kuzu

Short story

上手なヤキモチの妬き方
「もう、リヴァイなんて知らない!」


パチンと渇いた音と衝撃で、俺は頬をぶたれたのだと理解した。驚いていたからか、不思議と痛みは感じない。そして、こう叫ぶなりナマエは部屋を出て行った。…どうやら彼女を怒らせてしまったらしい。目に涙のようなものも溜まっていたような気がする。あそこまで怒っている彼女は初めて見た。…よっぽどのことがあったんだろうな。ただ、


「何で怒ってんだよ…クソッ。」


思い当たる節が一つも見当たらなかった。最近構ってやれなかったからか?…いや、仕事でバタバタしていたことは同じ調査兵なんだから分かっているはずだ。そんなことで怒るほど器の小さい奴じゃない。それにほんの一秒ほど前までいつもナマエだった。今更その件に対して怒るのは可笑しい。なら、昨夜紅茶を入れてこいと命令したからか?あれは二人になる口実を作るために職権乱用してしまったのだが、…それか?いや、昨日俺の部屋に来たときは嬉しそうにしていた。そしてそのままなし崩しに朝を迎えた。俺のベッドで「おはよう」と言ったナマエはむしろいつにもましてご機嫌にも見えた。それが、一緒に朝食を取り他愛のない話をしたところで、態度は一変し…さっきのアレだ。一体何があったと言うのか。…兎にも角にも、ナマエを探さなきゃならない。そう思い俺は部屋を飛び出した。


ナマエの部屋、お気に入りの庭、書庫…手当たり次第探してみたがどこにも居なかった。…まさか家出?いやいやこの兵舎を出てどこに行くと言うのか。ナマエの実家はここからだいぶある。まさか、明日の仕事も放棄するつもりで帰ってしまったのだろうか。…浮かんでは消える可能性に足を止めていると、今度は聞き覚えのある声が俺の思考をストップさせた。目の前の部屋から聞こえる。ここは…


「それで…好い加減、泣いてる訳を話してくれないか。」
「り、リヴァイが……うっ、ひっく…はっ…ジ、…んっと、」


いつも通り穏やかな、部屋の主エルヴィンの声と泣きながら俺の名を言ったナマエ。そのあとが嗚咽交じりで聞こえなかったが、やはり俺に原因があるらしい。


「……そういうことは、二人で直接話し合うべきだ。ほら、丁度そこに居るし。…いいね、ナマエ?」


そう言ってエルヴィンは扉を開けた。…そこには当然俺が居るわけで。俺の姿を目に捉えたナマエはハッと気まずそうな表情を顔に浮かべた。


「さっきのこと、リヴァイにももう一度言えるかい?」


まるで子供をあやすようにナマエの頭を撫でながらエルヴィンが言った。…気に食わねぇ。俺の知らないナマエのことをこいつが知っていることも、ナマエが何故かこいつの部屋に居たことも。


「…む、無理です…。」
「じゃ、リヴァイと仲直り出来なくてもいいんだね?」
「それは…」
「じゃあ、私の口から言おうか…。リヴァイ、ナマエは君とハンジが二人きりで実験をしたと聞き、ヤキモチを妬いたそうだ。」
「…………あ?」


何だと?、と付け加えるとナマエはエルヴィンの背中に隠れ俺の様子を伺った。……ハンジ、だと?一体どこからあのクソメガネが湧いてきたんだ。今朝のやり取りを必死で思い返してみる。……あぁ、確かに昨日奴と二人で実験をしたと言ったような気がする。思えば機嫌が急変したのもその直後だった。


「二人っきり…か。フン、そう言えば随分聞こえが良いが実際は巨人も二体居たわけだが。」
「え…?」
「クソメガネの実験っつったらそれしかねぇーだろうが。」
「あ……、でもモブリ、」
「モブリットは別件で動いていた。でなきゃ俺があのクソメガネの実験なんかに付き合う訳ないだろ。…これで誤解は解けたか?」


それだけ言うと、今までずっとナマエの頭の上にあったエルヴィンの手を払いのけナマエの肩を抱く。機嫌を損ねたのは、今度は俺の番だった。


「…ならナマエ、次はてめぇが説明する番だ。何故エルヴィンの部屋にいた?」


ナマエをエルヴィンから離し肩を抱き、自分の腕の中に収めても機嫌は治りそうになかった。かと言って、自分の今の気持ちを上手く説明出来るわけでもない。この件に関してはナマエの方がうわてだったな、と思い俺は再度ナマエを連れて部屋へと戻った。




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