kuzu
ルドベキア
11

「…誰だてめぇ。顔を見せろ。それから名前と所属を言え。」


地上へ上がり、深緑のマントで顔をしっかりと隠したまま調査兵団本部へ向かえば、門兵に捕まってしまった。リヴァイを出せ、と言うとしかめっ面をされ冒頭に至る。胸には104期と書かれたこの男を見上げると、奴も不機嫌そうな目で私のことを睨んでいた。


「おい、口を慎め。私は103期だぞ。先輩にその態度は何だ。」
「は?ま、マジかよ…103期…?」


口から出まかせを言ってみると、男は狼狽えたように私の胸を覗き込んだ。どうやらこの男と同様に、所属の刺繍があるかどうかを確かめようとしているらしいが、マントをきっちりと羽織っているためそれは叶わない。門兵を見たときはしまったと思ったが、あともうひと押しすれば突破出来そうだ。


「リヴァイ…兵長に用があるから呼んで来い。」
「へ、兵長は昨日の壁外調査でお疲れの上に、別件で憲兵からも呼ばれて深夜に帰ってきた。今日はまだ休まれてるから後にしろ……して下さい。」


男は申し訳程度に最後の一句を付け加え、尚も訝しげな目を私に向けた。男は梃子でも動かないようだ。暫く考え込んだあと、私は口を開いた。


「なら私から出向こう。私はヒストリアから伝言を預かってきた。兵長も関与している孤児院の件で、早急に確認しなければいけないことがある。部屋まで案内してくれ。」


そう言うと、目の前の男はキツく睨んでいたその目を幾分か和らげた。…"ヒストリア"。既に記憶の奥底にあったその名を引っ張り出したのは、効果があったらしい。


「……ついて来て下さい。」


男は数秒黙り込んだが、ついには考えることを諦めたように私に背を向け中へと入っていった。私も急いでそのあとへと続く。まさか、自分がリヴァイを訪ねて調査兵団本部へやって来る日が来るなんて思いもしなかった。言うなれば敵陣への突入に、私は背筋を伸ばしまるで今から盗みをするような気分になった。



***



「リヴァイ兵長。俺です。孤児院の件でヒストリアから伝言を預かったとのことですが、通してもいいですか?」
「…ジャンか。後にしろ。」


広い本部の中を通され、ある部屋の前で止まった門兵はドアをノックしこう言った。それに、心底眠そうな、機嫌の悪そうな声が返ってくる。当たり前だ。壁外調査で神経をすり減らしながら戦い、その後私の一件で深夜まで憲兵に呼び出されたのだから。空がようやく白み始めた早朝である今は、やっと深い眠りへと落ちるところだったのではないだろうか。しかし、ほんの数時間前に聞いたはずのその声を聞くと、何故だかそれが随分昔のことのように感じ、アンはいつから居なくなったのだろうと思うと胸騒ぎが止まらなかった。


「オイ、開けろ!!!アンが居なくなった!助けてくれ!!」


気付けば私は、ジャンと呼ばれた門兵を押し退け力の限りドアを両拳で叩き大声で叫んでいた。今が早朝だとか、きっと他の兵は寝ているとか、そんなのどうでも良かった。急変した私の態度に門兵は目を丸くする。


「何やってんだ!!みんなが起きちまうだろうが!て言うかお前、なんの話してんだ!?アンって何だよ、お前本当に……、」


調査兵か?、暴れる私を引き剥がしながら門兵がそう言ったのと、中から驚いた様子のリヴァイが顔を出したのはほぼ同時だった。いつもの制服ではなく寝巻きのようなラフな格好をしていたが上からジャケットを羽織り、外へと出る準備をしている。


「コイツは俺が引き受ける。」
「でも兵長!コイツ何なんですか!?不審者を中に入れちまったのは俺にも責任があります!!今すぐ団長に、」
「エルヴィンには言うな。騒ぎで起きた者が居たら適当に誤魔化しておけ。それからこれを、ヒストリアに渡してくれるか?」


少し興奮気味の門兵にそう言うと、リヴァイは何かを書き込んだ紙切れを手渡した。門兵はまだまだ不満そうだが素直にそれを受け取り、「馬を準備してきます。」と言った。それに「飲み込みが早くて助かる。」とリヴァイが返す。背を向けた門兵に更にリヴァイが続けた。


「コイツが何なのか?、だが…それは時期に分かる日が来るだろう。頼んだぞ、ジャン。」


奴の言っている意味が私は理解出来なかった。



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