kuzu

Special story

ハート型のチョコ

(旧リヴァイ班と古城生活)


「オイ、今その背中に隠したものは何だ。」



壁外調査の作戦のために本部へ駆り出されていた兵長が、予想よりも早く帰ってきてしまった。窓から兵長の姿が見え、ペトラさんと使っていたキッチンを急いで片付けるも間に合わず、扉を開けた兵長は中に漂う甘ったるい匂いに眉をひそめる。これだけは死守せねば、と他のものより大きなハート型のチョコを背中に回すと兵長はいち早くそれに目をつけた。一体、どんな洞察力をしているんだ。



「へ、兵長…随分帰りがお早いんですね。」
「ああ。どこかのクソが会議とは関係のない、捕獲した巨人の話を語り出したから早めに抜けてきた。…で、てめぇら一体ここで何をしている?」



話題を逸らすようにペトラさんが口を開いた隙に、前を向いたまま後退し背中に回したチョコを冷蔵庫にしまおうとしたが、最後の一言で兵長の意識はまた私に向けられてしまった。普段は私のことなんか気にもとめないくせに、こういう時に限って兵長は何故か私に視線を向けている。



「ちょ、ちょっとペトラさんから料理を教わって花嫁修業でもしようかと…。将来は人類最強の兵士の嫁にな、」
「くだらねぇ。さっさと片付けろよ。」



私の言葉に遮るようにして、兵長はまたも鋭い言葉を向ける。いや、そこで被せないで!一番聞いて欲しいところ!、なんて言えるはずのないツッコミを胸の中で唱えていると、そんな雰囲気に居た堪れなくなったのかペトラさんが「片付けくらいは自分で出来るよね、ナマエ?」と私に念を押し自分の部屋へ帰ってしまった。残された私と兵長の間には、チョコの甘さとは程遠い空気が漂う。一体、どうすればいいのか。



「新兵よ、何を隠している。」
「い、言わなきゃダメですか…。」



一歩、二歩とジリジリと私に迫りながら、兵長はいつもの蔑んだ目をする。兵長に追い込まれているなんて、状況が違えば万々歳だが今は別だ。何としてでも、このチョコを死守しなければ。しかし、兵長に私のこの甘ったるい考えが通用するはずもなく、兵長は私の腕をグッと掴み引き寄せるような格好で私の背中に腕を回した。驚きの余り対処出来ず、私はそれるがままだ。兵長の首筋辺りに顔が近付き、いつもはほんのりとしか感じないその匂いに目眩を覚える。……なっ、何をしてるんだ兵長は!?わ、私はこういうの大歓迎だけど…何、いきなり…!?しかし、私が兵長に酔っている間に、私の右手からは先ほど作り上げたばかりの出来たてほやほやのチョコがあっさりと奪われてしまった。兵長はすぐにそれを自分の前に持って行き、"リヴァイ兵長へ ナマエより"とハートの上に描かれた文字を訝しげに見つめた。



「何だこれは。」
「ちょ、チョコです…。バレンタイン当日に渡すつもりだったんですけど、バレちゃいましたね…。」
「こんなでけぇチョコ、一人で食えねぇぞ。」



受け取ってもらえるのか、まして食べてもらえるのかすら不安だったチョコを見つめて、兵長はそれを半分に割った。そして何とも不吉な形に割れたチョコの半分を私に差し出す。…これは半分こ、だろうか。予想だにしなかった兵長の行動に戸惑う。



「毒味しろ。」



尚も私に巨人を見るような視線を向けながら、兵長が低い声を出した。…ああ、そういうことか。本当は兵長に全部食べてもらいたかったんだけどなぁと思いつつ、渡された半分のチョコをかじる。ペトラさんの手伝いのお陰か、お店で売ってるチョコより美味しいんじゃないかと思う味が口一杯に広がる。



「美味しいですよ!完璧です!」



自信を持ってそう言うと、兵長は口角を上げて自分の持っているチョコを…ではなく、私の手に自分のそれを重ね、私が今丁度食べた部分を自分の口元へ持って行った。え、もしかしてこれって間接キ、



「うまいな。」



兵長はそう言って、自分の口の端についたチョコをぺろっと舐めた。……思考が全く追いつかない。だけど、目の前の兵長は何だがとても色っぽくて、その目で見つめられるとチョコのようにドロドロと溶けてしまいそうだ。



「おいしいですか?よ、よかったです…。って、あっ!」



最初の一口を咀嚼し終えた兵長は、また私の手に自分の手を重ね、自分が持っているチョコではなく私に渡したものを食べ始める。その内面倒になったのか自分の手を離し、まるで私が兵長に食べさせているような格好になった。もう私は完全に、考えるのことを放棄していた。



「ちょっと、それ私の指です…んっ、」



あっさりと私の持っていたチョコを食べ終えた兵長は、そのあと私の指まで舐め始めた。その感覚がゾクゾクと背筋を走る。思わず甘い声が出て目がトロンとし始めた頃、兵長は自分の持っていた残りのチョコを私の口元まで持ってきた。



「お前も食え。」



もう何も考えられなくなった私は、素直にそれに従った。兵長にあーんしてもらう形で、私もチョコを食べる。…何故だろう、さっき自分で食べたチョコと全く同じなのにこっちの方が数段おいしい気がする。それにしても、こんなに幸せな展開が待ち受けているなんて誰が想像出来ただろうか。このまま二人、チョコレートのように溶けてしまって、一つになれたらいいのに……。


全部食べ終えた私は、いたずら心が芽生え、少しチョコがついた兵長の指も舐めてしまえと舌を出す。兵長もそれに気付いたのか、チョコを持っていない手で私の腰に手を回し、そしてーーー……



ーーーガンッ!!



突然頭に衝撃が走って反射的に瞑った目を開けると、そこには先ほどの柔らかい表情とは程遠い鬼の顔をした兵長がいた。その右手にはブレードの取っ手部分だけが握られていて。どうやらこの峰の部分で殴られたらしい。…あれ、兵長立体起動装置なんてつけてたっけ?



「訓練中に居眠りとは偉くなったもんだな、新兵よ。」
「え、え、居眠り!?…チョコは?兵長の指、何もない…。」
「まだ寝ぼけてやがる。最上階から地下まで掃除でもさせれば眠気は覚めるか?このクズ野郎。」



兵長はそう言って私に掃除道具を押し付けた。…全く意味が分からない。あれは…夢、だったのか?



「何をグズグズしてる。夕飯までに終わらせないと、明日も同じことをさせるぞ。」



そう言って兵長は私にいつもの目を向けた。夢の中の兵長とは、雲泥の差だ。や、やっぱり夢だったのか……。よく考えれば、兵長があんなことする訳ない。だけど、夢ならもう少し醒めないで欲しかったなぁ…、なんて心の中で不満を漏らしながら私は立ち上がった。右手からは、何故だかほんのりチョコの匂いがした気がした。







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