kuzu

Special story

学校は味方してくれない

「えぇーっ!!嘘でしょ!?」


目の前で毎日5食限定のチーズハンバーガーを頬張るエレンの信じられない言葉に、耳を疑う。…嘘だ。誰か嘘だと言ってくれ。しかし、私の気持ちを全く察せない、女心にイマイチな彼は言葉を続けた。


「俺が嘘つくわけねぇだろ…。あいつのことなら何でも知ってるぞ?」


最近、気になる人が出来た。その人は、特別背が高いわけでも、スポーツが出来るわけでもない。だけど、すごく優しい瞳をしていて、柔らかく笑う。いつも穏やかな声で私のことを呼んでくれて、その声を聞くたびに私は心からじんわりと暖かいものが染み出てくるのを感じずにはいられなかった。この気持ちに自覚を持ってからは、彼のことが気になって仕方なくて、もっと知りたくてお近づきになりたくて、わざわざ同じ図書委員にまで立候補したのだ。それで、ようやく仲良くなれたのだけど、彼はどちらかと言うと聞き役で自分のことはあまり語りたがらない。だから、彼の一番の親友であるエレンに、チーズハンバーガーを奢る代わりに彼のことを聞き出しているのだ。


「俺がアルミンの誕生日を忘れるわけないだろ?今度の祝日、11月3日だ!」


…あぁ、こんなことってあるのだろうか。エレンのお陰で続々と増える私の中のアルミン情報に、信じられないデータが加えられた。アルミンの誕生日が、今度の祝日…?この前の図書当番のときに、「もうすぐ僕の誕生日でね、おじいちゃんに本を買ってもらうんだ。」なんて言葉から、彼の誕生日がもうすぐだと言うことは分かっていた。しかし、それがよりによって学校がない祝日だなんて。学校は、私の恋に味方してくれないらしい。


「そ、そんなぁ…。」


深いため息をつく私をよそにエレンは大きな口でチーズハンバーガーを頬張り続ける。私はただ、当日に一言「おめでとう」と言うことが出来れば十分だったのだ。なのに、それすらも叶わないなんて。この情報は今までのエレンから聞いた貴重なデータを忘れてしまうほどの破壊力があった。その後、「そうそう俺も頼まれてたんだった。」と言ったエレンに、好きな色や本のタイトル、次の祝日に何をしているか、なんかを聞かれたが私は心ここに在らず、と言った状態で受け答えをした。それが終わるのとエレンが最後の一口を食べ終わるのは同時で、用が終わるとエレンは「よし!これで明日もチーズハンバーガーだ!」と謎の言葉を残し去って行った。ああ、どうしよう。



***



とうとうこの日がやって来てしまった。11月3日文化の日、そしてアルミンの誕生日だ。その日特に用もなかった私はせめて明日「おめでとう」の言葉と一緒に渡せるように、とクッキーを焼いた。綺麗にラッピングされたそれとカレンダーを見ると、なんだかモヤモヤした気持ちが心の奥から這い上がってくる。本当は今日言いたかったけど、仕方ない。仕方ないんだ。たまに図書当番の帰りが一緒になることがあって、アルミンの家がどこにあるかは知っているが、当日家に押しかけてまでお祝い出来るほどの勇気は持ち合わせていない。そんなことを思っていると机がブルブルと震え、携帯の液晶が光った。



「もしもしミカサ?」



電話の主の名前を口にすると、彼女はいつもと変わらないトーンで「今どこにいるの?」と尋ねてきた。



「い、今は家だけど…」
「今は?どこかに出かける用があるの?」



そう返って来た言葉に、私は力強く答えた。



「そう!突然、用が出来たの!すぐに出かけなきゃ!」



待って、もう少しだけ家に居て、と珍しく焦った様子なミカサの電話をほぼ無理やり切ったあと、私は急いで用意をして家を出た。やっぱり、今日言いたい。今彼に会って伝えたい。そう思うと足が自然と走り出す。この気持ちは、止まらない。



「っ!ナマエ!!」



すると、目の前から同じように走ってくる人物が飛び込んできた。ひどく焦った様子で、それでいて私を見てすごく驚いた様子で。息を切らしながら額に汗を滲ませて私の名を呼んだのは、私が会いに行こうとしたアルミンその人だった。



「!!アルミン!!」



思いもよらぬその姿に驚き、足を止めるといきなりのその行動に足がついていかず前のめりになってしまった。それをアルミンの腕が受け止める。



「きゃあ…!ご、ごめん…。」



目の前いっぱいに広がるアルミンの顔に顔が暑くなるのを感じる。今の私はきっと、汗だくで髪なんかも顔に張り付いてひどいだろう。それでもアルミンは、私にいつもの笑顔を見せて「間に合った」、とホッとしたような顔をした。



「間に合った…?」
「うん、ミカサにナマエがもうすぐ出かけるらしいって聞いて、走ってきたんだ。間に合って、本当によかった。」



アルミンはまだ肩でハァハァと息をしながら答えた。ミカサから…?あまり状況が飲み込めていない私にアルミンは少し気まずそうな顔をして続けた。



「エレンから、君は今日家にいるって聞いてそれで会いに行こうとしたんだけど、念のためにミカサにも電話で聞いてもらったんだ。そしたら突然用が出来たって聞いて、急いで君に会いに…ハハ、僕格好悪いよね。」



そう言って、アルミンは太い眉毛をハの字に下げた。何で、アルミンが私に会いに来たの?私が、アルミンに会いに行こうとしていたのに。口をポカンと開けた私を見てアルミンは更に困ったような顔をした。違う、こんな顔をさせたかったんじゃない。今日は、アルミンの笑顔が見たかったのに。そう思うと何故家を飛び出してきたかを思い出し、口を開く。



「違うの!用って言うのは…その…、アルミンに言いたいことがあって…、」



歯切れ悪く口を動かす私に、今度は目の前のアルミンがポカンと口を開けた。さっきと自分の姿を鏡で見ているようだ。そんなアルミンにふふっと笑いかけながら続ける。



「アルミン、お誕生日おめでとう。大したものじゃないんだけど、これ。」



そう言ってクッキーを渡すと、アルミンはまだ口を開けたまま目を真ん丸くさせて私とクッキーを交互に見た。そして「そ、そんな…そんなことって…」と言葉にならない言葉を呟いた。そんな姿が可笑しくって、私は疑問に思ったことを尋ねる。



「それで、どうしてアルミンは私に会いに来てくれたの?」



そう言うとアルミンは顔を真っ赤にさせて信じられない言葉を呟いた。



「そ、それは…君に、言って欲しいことと言いたいことがあったから…。でも、言って欲しいことは、正に君がさっき言ってくれたことで、…よく考えると自分の誕生日におめでとうって言え、なんて押しかけるなんて僕はなんて厚かましいんだ…。」



そう言ってアルミンが自分の頭を両手で掻きむしり今度は恥ずかしそうな素振りを見せた。コロコロと変わるアルミンの百面相が可笑しくって堪らない。目の前のこの変わる表情を、今見ているのは世界で私だけしか居ないと考えると胸が熱くなって、この気持ちをどうしても伝えたくなってしまった。



「あのね、アルミンの言いたいことを聞く前に、私ももう一つ言いたかったことを今思い出したからそっちを先に聞いてもらってもいいかな?」



そう言うとまた驚いた顔をしたアルミンを真っ直ぐ見て続ける。



「…これは、"へぇ。そうだったんだ。"くらいに思ってくれたらいいんだけど…私、実はアルミンのことが好き、なの…。誕生日に、ビックリさせてごめん。アルミンの真面目に勉強してる姿も、真剣に本を読んでるところも、今みたいに驚いたり焦ったりしてるところも、全部全部大好きなの!だから、アルミン生まれてきてくれてありがとう!!」



そう叫ぶとアルミンは驚いた顔からみるみる顔が赤くなって「なっなっ…ちょっと待ってくれ…僕…あぁ、君ってどうして…」と訳が分からない言葉を呟いた。私の自己満足の告白が、アルミンを完全にパニックにさせてしまったみたいだ。せっかくの誕生日にこんな顔をさせたかったんじゃない。この気持ちは胸にしまっておくべきだったのかも知れない、と反省しつつ謝り去ろうとすると、アルミンの腕がそれを拒んだ。



「そ、そうじゃないんだ…君が、余りにも僕が求めてる言葉を口にしてくれるから…僕が本当に言いたかった言葉は、その…僕もナマエ、君のことが好きなんだ!だから、君からおめでとうって言葉が聞きたかった…それが、それ以上の言葉がもらえるなんて!今日は今までで一番の誕生日だよ…ナマエ、」



抱きしめてもいい?、と遠慮がちに聞いてきたアルミンに照れながらも首を縦に振ると、暖かいものに体が包まれた。ああ、幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ。プレゼントをもらったのは、私の方かも知れない。



「アルミン、何度も言うけどお誕生日本当におめでとう。来年も、その先も、ずっとお祝いさせてね。」



そう言うとアルミンは両腕の力を強めてお願いするよ、と言った。11月3日。この日は私の中ですごくすごく特別な日になった。



(アルミンお誕生日おめでとう!)




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