kuzu

Special story

 愛おしい


「あ、あの…何かご用でしょうか?」


名前を呼び止められ、振り向けば思いもよらぬその姿に、思わずだらけきった背筋もピンとなった。…人類最強のリヴァイ兵士長だ。私のような一般兵に、兵士長様が直々に御用があるとは思えない。もしかして私、気付かない内に何か粗相をしでかしてしまった?嫌な予感が胸を過ぎるものの、心当たりは一つもない。しかし目の前の兵長は、眉間に皺を寄せ私を睨むように見つめている。誰がどう見ても、怒っている。覚悟を決めて、兵長の次の言葉を待つ。


「ミケのこと、どう思う?」
「へ?」


予想もしなかった言葉に、喉の奥から間抜けな声が出た。どうって…どう言う意味だろうか。いきなり話しかけてきて、我が分隊長・ミケさんのことをどう思うかと聞かれても…。謎は深まるばかりだ。


「そ、尊敬していますが…。」
「それだけか?」
「え、あ、…はい。」
「…なら良い。他に気がある奴がいるのか?」
「気がある奴、ですか…?」


気がある奴、と言うのは恋愛感情を持って気になる人と言う解釈で合っているのだろうか。しばらく考え込み首を横に振ると、兵長の眉間の皺は幾分か和らいだ気がした。一体何なんだ。


「それなら問題ないな。明日、朝十時に迎えに行く。」


そう言って兵長は私に紙切れを手渡した。これは…、ウォール・シーナの劇場で今週から開演されたすごく人気のお芝居のチケットだ。この前、ミケ分隊長が見に行ったと言っていてすごく羨ましいと思っていたところだった。…でも何故兵長が私にこれを?もしかして、デートのお誘い?


「あ、あの兵長…どうして私にこれを?」


私にチケットを手渡すや否や即座に踵を返して去ろうとする背中に問いかける。すると、いつもとは違った歯切れの悪い返事が返って来た。


「………余ったチケットをたまたまもらったが、もう終演まで日がないからな。たまたまそこに居たお前を誘っただけだ。」


そう言って兵長足早に去って行ってしまった。まだ充分に日があることが記されているチケットと、お世辞にも大きいとは言えない背中を交互に見つめる。刈り上げらた髪からは、後ろからでもハッキリと赤くなった耳が見える。人類最強の兵士でも、照れることもあるんだと思うと、妙に愛おしく感じてしまった。





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