kuzu

Special story

SO


二人でペアなんだね、お似合いだね、そんな言葉を周りにかけられる度に私はそうじゃないんだと声を大にして言いたかった。頬が被っている頭巾ほど真っ赤になるのを感じる。でも、片割れだと思われている隣の大男…ライナーはそれに気をよくして肯定してしまっているので私はもう、どうすることも出来なかった。


「たまには調査兵団にも息抜きが必要でしょ」、なんてハンジさんの粋な計らいで企画されたハロウィンパーティーは、予想以上に盛り上がっていた。私も人と被らないように、と赤ずきんの仮装を選び、確かに誰ともそれ自体は被らなかった。しかし、打ち合わせも何もしていないのに只今絶賛大げんか中のライナーが狼男の仮装をしてきたせいで、私たちは揃って仮装したバカップルのようになってしまっている。周りの冷やかしもそうだが、それにいちいち答えるライナーが最高に癪に障る。


けんかの原因は、そもそもすごく単純なことだった。訓練兵を2位で卒業し、憲兵に行く資格があったにも関わらず調査兵を選んだライナーは、ミカサ同様周りから特別扱いを受けた。一方私は、消去法でこの兵科を選びそんな私とエリートのライナーの差は広がって…そんなつまらない嫉妬からだった。そんな私の劣等感を知ってか知らずか、ライナーは私の腰に手をやり冷やかしに応じている。…むかつく。そもそも何でこんなことになってしまったのだ。


「おい、いつまでへそ曲げてんだ。好い加減機嫌治せ。」
「…ライナーがどっか行ってくれたらね。」
「なっ…!」


この一言はさすがのライナーにも響いたらしく、少し大人しくなった。と言っても、ライナーは狼のマスクをしているので表情までは見えなかったけれど何と無く想像がつく。…自分でも、くだらないことしてるって気付いている。だけど、ライナーの横で彼の実力や仲間からの信頼を思い知る度にやるせなさが胸いっぱいに広がって。もう、自分でもどうコントロールすればいいか分からなくなるのだ。私だって、出来ればライナーみたいになりたい。そんな卑屈な気持ちが、私を童話の赤ずきんとは程遠い捻くれた者にしていた。


私が冷たい一言を発したにも関わらず、ライナーはまだ私の隣で相変わらず腰を抱いているので、腹いせにマスクをしていて何も食べられないライナーの横で、出されたお菓子をたくさん食べてやった。だけど、ライナーはそんな私の子供じみた気持ちにはまるで気付かないように彼の班長と仲良くお喋りをしている。


「おっ、この前言ってた彼女か?可愛いじゃねぇーか!ライナー、お前にはもったいないほどだよ。大事にしてやれよ?」
「当然です。人にも巨人にも渡しませんよ。」
「じゃあ訓練にもより一層励まねぇーとな!ガハハハハ!!」


お酒の力もあってか、いつもより饒舌な囚人の仮装をしたライナーの班長がバンバンと彼の背中を叩く。…私のことに照れたライナーに、ほんの少し気分を良くなるのを感じる。私って、本当に単純だ。そしてその班長は、今度は私の方を向いて口を開いた。


「確か…ナマエとか言ったか?こいつな、訓練中もずっと君の話ばっかりして惚気ててほんと参っちゃうぜ!今日の仮装だってどこからか君が赤ずきんをするって聞きつけてそれでおおか、いてっ!何すんだよ!!」


班長が最後まで言葉を言わない内に、ライナーは班長が片手にだけ繋げていた手錠を思いっきりもう片方の手にも力を込めて繋げた。予期せぬその行動に手を痛めた班長が声を上げる。そして自由が利かなくなり、大声でライナーの文句を言う班長をそのままにして、今度は私の腕を取り早足で会場から飛び出してしまった。


「なっ、何すんのよ!!」
「いいからついてこい。」


そう言うとライナーは無言で歩き出した。ライナーにとっては早足かも知れないが、大股で歩かれては私は駆けないと追いつかない。いつもなら気にかけてくれるそんな些細なことも、今のライナーには見えていないようだ。被っていた頭巾は頭から外れ、持っていたバスケットの中身を落とさないようにしながら私も彼について行く。


すると、ライナーは自分の部屋の前で止まり扉を開けて私を入れるなり後ろ手でそれを閉め、その瞬間私を抱きしめた。その弾みでバスケットが手から落ち、中に入っていた林檎がコロコロと転がって行く。


「……格好悪いな、俺。」
「…え?」


力強く抱きしめられている腕とは裏腹に、か細い声でライナーはそう呟いた。


「最近、お前が俺に冷たいから…嫌われてるんじゃないかと思った。他に好きな奴でも出来たのかと思った。それで…今日のパーティーでペアの仮装をすれば、周りにも俺たちの仲が知れてナマエも機嫌を直してくれるかと思った…。」


思いもよらぬライナーの告白に、私は声も出すことを忘れて鈍い頭をフル回転させた。いつも、みんなにとって兄貴だったライナーがそんなことを悩んでいたなんて。そう思うと、今までの自分の気持ちなんてどうでもよくなり、むしろ私の醜い嫉妬がライナーをこんなに悩ませてしまっていたなんて、と考えると申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。


「ライナー…ごめんね。ライナーがそんなこと考えていたなんて…好きな人なんか、ライナー以外に考えられないよ…。」


そう言ってライナーの大きな背中を抱きしめ返すと、ビクッと震えたあとに更に腕に力を込められ肩に頭を預けられた。本来なら暖かいはずなのにマスクの無機質な冷たさが私の肩を冷やす。


「これ、取っていい?」


そう言ってマスクに手をかけると、ライナーの腕がそれを拒んだ。きっと、照れて真っ赤になっているんだろうな。だけどこれじゃあ、


「キスだって出来ないじゃん。」


そう言うと、ライナーは素直にマスクを外した。なんて現金な奴なんだ。そう思いながら何時間ぶりかのライナーの素顔を拝めると、やっぱり案の定真っ赤にしていて。そんなライナーが最高に愛おしい。


照れたライナーの顔にそっと近付きキスを落とすと、床に転がったバスケットの中からお菓子を取り出してライナーに渡した。けんかしてる最中だったのに、ライナーに渡すために特別に他の人とは違うものを用意していたなんて、私も結局ライナーが大好きなんだろう。


そんな私を見てライナーはニヤッと笑って私を横抱きにし、ベッドに向かった。突然のその行動に訳もわからず、手足をバタつかせ抵抗を試みる。しかしそれは全く効かないようで、この狼男は私をベッドに沈め自分もその上に跨ってきた。



「ちょっ、待ってよなんで…!?ほら、お菓子だよお菓子!お菓子もらっちゃいたずらしちゃだめなんだよ!」
「誰が決めたんだ?そんなこと。…これならトリックソウトリート、だな。」


そう言ってライナーはまたニヤッと笑った。窓から差し込む満月の光りが、それを余計妖しく見せた。


トリックソウトリート…"お菓子くれてもいたずらするぞ"、なんて聞いてない。




(彼が狼なのは今夜が満月だから?)


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