粘って終いには隠し持っていた立体起動で飛び回りしたため、緊急事態用に隠し持っていた対人間用の麻酔銃で眠ってもらった…ってとこだな。」
「麻酔銃だと?そんなものどこで手に入れた?」
「まぁ同じ兵士とは言え調査兵団とウチじゃ管轄が違うんでな。色々とルートがあるんだよ。」


会話に出てきた一人がそう言って得意げに笑った。聞こえてくる言葉全てが、どこか別の世界で起こったことのように思える。この男の話が本当なら、いやそれ以外にあり得ないが、私は捕まったことになる。…捕まった?私が?まさかこの間抜け共に?先ほど入室した二人の兵士によって、無理やり歩かされた私は、鉄格子ギリギリのところまで連れて行かれる。冷たい柵を挟んですぐ向こうにいる奴の顔を見ると、相変わらず何を考えているのかよく分からない表情を浮かべていた。


「どうやらこのガキらしいが…どうだリヴァイ、見覚えあるか?」


先ほどからリヴァイと話している、奴の隣に立っている男が言った。無駄な抵抗だと分かりつつも、少しでも顔を見られないように俯くと私を拘束している兵士の一人が私の髪を乱暴に掴み、無理やり顔を上げさせた。おまけに鉄格子に顔を押さえつけてくれたおかげで強打し、口に血の味が広がる。奴は以前表情を変えず、鼻息すら感じそうなほどの距離で私のことを見つめている。


「………似ても似つかねぇな。俺が見たのは大男だった。」


リヴァイが発した言葉はこうだった。それに、すぐ隣に立つ男が動揺を見せる。私を拘束している両脇にいる兵士も、少しその力を緩めた気がした。まさか、此の期に及んでまだ私のことを庇うって言うのか。


「全くの他人だな。大方、騒ぎに乗じて小遣い稼ぎでもしようって魂胆だったんだろう。こいつはお前らの言う泥棒猫じゃねぇ。」
「なっ……嘘だろう!?もっとよく見てくれ!オイ、ランプを持って来い!!」
「てめぇ、俺の言うことが分からねぇーのか?俺が見たのは大男だ。こんな小便くせぇガキじゃねぇ。」
「いやでも見間違えたかも知れねぇだろう!?」


周りがザワザワと慌ただしくなった中、リヴァイは静かに続けた。


「間違えてんのはてめぇらだろうが。罪のない一般市民によく分からねぇ麻酔銃なんか使いやがって…公に知れたらおおごとだぞ。どうカタをつけるつもりだ?」
「そっそれは…何もコイツにこれっぽっちも"罪がない"わけじゃねぇーだろう?コイツだってスリと言う立派な犯罪を犯し、俺たちの手を煩わせた…あの泥棒猫に間違えられるような紛らわしいことまでしておいて、それ相応の報いを受けてもらわんと、」
「資料には泥棒猫は空き巣に入ると書いてあったが…今回の手法とはまるで違うじゃねぇか。それに、このガキどう見ても未成年だ。前科がなけりゃ厳重注意が妥当だろう。それを地下牢の、中でも一番のブタ小屋にブチ込むとは、てめぇら一体何を考えている?」


リヴァイはそう言って私に背を向けながら、隣にいた男に問いただした。誰も、奴に反論する者は居ない。暫くの沈黙のあと、奴が口を開いた。


「コイツは俺に任せろ。てめぇらは精々、冤罪に対する口止め料でも用意するんだな。」



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