kuzu

Special story

AND

「本当に、これ全部巻くの?」
「そうだよ。足りなくなったら買い出し頼むから大丈夫。」


私がそう言うとベルトルトはいつも以上に冷や汗をかき、私に心配そうな目をよこした。10月31日に行われる文化祭で、お化け屋敷をすることになった私達1年4組は話し合いの結果、ベルトルトをミイラ男にして脅かし役にすることにした。受付役の私は特に準備も何もないので、こうしてベルトルトの全身に包帯を巻くお手伝いをしているのだ。普段使われることのない空き教室には私とベルトルトだけが、今までに見たことのないほどの数の包帯に囲まれて苦戦している。


「それにしてもベルトルト、こうして見ると本当に大きいね。多めに買ってきたつもりだったけど、足りるかな…。」
「何も頭のてっぺんからつま先まで巻かなくても、見える範囲だけでいいんじゃない?」


そう言ってつま先から巻き出した私にベルトルトが声をかける。いやいや、それじゃ完全なミイラ男じゃないじゃん!全身に巻いて、泣き喚く参加者を追いかけたっていいんだよ、と言うと上から私に困り顔を向ける。


「ナマエってさ、ちょっと意地悪だよね…。」
「え?これは意地悪って言わないよ!参加者は好んで私達のお化け屋敷に来るんだよ?脅かされて欲しいの!だからベルトルトは、それに応えなきゃ!」


…ね?と首を傾げると、ベルトルトはうーん、と納得していないような表情を見せた。きっと、ベルトルトの性格からして参加者を追いかけるどころか、精々突っ立っているのが精一杯だろう。なら、出来るだけ多くの参加者に気付いてもらえるよう本格的にしなきゃ!そう意気込みながら肩まで巻き終わると、またベルトルトが口を開く。


「そう言えば今日はハロウィンだね。」
「そうだね!ベルトルト、さっかく仮装するんだし、あの言葉私に言ってよ!」


そう目をキラキラさせて答える。今日はハロウィンのためにお菓子をたくさん用意したのだ、どうせならベルトルトにも言って欲しい。きっと、脅かし役の人は大忙しでお昼を買いに行く時間もなさそうだし。


「と、トリックアンドトリート…?」


ベルトルトが遠慮がちに呟く。待ってましたとばかりに私は鞄から昨日頑張って詰めたお菓子の詰め合わせを取り出した。


「はい!ハッピーハロウィン!」


お菓子をベルトルトに手渡そうと腕を差し出すと、その手をぐいっと引かれる。バランスを崩した私はベルトルトの胸へとダイブしてしまった。


「えっ!?」
「ナマエ、ちゃんと僕の言ったことを聞いてた?僕、"トリックアンドトリート"って言ったんだよ?」


そう言って、ベルトルトが不適な笑みを浮かべる。と、トリックアンドトリート…?


「"お菓子くれたらいたずらするぞ"って意味だよ。」


そう言ってベルトルトは片腕で私を抱きながら、もう片方の手で私があげた詰め合わせの中からキャンディを取り出し、その包み紙を開き私の口に入れてしまった。


「じゃ、まずは口移しで僕にそれちょうだい?」
「なっ、何言ってるの…!そんなことしてる暇、あっ、」


私が最後まで言葉を言わない内に、ベルトルトが私の口に自分のそれを近づけ無理やりキャンディを奪ってしまった。口の中が甘いのは、キャンディのせいだけじゃない気がする。


「じゃ、今度はナマエの番だよ?」


そう言ってベルトルトは口をあーんと開けてその中に入ってあるキャンディを私に見せた。手で取ろうとすると即座に掴まれる。


「僕の言ってることを、分かってるよね?」


ニコッと笑うミイラ男に、私は従うしかなかった。




(彼がミイラ男になりきれなかった理由は、みんなには内緒)


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