kuzu

Short story

セイシを賭けた戦い


「…何を悩む必要がある。さっさと答えろ。」


あまりにも理不尽な言葉に思わず石化する。あれ、こんなこと巨人の前でもならないのにな。私にとって、巨人並みに恐れている人物・リヴァイ兵長はいつも以上に眉間に皺を寄せ私の答えを待っている。


私に調査兵団をやめろ…って…?


「何もやめろとは言ってないだろう。やめたくなければ俺の女にな「いやいやいやちょっと待って!」


私の心情を察したように兵長は口を開いた。そうこうしている間に兵長はどんどん私との距離を詰めてくる。時間は夜の十時。昨日から調査兵団本部の古城に移った私達は、訓練を終え各々部屋で休んでいる時間だ。大声で助けを求められる時間ではない。そしてここは兵長の部屋。仮にそれをしたところで、誰も入ってこないだろう。明日の件で話があると言われノコノコついてきた私が馬鹿だった。そんな話があるなら、わざわざこんな時間に呼び出す訳あるまい。


「わっ、私は人類の為に心臓を捧げた身でありますっ…!そうやすやすと兵士を辞めるわけにはいきません!」
「なら決まりだな。」


ニヤリ、と口角を上げ普段見たことのないような顔を見せた兵長が、心臓を指した私の右手こぶしを手にとり、それを自身の唇に当て、きっ…きき…きっすを…


「ち、違います!そういう意味ではありません!」
「何だ。まだ分からないのか。俺の女になれ。無理なら調査兵団をやめろ。それだけだ。」


私の右手が兵長の唇に触れるギリギリのところで、兵長は動きを止めた。どういう意味だ?兵長の意図がまるで理解できない。


「考えるな。そんなに出来た頭でないことくらい分かっている。何がそんなに難しい?調査兵団を辞めるか、俺の女になるか、簡単なことだろう。そしてお前は兵士を辞めないことを選んだ。これがどういう意味分かるか?なぁナマエよ。」


私の右手を握る力を込めて、兵長が私をじっと見る。前々から何かにつけて私につっかかってくると思っていたが、まさかこういうことだったとは…。職業柄、色恋沙汰にはとんと疎い私は、てっきり嫌われているものだと思っていたのに。兵長の言うとおり、もう少し出来た頭を持ち合わせていれば兵長の気持ちに気付き、事前に回避することが出来たのだろうか。


「…先ほども申しましたが私は人類に、」
「ああ聞いた。だからこれからは俺にも心臓を捧げろと言っている。」


何言ってるんだこの人。頭でも打ったのか?冗談でしょう、と小声で呟くと兵長は先ほどニヤリと笑った際に薄らいだ眉間の皺をまた深くさせた。どうやら本気らしい。一体どうすれば…。


「なっ…なぜ兵長のお、おん、おんなにならなければ、私は兵士をやめなければならないのでしょうか…?」


握られた右手を振りほどき、再び何故か自分の左胸にそれを当てた私は、兵長に問うた。"兵長の女"だなんて、口にするだけでむず痒い。


「決まっているだろう。お前を死なせたくないからだ。」
「私が死ぬことと兵長の女になることとどういう関係が…?」
「ごちゃごちゃ考えるんじゃねぇ。俺の女になるなら、俺が死んでもお前を守る。だからお前は死なない。しかしお前がそれを拒むのであれば、調査兵団はやめて危険の少ない憲兵団にでも入れ。俺が口聞きしてやる。」
「わっ、私は兵長なんかに守られなくても死にません!!」


グッと右手に力を込めて言う。それと同時に兵長はムッとした。(いや、実際はそんな可愛いものではなかったが)


「どの口が言ってやがる。確かにてめぇは腕が立つが、危なっかしい。見ていて冷や冷やする。実際何度も巨人に喰われかけている。俺が居なければ、今頃巨人の胃袋の中だ。」
「うっ…。」

痛いところをつかれ、ぐうの音も出ない。私が何も言わないことをいいことに兵長が話を続けた。


「てめぇにとっても悪い話じゃねぇ。俺の女になると言うなら、俺が直々に毎日手解きしてやろう。」
「そっ、それはとても魅力的な特典ですが…お断りします。私は兵長に守られなくても、自分の命や人類を守れるように精進しますので…」


そう言って後退りすれば兵長ははぁ、と盛大にため息をついた。


「口で言っても分からないようなら、体に分からせるしかないようだな。てめぇ、俺に手解きされることを魅力的な特典だと言ったな?今回は特別だ。」


兵長はそう言うと屈むような姿勢を見せ、私の脇と膝裏にそれぞれ腕を忍ばせた。ま、まさかこれは俗に言う…


「い、いやぁ!おろしてくださいっ!」
「うるせぇ。何時だと思ってやがる。まずはその口から塞いでやろうか。」


ふわりと自分の身が宙に浮くのと、"お姫様抱っこ"たるものをされていると気付いたのはほぼ同時だった。兵長はそのままゆっくりとベッドに向かって歩きだし、そこに私を優しく寝かせた…ではなく文字通り放り投げた。皺一つない、洗剤と微かに兵長の匂いの交じるシーツの上で身が弾む。そして間髪を入れずに兵長は私の上に覆いかぶさってきた。もうダメだ。捕食される。


「兵長!早まらないでくださいっ!これは一体…?!」
「馬鹿言え。俺はいつでも正気だ。俺は気が長い方ではない。お前の返事をチンタラ待っている暇はない。魅力的な特典とやらを体に分からせてやる。」
「えっ?!手解き…ってそっちの?!いやいや違います、こんなの望んでません!やめて下さいっ…ってきゃあ!」


不意に腰のラインをなぞられて声を上げると、兵長はビクッと動きを止めた。そのあとほう、と何を考えているか分からないいつもの表情を浮かべた。


「そんな声が出せるとはな。手解きする甲斐がある。」
「ちょ、ちょっとどこ触ってんですか?!や、やめてくださいって!い、いやぁ…!」


これから始まるであろう"魅力的な特典"に、恐怖を浮かべる私と少し口角の上がっている兵長。それは夜が開けるまで続いた。私の色気のない、素っ頓狂な声が古城全体に響き渡っていたとは知らずに。




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