kuzu

Special story

トリュフ

「丁度よかった、この書類を団長に届けてもらえるかな?」
「は、はい!分かりました!」



やけに張り切った声を出してしまうと、それにアルミンさんはニコッとした。人柄が滲み出るようなその笑顔に、頭がクラクラする。


昨日、憧れのアルミンさんへの気持ちを込めて人生で初めて手作りチョコを作った。色々本で調べて、初心者でも失敗しにくいトリュフにしてみたがやっぱり形はいびつで。きっと、アルミンさんのことだからいっぱいチョコもらうんだろうなぁとか、その中で私のは悪い意味で目立ってしまうだろうなぁとか考えていると、せっかく作ったこのチョコを渡すことすら渋ってしまう。


アルミンさんは、調査兵団の中でもまだ若い方だが期待のホープだ。訓練兵時代から、あのトロスト区奪還作戦で活躍していたというんだからその実力は相当なもの。だけど、それを鼻にかけるようなことは一切せず私のような末端の兵士にも気をかけてくれて、本当に優しさの塊のような人だ。そんなアルミンさんに想いを寄せる女性兵士は少なくない。だからきっと、バレンタインにもたくさんチョコをもらう。ライバルはたくさんいるだろうし、私なんかが叶うわけないのでとりあえずこの手作りトリュフを渡すことが今回の目標だ。


しかし、いざ渡そうと思ってアルミンさんの部屋へ行けば、もう既に幾つかそれらしいラッピングがされたプレゼントが部屋の隅にあるし、団長へ書類を頼まれるし、やっぱり渡すのはあとにしよう、と戦意喪失し部屋を後にしようとした。



「あのさ、もしかしたら僕の勘違いかも知れないんだけど、」



そんな踵を返そうとする私に、アルミンさんは声をかける。背中に回した包みを持つ手に、汗が滲む。



「僕に何か用があってきてくれたんじゃないの?」



その言葉にハッとする。…確かにその通りだ。用もなしに部屋を訪れて、お使いだけ頼まれるなんて変な話だ。どうしよう。そう思っているとまたアルミンさんは口を開いた。



「もしかして、僕にバレンタインのチョコを渡しに来てくれたとか…?」
「えっ、何でそれを!?」
「そうだと良いな、と思って言ってみただけだよ。」



そう言ってアルミンさんはまた柔らかく笑った。…ずるい。アルミンさんはみんなにこんなことをしているのだろうか。



「…白状するよ。今日は朝から幾つかチョコをもらったんけど、君からもらいたいなって考えていたんだ。そしたら君が僕を訪ねてきてくれたから、その…男なら、誰だって期待してしまうだろう?」



そう言って、アルミンさんは照れたように頬を赤らめた。…そ、それってもしかして…アルミンさんの言葉に、チョコのようにトロトロに溶けた頭をフル回転させる。



「わ、私だってそんなこと言われると…期待してしまいます。例え、アルミンさんがみんなにそんなこと言ってたとしても、」



その瞬間、アルミンさんが立ち上がり私に近付いた。何故だか私の目にはそれがスローモーションのように映る。歩を進めるその姿も、だんだん目の前にやってくるアルミンさんの顔も……、



チュッ、なんてリップ音と共に唇に感じたことのない感触を感じる。い、今何を……!?目の前いっぱいに広がるアルミンさんは、まだ頬を赤らめながら笑みを浮かべていて。その瞳に"信じられない"と言った表情の私が映っていた。



「君以外にこんなこと、出来るわけないじゃないか。」



顔が赤いことを自分でも自覚したのか、右腕で顔を隠すように覆いながらアルミンさんが言った。部屋の隅に置かれてあるプレゼントより、自分の手の中にある控えめなトリュフが選ばれたんだ…。そう思えた瞬間だった。




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