kuzu

Special story

Step by step

(新リヴァイ班と隠れ家生活)


「ナマエさん、揃いました!」
「アルミン、良くやった。直ってくれ。」


左胸に右拳を当て私に敬礼するアルミンに軽く手を上げると、アルミンはハッと上げた右腕を脇に戻した。直立している彼はいつになく真剣な顔をして汗を浮かべている。そしてそれは、他の班員も同じだ。リヴァイ兵長がハンジさんのところへ出向いているこの時に、実質二番手である私がいきなり招集をかけたのだから、みんな何事だと思っているのだろう。いつも読み物をする時にしかかけない眼鏡を指の腹でクイッも押し両手に抱えていた大量の資料を机に置くと、みんなの表情は更に曇った気がした。何か大がかりなモノが動き始めていると感じているのだろう。兵士として、実に良い勘だ。みんなの顔を見渡してから、私は口を開いた。


「みんな、今日も実験ご苦労。日も暮れたしゆっくり休んでくれと言いたいところだが、大変なことが起こった。非常に深刻な事態だ。早急に対処しなければならない。」


そう言って、班員を見渡す。アルミンはきっと頭の中で、幾つもの事態を想定しているのだろう。複雑な表情を浮かべ、その隣のエレンは瞳孔が開いて「まさか、巨人が…」と呟いている。ミカサはそんなエレンを見てグッと拳を握り唇を噛みしめる。向かいに座っているサシャは普段じゃ考えられないような悲壮な表情を浮かべているし、隣のコニーは訳が分からないと言った様子だ。ジャンはいつもの悪人面を一層らしくさせ「…ックソ!」と拳をテーブルに叩きつけている。横のヒストリアは目に涙を浮かべ、まるで死刑宣告を待っているように顔を青くさせた。


「…これは全て私の責任だ。私としたことが…もっと早く気付くべきだった……兵長の誕生日が明後日だなんて…!私としたことが…私失格だ…!」
「「「……………。」」」


うぅっと堪え切れない涙をみんなに見られないように俯くとみんなからの落胆のため息が人数分聞こえた。…落胆?何に対して落胆?予想外の反応に顔を上げると、先程とは打って変わって全員が私に失望したような表情を向けた。例えるならアレだ、いつも兵長が私に向けているあの表情だ。


「ナマエさん、私達が集められた理由はそれですか?…筋トレがあるので失礼します。」
「ミ、ミカサ待てよ!ナマエさん、その話とは別に、何かまた別の話があるんですよね?」
「エレン、あのナマエさんを見てみなよ。ナマエさんにとっては、兵長の誕生日が明後日に迫っていると言うことが"非常に深刻な事態"なんだよ…。」
「だからって何をどう"早急に対処"するんだ?」
「まだ分からないんですかコニー!?ケーキですよケーキ!大きな苺のたっくさん乗ったケーキを早急に用意するんですよ!そうですよね!?」
「こ、ここで誕生日会をするんですか…?」
「くっ、くだらねぇ……。」


今の現状を踏まえて、賛否両論であろうと言うことは想定出来た。しかし、誰が呟いたが知らないが最後の一言だけは頂けない。声の主の誕生日を聞きメモし、当日は絶対スルーすると宣言するとたじろんだジャンの顔を見届けてから私は先程、机に置いた資料を広げみんなに見えるようにした。みんなの顔が今までにないほどげんなりする。


「まずは、明日の動きから確認しよう。今回の索敵陣形だが、」
「さ、索敵!?ちょっと待って下さい!!」


挙手をしたアルミンが勢いよく立ち上がる。


「ナマエさん!明日も僕たちは通常通りエレンの硬質化実験をするようにと言われています。き、気持ちは分かりますが、」
「もちろん、通常通り硬質化実験を行う。兵長はそれを望んでいる。幾ら兵長のためだとしても、兵長の望んでいないことをするのはそれは兵長のためにはならないのであって従って〜…」


何言ってるんですか意味分かりません、とコニーの声が聞こえた。それに追い討ちをかけるように「私が言うのも何ですが、ナマエさん喋り方可笑しいですよ!何の真似ですか!」とサシャが声を上げた。この方が緊張感が増すかなぁと思って眼鏡までかけたけど、私としてもそろそろ限界だったので眼鏡を外し手短に説明する。


「とっ、とにかく!!明日はサシャとコニーがケーキやその他諸々の買い出し担当!他の班員は通常通りの動きで。実験後は全員飾り付けの準備!万が一兵長が早く帰ってきた時のための見張りにミカサとアルミンは家の前で待機。兵長は明後日に帰ってくる予定だからその時は、」


クリスマスも兼ねて、みんなでお祝いしようよ…そう尻すぼみに呟くとサシャだけが唯一、「買い出し担当、やりましょう!どんなケーキがいいですか!?」と食いついてきた。…本当は今、こんなことをしている暇じゃないことくらい分かっている。でもだからこそ、この緊迫した状況だからこそ息抜きだって必要だ。チームワークを深めるためにも、親睦が必要だ。そう思っている私は、間違っているのだろうか。




(…で、この膨大な資料は何なんですか?)
(エレン、明日から二日間の予定と各々の動きを詳細に記したものと飾り付けの配置図、それから兵長の好みをリサーチしたものと、)
(あ、もう結構です。)


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