kuzu

Short story

一石二鳥


「え、ジャンとデート?!」


首からぶら下げた、クリスタ特製押し花ネックレスを見せながら明日の予定を言うと、彼女は元々大きな目を更に大きくさせて言った。で、デートなんかじゃないよ!、と私は訂正したがまだまだ納得がいかないみたいだ。


「ちょ、ちょっと待ってよナマエ、ナマエはこの前アルミンに、」
「あ、うんあれね…ちょっとびっくりしちゃったけど、アルミンの言ってることもよく分からないよね。特別ってなんだろ?」


頭を抱える私に、クリスタははぁとため息をついた。まぁでもこれは、私からは言わない方がいいよねきっと…、と意味深な言葉を返される。


「でも、どっちに転んだって私はナマエのこと応援するからね!」


???、と思っているとクリスタは明日はおめかししなきゃ!手伝うよ!、と張り切っていた。何かよく分からないけど、久しぶりのお休みにケーキ屋さんとプラネタリウム…、と私は明日のことを思うと興奮して中々寝付けなかった。


翌朝、何故か目覚まし時計より早くクリスタに起こされた私は髪の毛やらお化粧やら、普段しないことを彼女にしてもらい、既に女子寮の前で待っているジャンと街へ出かけた。何故か時々黙り込んだり、顔が赤くなっているジャンと一緒にケーキ屋さんに行ったり、プラネタリウムを見た。ケーキ屋さんは、評判通りすごく美味しかったし、ジャンが予約してくれたお陰ですんなり入ることが出来た。プラネタリウムだって、普段見上げる夜空とは段違いに綺麗で感動した。暗闇の中、怖いだろ、とジャンは乱暴に私の手を繋いだ。訓練でもっと暗い森の中に入ってるんだし平気だよ、と私は言ったけどジャンには聞こえなかったみたいだ。


そうこうしている内に日は沈み、帰らなければいけない時間になった。今日一日、とても楽しかった。最後に、立体起動装置の部品を買いたいと言ったジャンに付き合い部品屋さんに寄ると、そこには見慣れた金髪が目に入った。


「あ、アルミン!」


プラネタリウムを出てからも、気付けば手を繋いでいたジャンの手をゆっくりと離して、私はアルミンに近づく。アルミンの顔は一瞬、私とジャンが手を繋いでいるのを見て嫌な顔をしたような気がしたが、すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。確かに変だよね。付き合ってもないのに手を繋ぐなんて。でも変といえばこの前アルミンは私に、


「あれ、ナマエ。今日はいつもと雰囲気が違うね。もしかして、お化粧してる?それに、普段は結ってる髪も今日は下ろしてるんだね。とっても可愛いよ。僕はこっちの方が好きだなぁ。」


それにそのワンピースもナマエによく似合ってるね、とアルミンは私の長い髪を手の甲でなぞった。アルミンから出た素敵な言葉たちに、私は顔を赤くする。オシャレに疎い私だって、クリスタが朝早く起きて施してくれた"魔法"はいつもより私を良く見せてると思った。だけど、ジャンは何も言ってくれなかったから、やっぱり私にはこういうのは似合わないのかな、と思っていたのですごく嬉しい。


「なっ…!!テメェ何でここにいやがる!!」


走ってきたジャンがいきなり大声を上げてアルミンの胸ぐらに掴みかかった。店内にいる人が一斉に私たちの方を向く。え、何やってるのジャン、私が声をかける前にアルミンが口を開いた。


「昨日言ってた先輩に、もう予定があるからって断られちゃって。それで、やっぱり僕も町に来ることにしたんだ。僕がここに居たら、何か都合悪いの?ジャン」


さすがアルミン。ジャンのいきなりの行動にも焦らずいつもの和かな表情を崩さない。昨日マルコと話してたら、ジャンは道具屋に行きたがってたって言ってたから、と続けて自分の胸ぐらを掴むジャンの手を振りほどいた。ちくしょうマルコのやつ覚えとけ、とジャンが悪態をつく。何の話をしてるのか私にはさっぱりだ。


「おいナマエ。こんな奴ほっといてさっさと帰るぞ、」
「もうそろそろ帰らなきゃね。アルミンも、一緒に帰ろう?」


ジャンに右手を掴まれ、引っ張られるのを少し踏ん張って抵抗して、私は左目でアルミンの手を掴んだ。アルミンは私の左手をぎゅっと握り返して、そうだね、僕もお供させてもらおうかな、と言った。


「だから!なんでこいつも居んだよ!」
「何言ってるのジャン?同じ場所に帰るんだから一緒に帰ったって同じじゃない。」
「っざけんなっ!何で邪魔されなきゃなんねーんだよこの野郎!アルミン、お前は一人で帰れるな?!」


なっそうだよな?!、とジャンが睨みを効かせてアルミンに言った。少し、アルミンが怯んだ気がする。そのあと悲しそうな顔をして、


「…そうだね。ジャンは、僕が一緒に帰るのが嫌みたいだ…。僕は、一人で帰ることにするよ…。」


そう言って私の左手を離した。そんな、可笑しいよ、


「ジャン!何でアルミンにそんな意地悪言うの?!みんなで一緒に帰ろうよ!!」
「なっ……」


私はそう言って、空いた左手で再度アルミンの手を握った。今度は離されないように、強く。


「こうすれば、一石二鳥だね?」
「「…………」」


帰り道、嬉しそうに今日買った本の話をするアルミンに、抜け殻のように何も話さないジャン。何かよく分からないけど、みんなで仲良く帰ってくることが出来た。今日はすっごく楽しかったな。めでたし、めでたし。





(おい、何だよあの三人…手なんか繋いであんなに仲良かったか?)
(アルミンとジャンは、ナマエが居れば仲良し。それよりエレン、今度の休みは私と、)




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