「あの…、無理にとは言わないんだけどさ、その…僕のこと、友達とかじゃなくて、もっと…特別に、見てもらえないかな…?」
訓練の帰り道、一人で歩いていると珍しい花を見つけた。5.6本群れをなしているように、そこだけに咲いたピンクの花を見ると、ナマエのアホ面が浮かんだ。あいつ、こんなの好きだろうな。花なんて柄にもねぇが、あのアホの喜ぶ顔が見たくて一本むしり取る。夕食までに見せてやりてぇな。そんでそのまま食堂に行ってあわよくば、二人隣同士に座って飯も食って…、と顔がにやけるのを抑えながらナマエの姿を探す。そういやあいつ、たまに書庫にいるのを見かけるな。思い出したや否や、俺の足は勝手に歩き出す。そしてーーー冒頭に至る。
「…え?アルミン、それってどういう、」
考えるよりも先に気付けば俺は書庫の中へ飛び込んでいた。書庫には俺の探していた姿があったが一人ではなかった。もしかしたらと前々から思っていた不安が、今確信に変わった。アルミンのやつ、やっぱりナマエのことが…。
「じゃ、ジャン!!」
「ジャン?!」
驚くナマエに、ナマエ以上にもっと驚いたアルミン。後ろからナマエの肩に腕を置き、肘掛けのようにしながら言う。
「こんなとこで何してんだ?お二人さん。」
ハッとしたアルミンの顔に向かい、"させるかよ"と口を開くと、その顔は驚きから怒りの表情に変わった。ナマエより後ろに立っているので、ナマエには俺の顔は見えない。
「ナマエ、お前に見せてぇもんがあるんだ。来てくれ。」
「え、あ、うん…。」
そう言ってナマエの肩を抱きながら去ろうとすると、ナマエの右腕が奴に捕まった。やっぱり、一筋縄ではいかねぇか。何だアルミン、としらを切ろうと振り返ると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
「んぅっ…」
片手でナマエの右腕を掴み、もう片方の手で小さな頭を捉えたアルミンは、そのまま首に手を回すような形でナマエに近付き、その唇に自分のそれを添えていた。
「て、てめぇ何してやがる!!」
急いでその手を振りほどき、ナマエをアルミンから遠ざけると濡れた唇を見せつけながら、してやったりといった顔をした。
「僕は今、ナマエと大事な話をしてるんだ。悪いけどジャン、あとにしてくれないか?」
「あ、アルミンいきなり何を…ジャン、とりあえずあとから行くから先に行っててくれない?」
顔を真っ赤にさせたナマエが今度は肩に回した俺の腕をやんわりと離して行った。こう言われてしまえば、取りつく島もない。それより俺は、今目の前で起こった出来事にショックを受け、立ち去る他の選択肢を考えることが出来なかった。
「…チッ」
踵を返し、書庫を出ようとする俺の情けない背中に、アルミンが追い打ちをかけた。
「人の何とかを邪魔するやつは、馬に蹴られて…何だっけ、ジャン?」
ビクッとして思わず足を止めるが、返す言葉も思いつかずにそのままドアを乱暴に閉めた。後ろから「え、何?馬?ジャンのこと?」なんて何も状況を読めていないナマエのアホの呑気な声が聞こえて、そのあと「違うよ。ジャンが蹴るんじゃなくて、ジャンが蹴られるんだよ。」なんてふざけた解説が聞こえて俺はトボトボと歩く。情けねぇ、アルミンの野郎覚えてやがれ。