kuzu
ルドベキア
06

また、リヴァイに助けられてしまった…。


命拾いしたことに対する安堵と、情けなさで胸がいっぱいになりながら、私はリヴァイの方へは振り返らずに真っ直ぐに立体起動で突き進んだ。奴はいつも、私を捕まえるために姿を見せる癖に、肝心なところで手を緩める。きっとリヴァイが本気になれば私なんて、初めて会った時にだって捕まえることが出来たはずだ。そうなれば私の人生は終わりだった。だから、リヴァイと出会ってラッキーなんだ。


そう思っている反面、私はリヴァイの掌で転がされているような屈辱的な気分にもなった。『俺はいつでもお前のことを捕まえることが出来る。お前はその恐怖と戦いながら今日も逃げるがいい。』まるでそう言われているようだった。第一、リヴァイが私を逃がす理由が見当たらない。…"俺と同じだから"?一体、何のことを言っているのだろうか。私とリヴァイの共通点なんて、絶対にない。


地下街へと続く道までやって来て、地下へと下る。リヴァイが上手く憲兵を巻いてくれたせいか、私に気付く者は一人も居なかった。もう時間も遅いし、今日の盗品を質屋へ流すのは明日にしよう。巨人に喰われかけるというハプニングに見舞われたせいで、予定より随分と遅くなってしまった。今は金のことより、まだ起きて私の帰りを待っているであろうアンのことが心配だ。いつも通り、人目を盗みこっそりと地下街へ戻るとそこは昼夜に関わらずひっそりとしていた。万が一誰かに見つかった場合、説明出来ないと考え、リヴァイがくれた調査兵のマントを仕舞う。…ここが、私が生まれ育った街だ。自由の翼を背中に背負い、空を自由に飛び回る奴とは違う。私は、この薄暗いところで翼は疎か、空の色さえも知らずに育ってきたのだ。


「ナマエねぇーちゃん、おかえりー。」


いつもよりほんの少し低いトーンで私を出迎えてくれたアンの声が聞こえ、私は玄関の戸を後ろ手に閉めた。これは、私以外に何かに興味を示しているときの声色だ。新しい遊びでも見つけたか…?そう思い、アンの方へ目を向けると想像を遥かに越える光景が目に飛び込んできた。


「アンッ!?どうしたんだそれ!?」


思わずアンの方へ駆け寄り肩を強引に掴む。そんな私の切羽詰まった声とは裏腹に、アンが口の中を食べ物でいっぱいにしながら「おねーちゃ、おいしいよ?」と呑気な声を上げた。


食卓には、用意した覚えのないご馳走がたくさん並んでいて、アンはそれに舌鼓を打っていた。


肉や野菜に果物、それから洋菓子のようなもの…今まで見たことのないものばかりで、何と言う名前かすら分からない料理が狭い食卓に所狭しと並べられていた。もちろん、私にこんな料理を用意出来る金などない。アンにはほとんどお小遣いを持たせてやることが出来ていなかったし、こんな小さな子供が用意出来るとも思えない。では一体、誰が…?やけに興奮したような無邪気なアンの声が、私に残酷な答えを知らせた。


「おとーさんがね、帰ってきたんだよ!忘れ物したって、お家の中色々探してたよ。それで、おねぇちゃんに『ごめんね。』って。『これたくさん食べてね。』って!すっごくおいしいよ!」


アンの言葉にハッとして、リビングの奥へと続く金庫室に急ぐ。私達を捨てて行った時に、洗いざらい全てのものを持ち去ったのだから、今更"忘れ物"なんてものに気付き、取りに帰ってくるはずがない。金庫室の扉の前まで行き、取り付けていた南京錠が無理矢理外された形跡を見て、私はその場にヘナヘナと座り込んだ。この先は、見なくても分かる。見たくない。知りたくもない。あともう少し、本当に、もう少しだったのに。


怒りと恐怖でワナワナと震える右手で、扉を開ける。アンの孤児院行きのためにこの一年コツコツ貯金していたお金は、予想通り跡形もなく消え去っていた。申し訳程度に、私達二人が一週間ほどなら生きていけそうな雀の涙ほどの金額だけが、控えめに部屋の端に置かれている。その殺風景な光景を見て、私は何が何だか分からなくなって思わず笑いがこみ上げてしまった。


可笑しくなった姉の姿を、妹はぼんやりと眺めていた。


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