kuzu

Special story

OR

「ナマエ、トリックオアトリート。」


聞き慣れた声が聞こえて重い瞼をこじ開けた。え、もう朝?寝ぼけた声でそう聞くとまさか、といつものニコニコ笑顔で答えられる。ベッドの脇に置いてある時計を見ると、まだ私が眠りについてから二時間しか経っていなかった。


「何なのアルミンこんな夜遅くに…。って言うか、何その格好?」


まだキチンと目が開けられない私の瞳に、うっすらとアルミンが映る。こんな夜遅くに何の用だ、と尋ねようとしたらふと彼の着ている服が目に止まった。


「魔女…ですか?」


よく分からない衣装を身に纏ったアルミンはいつもの百倍可愛く見えた。性別が逆だったら襲ってしまっていたかも知れない。そんな私の問いに彼はぷぅ、と頬を膨らませた。


「もう!これのどこが魔女なんだよ!魔法使いに決まってるじゃないか!」


そう言ってアルミンは頭に被ったいかにもそれっぽい帽子を脱いだ。そうそう、その帽子が余計魔女っぽく見せてるんだよ。って言うか、この類のコスプレで魔法使いって見たことないぞ?魔女だろ普通。私の感性は間違ってないぞ。私が無言でいるとアルミンは再度、先ほど私に発した言葉を呟いた。


「トリックオアトリート、だよ?ナマエ、聞いてる?」
「き、聞いてるけど何それ?」


そう答えるとアルミンは待ってましたとばかりににやっとして説明しだした。アルミンがこの顔をするのは、良からぬことを考えているときだけだ。



「本で読んだんだけど壁外のある地域では、ハロウィンと言って仮装して練り歩く行事があるんだ。その時に"トリックオアトリート"、つまり"お菓子くれなきゃいたずらするぞ"って言ってお菓子をもらうんだって!」


そう言ってキラキラと目を輝かせるアルミン。なんだか子供みたいだな、私もまだ子供だけど、なんて思いながら興奮してきたアルミンをとりあえず落ち着かせる。


「ちょ、ちょっと待ってよ…アルミン、わざわざ仮装して色んな人に会いに行くほど、そんなにお菓子が欲しいの?サシャじゃあるまいし。」
「色んな人って、僕はナマエにしか会いに来てないよ?それに、僕の狙いは」


お菓子じゃなくていたずらだから、そう言ってアルミンは先ほどのキラキラした目から一転、その衣装に似合わないキリッとした目をした。その瞳の奥には、何かタダならぬものが潜んでいる。


「えっ?なに、それってどういう、」
「ナマエ、この前ダイエットしてるって言ってたし、お菓子なんか持ってないでしょ。だからいたずらするね。」


そう言って遠慮なく布団を捲り、中へと侵入してきた。「い、いや、待ってよ、」なんて制止の言葉も聞かずにすっぽりと同じベッドにおさまる。さっきまで被っていた帽子も、いつの間にやらベッドの下に置き去りにされている。


「ねっ、ちょっと、ちょっとだけ待ってよ!探せばあるかもしれないから!ね?お菓子見てくるよ!」
「いや、遠慮しとくよ。さっきも言ったけど、これはただの口実で本当はいたずらしに来たんだ。だからお菓子はいらないよ。ナマエはじっとしてるだけでいいから…さ。だから、」


大人しく、いたずらされてくれる?と小粋に笑う魔法使いに、ひれ伏すしかなかった。




(12時を過ぎても、魔法はとけない)


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