kuzu

Special story

YET

「ね、ナマエ!リヴァイあれ着てくれるかな!?」
「あれ以外着替えがないんですもん、着るしかないでしょう!」


歯まで付けてくれてたら最高なんですけどね!、と付け加えるとハンジさんがニヤッと笑った。私もそれに釣られて頬を緩めると2人して堪えられなくなり、とうとう声を上げて笑う。ハンジさんから、今日はハロウィンと言う日だと聞いた。この日には仮装をした人がお菓子を求めて彷徨うらしい。ならば、と先ほどお風呂へ行ったリヴァイ兵長の着替えを、ハンジさんが持ってきたバンパイアの衣装にすり替えたのだ!お馴染みのマントや尖った付け八重歯まで持っていて、一体どこでそんなもの手に入れたんだろうと疑問に思ったが、今はそんなことどうだっていい。兵長のバンパイア姿なんて、こんな機会がなければ一生お目にかかれないだろう。


「ハンジ分隊長!先日の件の書類が完成しました。すぐに目を通して頂きたいんですが。」


するとそこに、そんな私達を怪しげに見ながらモブリットさんがやって来た。ハンジさんはさっきのご機嫌から一転して顔をしかめる。


「えっ、それ今じゃなきゃだめ?今すっごく忙しいんだけど。」
「忙しいって、今めっちゃ笑ってたじゃないですか!ダメですよ今じゃなきゃ!さぁ、行きましょう!」
「ちょっと待ってよモブリット!これから面白いものが見れるから、」
「はいはい、行きますよ。」
「えーっ!!」


さすがモブリットさん。慣れた様子でハンジさんを連れて行ってしまった。部屋には静寂が訪れる。きっと、リヴァイ兵長は誰が着替えをすり替えたかすぐに気付くだろう。そうなれば、私の部屋であるここへ必ず来るはずだ。そんなことを考えていると、


ーーーガチャ


ノックもされずに乱暴に扉が開かれ、そちらを見ると私とさほど背の変わらない、マントを纏ったバンパイアが立っていた。眉間には深く皺が刻まれ、口はへの字になっていて誰がどう見ても怒っている。もっとも、機嫌のいいバンパイアなんか見たことないけど。


「リヴァイ兵長!」
「てめぇ…これはどういうことだ。」


その姿が堪らなく決まっていたため、思わず走って抱きつきに行くと、兵長はそれを受け止めつつも私に非難の目を向けた。まだ一言も「私がやりました。」なんて言ってないのに、この人には何でもお見通しらしい。って言うかハンジさんも共犯だけど。


「へへへ。素敵な兵長が見たくて、やっちゃいました。とっても似合ってますよ?でも私だけじゃなくてハンジさんも一緒に、」
「俺がここまでの道のり、どれだけ恥ずかしかったと思ってやがる。きっちりその返しをしてもらわねぇーとな。」


そう言って兵長はニヤリと笑った。その口にはご丁寧にあの八重歯まで付けられている。恥ずかしいとか言って実はすっごく乗り気じゃないか…!なんて思ったけど、そんなことは口に出来ないので飲み込む。その顔に見とれていると、兵長は私を抱え近くにある椅子に腰掛けた。私は、兵長の膝の上だ。


「巷では、今日はハロウィンとか言う日だと盛り上がってるらしいな…。ナマエよ、それで俺にこんな格好をさせたのか?」
「そ、そうです…。」
「ほう。なら、どんな日か知ってるんだな?」


そう言って兵長は、私の肩にかかった髪の毛をサラリと払い耳にかけ、付けていた八重歯を取った。確か、仮装した人がお菓子をねだる時になにか合言葉のようなものがあるとハンジさんが言っていた気がする。何だったかな…?


「トリックイェットトリート。」


露わになった鎖骨を指でなぞりながら、兵長が言った。ああ、確かそんな感じの言葉だった気がする。意味も分からないその言葉に「お菓子ですよね。」と返して膝の上から退こうとすると、


「…いや、俺は"お菓子はいいからいたずらさせろ"と言ったんだが?」


そう言って、その鎖骨に吸い付かれた。本当に吸血されるんじゃないかと言うほどに吸い付かれ、思わず喉の奥から声が漏れる。その間、兵長の両手は私の腰から胸辺りを嫌らしい手つきで撫で、私は嫌でも気分が高揚してきた。


「腰が動いてるぞ、ナマエよ。何を想像している?」


そう言って兵長は口角を上げ目を細めた。さっき部屋へ訪れた顔とはまるで違う。初めて、ご機嫌なバンパイアを見た。…って言うか、あっさり流されてしまったが"お菓子いいからいたずらさせろ"ってハンジさんから聞いた話と全然違うぞ!慌てて抗議しようと口を開くとその口すらも兵長のもので塞がれてしまって、もう何も言えなくなってしまった。




(頭がボーッとしてきたのは、吸血されたから?)


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